326、ラルゴ・マイコレイジという男
ジーナとやらが走り終わって三分も経たない時、裏口をノックする音が聞こえた。ジーナに開けるよう指示して私達は少しだけ身を隠す。裏口から見られなければそれでいい。
「上手くいったようだな。フォークはどこだ?」
「こっち」
来たぁぁーー! こいつ不真面目タイプか! 中で何があったか全然気づいてやがらねー!
ジーナは素直に男をフォークの所へと案内する。裏庭の中央あたり、下半身を水壁に閉じ込められている男の元へと。
「ようこそ。君はラルゴの使いかな? よく来てくれたね。歓迎するよ。」
本当によく来てくれたよ。騎士団が押し寄せる前にさ。いくらこいつが不真面目でも、騎士団が大勢やって来たら失敗に気づいただろうからね。
「あぁん? 誰だお前? フォークの下かぁ? フォークは、おお、いるじゃんかよ。あん? フォークお前何してんだぁ?」
「ラルゴか。見ての通りだ。悪いな。しくじっちまったわ……」
ええ!? こいつがラルゴ?
意志の弱そうな目ぇして顔つきは幼いし、おまけに猫背気味。背は高いがどこか薄っぺらいよなぁ。
「はあぁぁ!? ふざけんなよお前! このぐらい楽勝って言ってただろうが! どうするつもりなんだよ! おい!」
「知らねーよ……後はそいつと話せよ。その魔王様とよ……」
「どーも、魔王でーす。」
「あぁん? 魔王だぁ? お前がだとぉ?」
うーん……何だかなぁ。こいつ私より十歳は歳上なんだよな? なのに……えらく歳下に見える。皮膚の質感は年相応なんだろうけど、なぜこんなにも幼く見えるんだろうな。
「えーっと、お前ってリゼットの兄なんだよな?」
「あぁん? 当たり前だろがあ! お前こそ誰だよ! ここぁ俺んちだぞぉ!? 何でけぇツラして喋ってやがる!」
俺んち? こいつマジか? マジでそんなこと言ってやがんのかよ……
「もういい、黙ってろ。どうせそろそろ騎士団も来るしな。」
「んだコラぁ!? てめぇこのガキぃ! なぁに生意気な口きいてやがんだぁおおコラぁ!?」
はー……どうしてくれようか、こいつ……
「お前さぁ……リゼットの兄貴なんだよな? なのに、情けねぇよなぁ……生きてて恥ずかしくならないのか?」
「あぁん!? てめぇコラぁ! ぶち殺してやんぞぁコラぁボケぁんだコラぁおお!?」
こいつ何言ってんだ……
やっぱ死ぬほど薄っぺらいじゃん……
「あー……お前さぁ、今俺にぶち殺すって言ったな。じゃあやってみろよ。ぶち殺してみろよ。ほら、早くよぉ?」
つい勢いで自動防御を解除しちゃったじゃないか。おら、やってみろや。
「あぁん!? んだてめぇコラぁおお!? 舐めてんだろ!? なぁ舐めてんだろぉぉ!? マジ殺してやんぞぁおお!?」
うわぁ……こんな奴でも剣持ってんだなぁ。抜けよ。抜いてみろよ。いくらリゼットの兄でもすぐ殺してやるからよ?
「殺す? やってみろよ。そのナマクラな剣を抜いてみろよ。あっさり殺してやるからよ。ほら、早くやれよ。」
「んだコラぁ! てめぇこのガキぃ! マジで殺すぞ!? 俺を誰だと思ってやがんだおおコラぁ!?」
うわぁ……参ったな。こいつってもしかして、そこらのチンピラ以下なのか?
「だーかーらー、そのナマクラな剣を抜けって言ってんだろ。五秒待ってやるからよ。ほら、五、四、三……」
「てめっ、このガキぁ! ぜってぇぶち殺してやんからなぁ! おおコラぁおお!?」
「一、ゼロ。んん? まだ抜いてないのか。てことはお前って口だけのヘタレだな? 人間の一人も斬ったことないんだろ? はぁ、だっせぇ……あまりにも情けないから見逃してやるよ。ほら、逃げていいぞ。リゼットには上手いこと言っておいてやるからよ。」
さあ、効き目はどうかな?
「ざけんなガキぁコラぁ! ぶち殺す! ぜってえぶち殺すからなぁ!」
でも剣は抜かないのね。お前には過ぎた装飾を施されたその鞘からさぁ。中身は知らんが、その鞘はお洒落じゃん。貰っておいてやろうか。
「えーっと、お前ラルゴだったな。今回の件ってドストエフ様は知ってんのか? お前ってあのドストエフ様のパシリ、じゃなかった走狗だよな。お前ごときがよくもまあドストエフ様にお近づきになれたもんだよな。」
長男ドストエフも財布が欲しいだろうからね。こんな頭の中身がペラッペラ野郎でも使えるうちは使い倒したいわな。
でもなぁ……
「ざけんな! 俺とドストエフ様はマブダチに決まってんだろ! フランティアは俺ら二人で支配するからよ!」
やっべ……こいつマジで言ってやがる……
頭沸きまくってんだろ……
つーかどこから質問したもんかな。こんな無謀で頭の悪いことやらかした奴の頭の中身なんて知りたくもないけどさぁー。
「カース、通報してきたわ。もうすぐ来てくれるわよ。」
おっ、アレクが戻ってきた。まだ騎士団には引き渡せないけどね。ちょっとうんざりだけど、もう少し尋問しないとな。本腰入れて……




