329、辺境伯家五男デルヌモン
どうしたスサイエ。声に聞き覚えでもあるのか?
「どの声だ?」
「金髪のあいつ。偽印作りを依頼してきた声と同じだ」
ほーう。デルヌモンの奴、わざわざ自分で依頼しに行ってたのか。その疑惑はあったけど証拠なんか何も残ってなかったしね。顔も隠してたみたいだし。
「なぁデルヌモン。お前こいつに見覚えあるだろ。わざわざお前がアレクサンドル領まで依頼に行ったんだってな。ご苦労なことだなぁ?」
「知らんな。そこいらの平民の顔などみんな同じだろう」
だめだなぁ。為政者を目指す者の言うことじゃないぜ?
「あれ? お前こいつのこと知らないのになぜ平民だって分かるんだ? もしかして職業まで分かるんじゃない?」
「平民とは単に一般化した話でありその者のことを言ったわけではない。さて、時間切れだ。抵抗するなら容赦はせぬぞ?」
喋り方から余裕が消えてんじゃん。さっきまで大物ぶって気安い話し方してたくせに。
「えぇーデルヌモン様ぁー、さっさとやっちまってくださいよぉー」
それにしてもこいつは……顔見知りの従業員とかいないのかよ。厚顔無恥も甚だしいな。あ、正直になる契約魔法が効いてるせいもあるのか。
それよりお前、デルヌモンに付いていったら殺されるって分かってないんだろうなぁ。ここまで喋ってしまった以上、お前はもう用無しどころか邪魔なだけなんだぞ?
「剣を抜いてる騎士に忠告しておく。一歩でもこちらに近寄ったら知らないぞ? 辺境伯閣下に免じて即死はしないように気をつけるが、治癒魔法使いの腕次第では助からないってこともあるだろう。それでも良ければ来い。」
つーかデルヌモン以外はフルプレート鎧だから手加減しにくいんだよなぁ。副長たち三人は身動きとれなくなってるし。
「デルヌモン様! いかなる権限で我々の現場を荒らすのか! ここは我々の現場であり管轄ですぞ! それ以上無法を通すと言われるなら……私とて容赦はしない!」
おっとぉ。身動きとれないのかと思えば副長まで剣を抜いちゃったよ。しかもめちゃくちゃ正論で。さてはもう覚悟決めちゃったんだね。
「き、貴様……一介の騎士の分際で……」
『カース殿。あやつの心が乱れておる。今なら多少は読めるやも知れぬ』
おっ、ナイス村長。なるべくシンプルな質問を……なおかつ物証が関係してそうなやつ……
「おーい、もう一回聞くけどさー。お前マイコレイジ商会の偽印持ってんだろ? つーかお前自ら依頼に行くって信頼できる部下もいないのかよ。そんなんじゃ跡目は狙えんわな。」
「知らんと言っているだろう! 下らぬことばかりを! 降伏したいのならはっきりそう言え!」
『はっきりとは読めぬが嘘の気配がしたぞえ』
『ありがと。もうしばらく頼むね』
まったく。この村長は本当に頼りになるねぇ。
「お前こそびびってんならそう言え。後ろの騎士達も困ってるぞ? 俺と戦いたくないってな。それともお前一人でやるか?」
「ふざけるな! 騎士の責務を舐めるな! 貴様ごときに臆するような騎士などおらぬわ!」
ふふ、完全に余裕を失くしてやがる。私は騎士がびびってるなんて言ってないってのに。必死に論点をずらしてやがる。口だけは達者だねぇ。
「辺境伯閣下は言われたぞ? 例え最後の一人になろうとも、例え王家を敵に回そうとも、一人でも戦い続ける覚悟こそが辺境伯に必要な資質だとな。お前にその覚悟はあるのか? あるならその剣を抜いてお前がかかってこい。」
「きっ、貴様この若僧が……!」
お前だって私より五、六歳上なだけだろ。そういやダミアンは十二、三歳上だったかな?
五秒待ったけど剣を抜く気配はないね。柄には手をかけてるくせに。むしろ魔力を練ってやがるじゃん。心の乱れから回復したのか?
「総員かかれ!」
あらま。騎士たちを動かすんかい!




