346、破戒の浄眼
さて、質問タイムといこうか。
「マジでリゼットを狙ったの?」
「うむ。この時間ここが手薄になるとの情報が入ったからな。ダミアンめ諸共始末できる見込みだった……」
マジか……そんな都合のいい情報を信じるようなタイプじゃないだろうに……
「じゃあ居ないと分かって燃やしたのはなぜ? 何もせず帰ればそれで終わりじゃん。」
「だから嵌められたと言ったであろう……もうあの二人を始末する機会は今この時しかなかったのだ。それが失敗に終わった以上少しでも足掻くしかなかろう……」
なんだそれ?
「意味が分からん。月末のパーティーまでもう二日あるじゃん。今この時しかないってどういうことよ?」
「ふ、自分がどう見られているかもう少し自覚するがよかろう。今日の夕方からパーティー当日まで、魔王カースが二人の護衛をするとの情報が入ったからだ……今思えば、こちら側を暴発させるための手管だったようだな……」
昨日の今日でえらく情報早いな。いや違う。護衛を決めたのは一昨日だ。だったら昨日襲えばよかっただろうに。まあ、村長がいるからどっちにしても関係ないんだけどさ。
「その情報が入ったのっていつ? 誰から聞いた?」
「ふ、昨夜だ。儂のところに知らせが入ったのは、アジャスト商会からだ」
えらく遅いな。およそ二十四時後かよ。でも読めた。ついにリゼットが切り札を切ったんだ。一昨日、あの場にいなかったポンコツ護衛のジャンヌ。つまり私が護衛をすることを知ったのが昨日なんだろ。昨日の昼間は護衛があるから離れられずアジャスト商会への報告が夕方になったってとこだろうな。
そこでリゼットが情報を操作したんだ。今日の夕方から私が護衛に着くと。本当は昼からだったのに。それと同時に警備が薄くなるような情報もポンコツ護衛に渡したに違いない。まんまと食いついたわけだな。
リゼットは言ってたもんな。土壇場で一度だけ役に立ってもらうってさ。そのために今までずっと役に立たないどころかスパイである護衛を雇い続けてたんだもんなぁ。リゼットとダミアンが結婚を決めた時、夜道で襲われたのだってあいつの仕業だろうし。本来ならあの時点でスパイの任務は全うしていたはずなんだよな。惜しかったねぇ。
さて、これだけ聞けばもう充分かな。もう用済みだから殺す……と言いたいところだが、ちょっと困ったな。私このジジイ嫌いじゃないんだよなぁ……
かと言って生かしておいたら何するか分かったもんじゃないし。今だってもう傷が完全に治ってるし。どこが死に損ないの年寄りだよ……
「それより……話しにくくてかなわん、もそっと近寄ってはどうなのだ?」
「嫌だよ。いくら契約魔法かけてたってあんたは油断できないからな。それよりもドストエフに戦力はないのか?」
「くく、今を時めく魔王カースにそこまで言われるとはな。儂もまんざら捨てたものではない、か。戦力か……あるはずがなかろう。秘書、副官、護衛で数人が残っておる程度だな」
マジで残ってないのね。それでもジジイはドストエフの味方だったわけか。あれ? そういえば……
「アジャスト商会ってドストエフを見限ったんじゃなかったっけ?」
「儂が個人的に付き合いがあるというだけだ……」
個人的な付き合いで得られる情報じゃないだろ。つまりアジャスト商会としてもまだドストエフが勝つかもって思ってたり? どうせこのままじゃ領都から追い出されるってんで悪あがきでもしてんのかねぇ。あ、違う。アジャスト商会としては長男派と三男派が争ってくれた方が都合がいいのか。あいつらもうクタナツ代官に乗るしかないんだもんな。まあ、それはいいや。
「ふーん、どっちにしてもまだ諦めてないんだろ? あんたも、ドストエフも。おっと、そうそう。今かかってる契約魔法を解除するような真似もするなよ? 逆えないのは分かってるが解呪するなってのは言ってなかったからな。」
「く……なぜそこまで儂ごときを警戒するのだ……」
おっ、どうやら正解だったようだな。
「あんたが俺を警戒するのと同じだろ。とにかく熟練の年寄りってのは油断できないのってあるあるじゃん? 俺の知らない切り札をいくつ持ってるか分かったもんじゃない。で、どんな切り札を用意してたんだい? 取り出すなよ? 口で教えてもらおうか。」
本命は『神酒の欠片』ってとこか。無限に体を修復してしまうやつ。別名『食べる偽エリクサー』だったか。でも魔法使いが使うのは大抵こっちじゃないよね。
「くっ……『破戒の浄眼』だ……」
何? 私それ知らない……初耳なんだけど。てっきり『神酒の欠片』か『不帰の龍血』かと思ったんだが……
一定時間魔力を数十倍にまで引き上げた上にいくら魔力を使っても回復し続けるアレ。違ったか。
何にしても「見せろ」とか言わなくて正解だったな。どんな切り札だろうと切らせないに越したことはない。没収するのはもっと後でいい。
今度こそ大丈夫か? 傷は治ってる代わりに魔力は残りわずかってとこだし。
穏便に無力化できた、よな? でも困った。
次はどうしよ……うーん、思い浮かばないじゃないか。




