334、引き抜き
沈黙が続く。
自然と全員の視線がデルヌモンに向く。
「ダミアン……兄上に、つきます……」
ほう。決めたか。まあ他に選択肢ないしね。
「ほーう? お前も素直になったもんだなぁ? おーっし、そんじゃカース。こいつに契約魔法かけてくれや。」
「えっ!? そ、そんな……」
「いいぞ。内容はどうするんだ?」
「とりあえずは、俺の足を引っ張らないってことでいいわ。いいよなぁデルヌモンよぉ?」
えらくヌルいな。でもまあちょうどいい落とし所かもね。
「わ、分かりました……」
ふふ、ちょっと安心したような顔してやがるな。こいつの立場なら絶対服従で使い潰されてもおかしくないんだからさ。
『解呪』
さっきの契約魔法を解除してっと。私の契約魔法が重ねがけできることはほんのりと秘密にしておきたいからね。あくまでほんのりと。
「ではデルヌモン、ダミアンの足を引っ張るような真似はしない。約束だぜ?」
「わ、分かっがあああぁぁああががっあぁぁ……」
さっきのより魔力を多めに込めてやった。本気で抵抗しても解くのに一年はかかるだろうね。
「いよぉーし! これで勝ちぁ見えたぜ! ありがとよカース! 助かったぜ!」
「おう。でも油断すんなよ? 跡目候補の筆頭はクタナツ代官なんだからな。」
もっとも、代官にその気があるとは思えないけど。
「分かってるって。まあ何とかなんだろ。よぉーしデルヌモン! お前も飲め! 今夜ぁとことん弾けていくからよ!」
「あの、兄上、クタナツ代官が跡目候補とは……?」
あらら? こいつもしかして知らなかったのか? でもまあ辺境伯が私に本音を言ったとは限らないんだけどさ。
「あぁん? お前知らねーのかよ。今んとこ親父殿の中じゃあレオポルドンの野郎が跡目の最有力候補なんだとよ。ったくドストエフ兄貴なんかに手こずってる場合じゃねーってんだよなぁ?」
「そ、そうなんだね……」
いやぁ、それにしても五男の野郎も一気に大人しくなったなぁ。あれこれ動いた意味はなくなったけど、結果としては予想以上なんだし文句ないよね。
おっ、扉が開いた。準備オッケーかな?
「お待たせしました。思わぬ事故もありましたけど予定通りパーティーを始めます! 予定外の戦勝を祝い、予想外の犠牲を悼みましょう!」
たぶんこの中でリゼットが一番頭と神経を使ってるんだろうなぁ。一番金持ちで、そのうち一番の権力だって握るだろうし。
おお、次々と料理が運び込まれてくる。めっちゃいい匂いがするじゃん。
「あの、魔王様。ラルゴの身柄はどういたしましょうか?」
おろ? さっきの副長じゃん。もう五人を連行して戻ってきたのか。仕事熱心だねぇ。今度は一人なのね。あぁ、ラルゴしかいないからか。
「あぁ、もう用はないと思うけど、一応リゼットに聞いてくれる?」
「かしこまりました」
今度ばかりはあのダメ長男も終わりだな。運が良ければ奴隷役数年で済むけど、まぁリゼットの口利き次第だろうな。おそらくだけど、悪い方に口を利くと見たね。一生鉱山から出てこないようにさ。
おっ、副長とリゼットが別室へ消えた。さあ、どうなるどうなる?
「おうカース、飲むぜ! デルヌモンも来い!」
「おう。あ、スティード君も飲もうよ。」
「あ、うん。いいのかな……」
「は、はい」
少し暗いけど、それでも安心したって顔の従業員たちも集まってきた。こんな時は全員で飲むに限るよね。
「くくく、上手くおさまったのぉ。これなら美味い酒が飲めようて。」
「フェリクスもありがとね。助かったよ。ダミアンもよく言っとけよ。かなり動いてくれたからな。」
「おお、そうなのか! すまねぇなフェリクスさんよぉ! ありがとなぁ! ほれほれ、飲んでくれ!」
「おおっと、いただくとも。そなたも良い友を持ったものよのぉ。」
「ぎゃははぁ! 違ぇねーな! あんたもそうだろ? わざわざこんなトコまでくっ付いて来てよ? カースぁおもしれー奴だぜ!」
俗に言う『おもしれー女』とは意味が違う、よね?
「ほらほらぁ、ボスも飲もうよぉ? あれだけ手強かった奴らがさぁー? ボスがひょいと顔ぉ見せた途端にこの様だからねぇ? ほーんとボス様様だねぇ。」
「手強かったのか? しぶとい印象はあるけどさ。」
「あー、手強いのさぁ。あいつらぁ騎士団をちっとばかり掌握してたからねぇ。ダミアンが動かせる騎士団なんてわずかなモンさぁ。まっ、だからこっちぁガチガチに守りぃ固めてたんだけどねぇ?」
あぁ、そういえばデルヌモンも騎士を十数人引き連れてきたもんなぁ。命令系統どうなってんだろうね。上の都合で付き合わされる騎士はたまったもんじゃないよ。でもまぁ、今後はそういうことも減るのかな。長男ドストエフの失脚はもう目の前だし。
今夜はとことん飲んでもいいよね。スティード君だって慣れない護衛をがんばったんだし。
あ、そういえば……
「ねえスティード君、さっきリゼットから少し遅れて帰ってきたじゃん? 別行動でもしてたの?」
スティード君が護衛対象から離れるような無責任なことをするわけがない。だから気になった。
「ああ、あれはね、裏口から入る時に中の様子がおかしいのに気付いてね。でもあの場が沈静してるのは分かったから、リゼットさんをラグナさんに頼んで僕は商会の周りを確認してきたんだよ。何か怪しい人とか物とかをさ。」
「あー、そうだったんだね。さすがスティード君だね。そこまで考えてるなんて。」
「いやぁ、過去に殺されかけた話とか聞いてるしね。もちろん本気でやってるよ。」
頼りになるなぁ。これが本物の近衞騎士か。惚れ惚れしちゃうよ。
「おー! スティードのおかげで俺も安心して過ごせたぜー! いっそのことずっとリゼットの護衛やってくれよなー!」
「バカ言うな。近衞騎士様だぜ? 超エリートだぜ? ねっ、スティード君?」
「えっ、いや、その、あはは……」
とりあえずスティード君にはめちゃくちゃ飲んでもらおう。来月からはそうそう一緒に飲めないだろうからね。たぶんかなりハードなんだろうなぁ。ウリエン兄上も近衞騎士だけど、いつ自宅に行ってもあまり見かけないんだもん。大変だよねぇ。
私も少しは真面目に領地経営ってのをやってみるかなぁ。差し当たっては大外をぐるりと囲む岩の城壁を完成させることからかな。一辺が八キロルはあるから大変なんだよなぁ……




