314、領主の政策
つーかこの村長がなぜライバル村の、それもたかが一職人のことなんかを知ってるのか気にはなる。気にはなるけど今回の件とは関係なさそうだし、あまり深掘りしなくていいだろ。あっちの村で何も収穫がなかった時に改めて確認しても遅くはないだろうし。
それに、村長が困ってる事の方が大事だしな。自分らじゃあどうにもできないってのは……正直面倒だけどさぁ。
「で、困り事っては何だい?」
「実はよ……ブータルグが専売にされちまうんだよぉおおお!」
ん? 専売? ってことは……ここの領主が下らんちょっかい出してきたってこと?
てことは、私にできることは何もないだろ。
「えーっと、領主がそう決めたってことだよな? いつから?」
「まだ関係各所と調整中とかって話だけどよお……早ければ夏には始まっちまう! どう考えても買い叩かれんだろおおおおお! よそにだって売れなくなっちまう!」
当然そうなるよな。領主としても領内に金のなる木があるんだから手を出さないわけがない。しかも王家に献上できるレベルなんだから。でもいいのかねぇ? この感じだとせっかく育った職人達が辞めたりするんじゃないの? 後進だって育たなくなるイメージがあるし。
そこら辺を領主はどう考えてるんだろうね?
「村長、悪いが領内のことには口出しできないぞ。領主には領主の考えがあってやってんだろうからさ。ちなみに領主からは今後の展望とか聞いてるか?」
「……出来、不出来に関わらず一定金額で買い上げてくださるんだとよ。また販路の開拓や商人との交渉も一手に引き受けてくださるってよ……俺達はブータルグを作ることだけに集中させてくださるとさ! ありがたくて涙が出るぜえ! あのクソッタレがぁぁあああ!」
うわぁ……そりゃあまあ、それが専売ってもんなんだろうけどさぁ……
うーん、私の素人目から見ても泥舟みたいな政策にしか見えないが……領主は正気なのか? 一定金額とか言ってるけど買い叩く気満々じゃん。
私としても困るんだよなぁ。せっかく酒の肴に最高なものを見つけたってのにさぁ。行く末が暗いってのはなぁ……
「分かった。手が空いた頃に領主と話してみてやるよ。あくまで話すだけだからな? 期待するなよ?」
「ほ、ほんとかぁあああ! たっ、頼む! ブータルグぁ俺らのジジイの頃からずっと作り続けてきてよお! やっと! ついに王家に献上できる程の品になったんだ! それを、それを……金に目が眩んだ領主なんぞに! 吸い尽くされてたまっかぁああああ!」
それもあってさっきは国王に感想を伝えてくれとか言ってたのかな。
「そうです! 塩だってこの近所でずっと作り続けてきて! ブータルグに合うよう何度も見直して! 乾燥室だって! 工場だって! みんなが力を合わせて! 蛇頭魚が不漁の時だって! 他の魚でもできないか研究したり! なのに領主様は税はどんどん持っていくし! 何の協力もしてくれないのに!」
「そうだぁ! 海の魔物が大勢上陸してきた時だって! 俺らがいくら助けを求めても無視しやがったんだぁあ! それでも税だきゃあきっちり取り立てやがる! 何人死んだと思ってやがんだぁクソッタレがぁあああああ!」
おお……話してるうちに不満が爆発しちゃってるね。親子でブチ切れてる。つーか領主……無能かよ。確かに典型的な貴族ムーブだけどさぁ。金のなる木を自分で刈り取ってどうすんだよ。しっかり育てろよな……
「来れたら四月後半ぐらいにまた来るからさ。その時に領主と話すだけ話してみるさ。いい考えなんか何もないけど領主側にも事情があるだろうからな。」
金に目が眩んだだけってパターンな気もするけどなぁ。それとも、どうしても金が要る事情でもあるのか? よくある話だと借金まみれとかさ。クタナツの代官でさえ借金まみれなんだから何ら不思議じゃあない話だよな。辺境伯でさえ多分ギリギリじゃない? 借金してるとは聞いてないけど財政はかなり苦しいとか言ってたもんなぁ。ダミアンが。
「たっ、頼む! ブータルグは俺らの命なんだぁあ! ここまで来るのに……いったいどれだけの犠牲が……」
「そうよ! お母さんが、お母さんだって……うえぇええええーーーーーーん!」
あぁ……しっかりした女の子だと思ったら、ついに限界超えちゃったのか? 罪つくりな領主め……
おお、アレクが背中をさすってる。なんて優しいんだ。女神じゃないか。
「よく頑張ったわね。もう大丈夫よ。カースがきっと何とかしてくれるわ。」
なん……だと……!?
「くくく、面白くなってきたのぉ。専売がどういったものか、いまいちよく分からぬがこの味わいが失われるというなら阻止せねばならぬのぉ。頼むぞえカース殿。」
「ピュイピュイ」
村長とコーちゃんまで……四月の後半までおよそ一ヶ月。その間に解決策を考えないといけないの? 私が!? ごり押ししかできないのに!?
ごり押しかぁ……ヒイズルでも似たようなことがあったよなぁ。あれは畳だったな。あっちは専売どころか強制労働だったけど。その結果どうなったか……そこら辺の話でもしてやろうかねぇ。
領主の一族郎党全員の首が城門に晒されたってさ。
ローランド王国でそれは難しいよなぁ。村の村長が中心となって一揆を起こしたとしても、たぶん領主軍に勝てないだろうなぁ。領主一人に勝てるかどうかも怪しいぐらいだ。伯爵ともなるとそこそこ魔力が高いに決まってんだからさ。
戦力が百倍ぐらいないと一揆なんて成功しないだろうなぁ。いや、百倍でも足りない気がするけど……
「た、頼む魔王様ぁ! この礼は何でもする! なんならシンディだってつける! だから! だから!」
「不要よ。あなたは最高のブータルグを作ることだけ考えてなさい。」
ふふ。アレクが頼もしいね。さすがの貫禄だよ。
「とりあえず四月の後半な。また来ることと領主と話してみることぐらいは約束できる。その時はまたいいブータルグを用意しといてくれよ?」
「おっ、おお! 分かったぁああ! 頼んだぁ! ありがとうありがとうありがとおおおぉぉぉおおおお!」
いやー暑苦しい村長だわー。ここ、外だぜ? 海を見ながら話してるわけだが。いつの間にやら村人がかなり集まってるし。この中に領主のスパイとかいたら大変だぞ?
「ところで村長殿よ。先ほどブータルグを酒と共に楽しめる店があると言うたの。案内してもらえるか? そろそろ良い時間であろう?」
そうだね。もう昼だね。対岸の村に行くのは飲み食いしてからでいいだろう。
それにしても、こっちの村長は全力で観光を楽しんでるなぁ。




