335、リゼットとスサイエ
リゼットも戻ってきたし、本格的にパーティーの始まりだ。
従業員一人一人に声をかけるリゼット。いつの間に紛れ込んだのか配下に囲まれているダミアン。
「な、なあ魔王様、例の金貨の件だけどよ……大丈夫だよな?」
おおスサイエ。お前やけに影が薄かったな。ここ数時間で二言ぐらいしか喋ってないんじゃない?
「んー、大丈夫なんじゃない? もう解決したようなもんだし。まぁ、一応聞いといてやるよ。おーいリゼットー、悪いけどちょっと来てー。」
「はい! どういたしましたカース様!」
早い。しかしグラスの酒はこぼれてない。
「こいつなんだけど、例の偽印を作った職人の一人でスサイエ。今回の件こいつが快く協力してくれてかなり助かったわけよ。そこで報酬として金貨二百枚出してやってくんない? もちろん偽証文の件がドストエフときっちり方が付いてからでいいから。」
「ど、どうも、スサイエ、です……」
「ふぅん……彼がですか……あの偽印を……」
おや、急に機嫌が悪くなったぞ? そりゃまあ無理もないけどさ。
「ひぃっ!」
おやおや、スサイエがびびってるじゃん。
「他ならぬカース様のお言葉ですし、わざわざここまで来て手ぶらで帰すわけにもいきませんね……ですが! 金貨二百枚はあんまりではないでしょうか!?」
おや、リゼットにしては珍しい。ケチってるとは思えないが、何か思惑でもあるのかな?
「そこら辺はリゼットに任せるよ。偽証文に押されてるのはこいつが作った方じゃないらしいしね。」
「そっ、そんな、魔王様! 話がちがっ……」
違わないぜ? だって私は何も約束してないもん。ただリゼットに頼んでやると言っただけっての。
「来なさい。金貨が二百枚も必要な理由を聞かせてもらうわ。カース様、彼をお借りいたしますね?」
「ああ。任せるよ。」
「ひっ! そんな、まおっ……」
さて、どうなることかね。まあ金貨二百枚なら私が出してもいいんだけどね。あれこれ振り回しちゃったしね。スサイエだって帰ったら板挟みで大変なことになるんだろうし。
それに私、今回の報酬を前払いで倍以上貰ってんだからさ。金貨二百枚ぐらい余裕なんだよね。
あ、前払いで思い出した。リゼットに商会印を返しておかないとね。あんな大事な物を無造作に預けるなんて何考えてんだろうねぇ……
「どうにか上手くいきそうね。リゼットが、マイコレイジ商会に何事もなくてよかったわ。」
「そうだね。アレクにもあれこれと面倒かけたね。」
「そんなわけないじゃない。カースと一緒なんだから何やっても楽しいに決まってるわよ?」
「あはは、それは嬉しいね。でも僕だってそうだよ。あちこち動き回ったけど、アレクがいたから旅と同じ楽しさだったもんね。」
「もうっ、カースったら……ねぇ、ソルの結婚式が終わったらどうする?」
おや、えらく期待に満ちた顔してるじゃないか。
「あまり考えてはないけど、少しは楽園のことをやろうかと思ってるよ。もっとも、その前に片付けないといけないことがちょこちょこあるけどね。」
エルネスト君の楽園航路の件とか、スサイエの村へ移住する奴らの件とか。必ずしも移住するとは限らないしね。要はタラバルドン伯爵がブータルグの専売なんて馬鹿なことをやらなければ解決なんが……
「そうね。それにフェリクス様をあちこちにお連れしてあげたいものね。特にスペチアーレ男爵のところなんか、ね?」
「そうだね。連れてく約束してるもんね。そうなると結婚式が終わったらまずは男爵のとこに行こうかな。一週間ぐらいのんびりさせてもらうのもいいよね。」
男爵なら一ヶ月ぐらい居てくれって言いそうだけど。細々とした用事があるからね。トンネル工事だって気になってるし。王都に行く時にちょっとだけ寄ってみようかな。アレクだってアイリーンちゃんに会いたいだろうし。
「うふふ、そうね。スペチアーレ男爵もきっとカースに来て欲しくて待ち遠しいでしょうね。私も楽しみだわ。」
「ほう。スペチアーレと言ったか。儂も楽しみでならんのぉ。」
村長と男爵が出会うとどうなるのか私も楽しみだよ。二人ともお互いの酒を飲んだことがあるだけに、どうなるのか読めないよね。意気投合するのかバチバチにぶつかりあうのか。いずれにしても楽しみだわー。
「スペチアーレ男爵も酒造りの名人だからね。きっとフェリクスと話が合うと思うよ。」
「うむ。人間があれほどの酒を作るとはのぉ。つくづく侮れぬわい。」
おっ? リゼットとスサイエが戻ってきた。話はまとまったのかな?
「お待たせしましたカース様。彼にはうちで働いたもうことになりました。その支度金と年給の前払いを加えまして金貨二百枚を与えることとなりましたわ。」
「ほー、それは思い切ったね。スサイエは役に立ちそう?」
「ええ、かなり。その腕も、アルケミアル工房での経験も、今のうちには最適ですわ。」
ほーぅ。リゼットがそこまで言うほどなんだね。スサイエやるじゃん。
「スサイエもいいんだな? まあ何度か往復することになるんだろうけど。ちょっとぐらいなら運んでやるよ。」
「あ、ああ。助かった……魔王様も、ありがとう……」
こいつがいいなら何も問題ないね。
「じゃ来月の中旬から後半ぐらいに一度セパルス村に運んでやるよ。専売の件もあるしな。」
「あ、ああ。ありがたい……その時、できればシンディもこちらに連れてきたい……いいか?」
「あっちの村長がいいと言えばな。まっ、大丈夫だろ。」
「はいっ! ではこの件はこれまでということで! ですよねカース様!?」
うおっと、いきなりリゼットが抱きついてきた。さっきまでエリートビジネスマンな顔してたくせに。
「ああ。リゼットも飲もうぜ。」
「はいっ! いただきますとも! この度はほんっとぉーーーに助かりました! もう何もかもカース様のおかげです! ほんっっっっとぉーーーに! ありがとうございました!」
飲もうって言ってんだからその手を離してくれないとなぁ。そりゃ私は両手を使わなくても酒ぐらい飲めるけどさ。
『金操』
グラスを浮かせて口元へ。ぷはー。
「よかったわねリゼット。カースへの感謝を忘れないことね?」
「はいぃ! アレックス様のおっしゃる通りです! ありがとうございます!」
そんなこと言いつつアレクの前で私に抱きついてるわけだが……そりゃアレクだってそのぐらい気にしないけどさぁ。
「おっカース? てめぇ人の妻ぁはべらせていい身分だなオイ?」
「はべらせてねーよ。抱きつかれてんだよ。お前こそ愛人はべらせてんじゃねーか。」
あっ、何か足りないと思ったら……
「そういやダミアン、今日カールスは?」
「あー? もちろん自宅だぜ? 今夜ぁ盛大にやる予定だったからよぉ。朝までんなるだろうから連れてきちゃいねーぜ?」
ふーん、そんなもんか。まあ確かに連れてこなくて正解だけど……
「自宅って警備は大丈夫なんだろうな?」
人数はすごく多いようだが。
「おうよ。うちのモンが何人もいるからよ。騎士団でもなけれりゃあ狙えるもんじゃねーぜ。」
「それならいいけど。じゃ、改めて飲むか。リゼット、そろそろ離れろよ。」
「ぶー、はぁーい……では! 改めまして! カース様のご助力に感謝して! 乾杯!」
リゼットったら飛ばしてるなぁ。ペース早いって。




