321、領都のマイコレイジ商会は早仕舞い
さーて、これで後はもう出たとこ勝負かな。どうにもならなかったらダミアンの兄貴もリゼットの兄貴も海に捨ててやろっと。まったく、面倒なことだわ。
それより気になったのは、マジでエルネスト君はここの領主に声かけたりしてないんだろうか? この前わざわざクタナツまで挨拶に行ってたんだから少し足を伸ばしてこの村に立ち寄ってもおかしくないよな? それなのにスルーしたってことは……うーん分からん。
バンダルゴウのあるタンドリア大公領とここタラバルドン伯爵領はほぼ隣みたいなもんだからしがらみとか色々あるのかもね。
つまり私が気にしても意味ないってことだ。よし。気にしない。そのうちエルネスト君に会いに行けばいいさ。
「じゃあ村長。今度こそ次来るのは四月後半だと思うからさ。あれこれ考えといてな。」
「お、おお、だがもしよぉ……引っ越すとなったら……ウプーセ村に問題はねえのか?」
おっ、ちゃんと考えてるじゃん。さっきの今なのにやるねぇ。
「そっちの話はもちろんこれからさ。でもスサイエが上手くやってくれるだろうぜ? な?」
「おっ、おお! ま、任せてくれ! きっと説得してみせる!」
ブータルグ作りの高い技術を提供できるのは利点だよな。代わりに村を乗っ取られるんじゃないかって反論されそう。普通に主導権とか取られるだろうしね。基本的に村人ってのはどこの奴も排他的だからな。そこら辺が気になるなら引っ越すここの村人に契約魔法をかけてやってもいいけどね。それに応じるなら連れてくよって感じでさ。内容をどうするかは要検討だけど……
それに、説得するなら村人ってよりも村長だろうな。あと領主にも話を通しておかないとめちゃくちゃ揉めるんだろうなぁ。なんせ領民って領主の財産だもん。これ引っ越しとは言ったけど実際には逃亡だろ? 亡命とも言えるかな。他の貴族領に入ってしまえばこっちの領主も表立っては追ってこれないしさ。どうなることやら……
では、フランティアに戻るとしようか。長旅だった気もするけど実際は全然短いんだよね。かなりスムーズに手がかりが見つかったもんな。いつもこうだと楽でいいのだが……いやいや、そう何度もこんなことが起こってたまるかってんだ。
ふう。どうやら日没の閉門には間に合ったようだな。さっさと自宅に帰りたいところだが、先にリゼットの所に寄らないとな。きっと心配してるだろうし、進捗を知らせて安心させてやろう。今のところ勝てる確率は七割と見てるが、残り三割は村長の読心とリゼットの知恵で何とかしてもらわないとね。
城門を通過。貴族門なのでスサイエも問題なく通れた。ちなみにフード付きローブでしっかり顔は隠してある。長男派にスサイエの顔を知ってる奴がいるかも知れないしね。警戒しておくに越したことはないだろ。
てくてく歩いてマイコレイジ商会に到着。あらま。正面の扉は閉まっていた。少し早くない? まだ完全には日が沈んでないってのに。
裏口に回る。強めにノックしてもしもし。
返事がない。裏口だからまあ仕方ないけどさぁ。もう一回。さらに強く。
おっ、やっと開いた。わずが十センチだけ……
「あ、あの、何の御用で……」
おや、女の子か。聞き覚えのない声だね。新人かな? やけに震えてるじゃん。そんなに緊張しなくてもいいのに。
「リゼットはいるかい?」
「あ、あの、どちら様で……」
おや? マイコレイジ商会で働いてて私のことを知らないだと?
「ガウガウ」
なん……だと……?
『麻痺』
「ちっ!」
生意気な。抵抗しやがった。
「アレク、ここにいて。誰も逃がさないように。フェリクスはさっきの正面。やはり誰も逃がさないで。」
「えっ!? わ、分かったわ!」
「心得た。」
コーちゃんとカムイは一緒に来て。この建物内を制圧するから。
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
どこのどいつだ?
舐めた真似しやがって。カムイが教えてくれたぞ? 今の女の子から生乾きの血の臭いがするってな!
穏便に麻痺を使ってみれば、意外にも魔力抵抗高いし。一瞬で距離を取った体捌きも見事。
どこのどいつだ?




