316、出戻り職人スサイエ改めラルゴ
「連れていくわけないだろ。話が聞きたいだけなんだからさ。で、スサイエなんだけど今もスサイエなのかい?」
私ったらピーンと来ちゃったよ。あいつがこの村にいるのはたぶん間違いない。でも偽名使ってんだろ。だから若い者にはスサイエって言っても知らないんだろ。でもそれ意味あるのか? 知ってる者は知ってるだろうに。
「んー、今はラルゴって名乗ってるよ。さすがに六等星だけあって鋭いね」
やはりか。ん? ラルゴ? どこかで聞いた覚えのある名前だが……
「案内してもらえるかい? かなりヤバい情報も教えてやるからさ。」
「んー? ヤバい情報?」
「もちろん後に決まってるだろ。スサイエに会ったら教えてやるさ。」
ちゃんと会えたらな。それにしてもあっちの村ではブータルグが専売か。こっちではどうなんだろうね。専売とかそれ以前の問題にも見えるが、まあ後回しでいいだろ。
「んー、しっかりしてるねー。じゃ、行こうか。その情報も聞きたいしね。おっと、ちゃんとラルゴって呼んでね?」
そう言って歩き出す村長。意味があるとは思えないけど、そう頼まれたからにはラルゴと呼ぼうではないか。
歩くこと五分。扉が開けっぱなしの荒屋に到着。コンコンカンカン聞こえるな。作業中か。
「ラルゴはおるかい?」
「おや村長。ラルゴなら裏で薪割りしてるよ。薪が切れちまってさ」
あれだけ山が近かったら薪には不自由しないだろうな。クタナツや王都とは大違いだねぇ。
「だってさ。裏に回ろうかね」
ぐるりと裏へ。
おお、やってるね。こいつも上半身裸かよ。
「精が出るなラルゴよ。お客だよ」
「ああ村長。客……?」
「やあこんにちは。ちょっとアルケミアル工房での仕事について聞きたくてさ。あ、俺はこんな身分ね。」
今度は国王直属の身分証を見せる。その方が口だって軽くなるだろ?
「なっ……こ、こくお……おお……」
陛下を付けろよこのデコスケ野郎。まあデコスケってよりモジャモジャ頭だけどさ。ところで、逃げようとしなかったのはポイント高いよ。後ろ暗いことはないってことか?
「これを見ろ。正直に話してくれたらくれてやる。約束するぜ? もちろん捕まえに来たとか陛下の御用ってわけじゃないから心配いらんぞ。」
金貨を二枚。 こんな村ではかなりの大金だろぉ?
「ほ、本当に?」
「当たり前だろ。捕まえる気ならもう終わってるさ。」
「わ、分かっだおおおっごっおおおごっ……い、今のは?」
「ただの契約魔法さ。正直に話すって約束してくれただろ? ほれ、これ取っときな。」
「あ、ああ……マジでくれんのかよ……」
私だって約束は守るさ。
「じゃあ質問な。おっとその前に……」
『消音』
村長や職場の者に聞かれたくないかも知れないからね。私は気が利くんだぜ?
「これで誰にも聞こえない。安心して喋るといい。」
もっとも、偽証も黙秘も不可能だけどね。どうしても喋りたくない時は舌を噛み切るしかないだろうよ。
「あっ、ああ……」
「じゃあ質問ね。アルケミアル工房でマイコレイジ商会の偽印を作ったよな?」
「あ、ああ……」
「その偽印なんだけどさ。マルテアは自分の偽印を押した場合に判別できる仕掛けをしてたらしいんだけど、お前は何かやってないか?」
「や、やってる……」
マジで!? 嘘だろ!?
「マジか! どんなのだ!?」
「印影には影響しないように偽印の彫り込んだ部分、四隅に一文字ずつ『ラ』『ル』『ゴ』と彫ってある。右上、左上、右下だ。一文字は一ミリの十分の一もないから肉眼ではまず見えない」
急にはきはき喋ったな。でも超ファインプレーじゃん。なるほどねぇ。マルテアがこいつのこと職人馬鹿って言うのも納得だね。偽印というとつい印影ばかり気にしちゃうけど、本体に仕掛けをする場合もあるんだねぇ。つくづく渡りの職人ってのは抜け目がないんだなぁ。偶然とはいえアレクサンドル騎士団からもきっちり逃げきってるし。
「お前最高だ。ほれ、もう二枚やる。よく話してくれたな。最高だ。これからもそんな職人魂を忘れるなよ。」
嬉しいから抱きしめてやる。ついでに浄化もかけてやる。
「おっ、おお……い、いいのか?」
「別に仕事に文句があるわけじゃないからな。職人なんだから頼まれれば偽印ぐらい作ることだってあるだろ。」
もちろんこの件でマイコレイジ商会が潰れるか乗っ取られるかしてたら、こいつもマルテアもぶち殺してたけどね。たぶん。
いやー、それにしてもよかったなぁ。駄目元の思いつきでアルケミアル工房に当たってみてよかったわー。まさか本当に偽印作ってやがったとはね。
意外だったのは口封じもされずにちゃんと生き残ってたことだよな。偽印なんてヤバいもん作ったんだから普通殺されるよな。用が済んだらさ。そうでなくても喋れなくなる契約魔法ぐらいかけるだろうに。
これで勝てる可能性が五割から七割ぐらいに上がったな。残り三割……どうにかならないものか……




