313、ライバルはドマルサン伯爵領ウプーセ村
「お待たせしましたぁぁああああ!」
おっ、村長が戻ってきたな。依然として上半身は裸のままだ。
「あっ、あのっ、ま、魔王様! これ、ぜひお飲みいただきたいとは思うんですが! その、こいつの感想を、その、あの、こっ、国王陛下におおおお、お伝えいただくってのはどうなんでしょうかねぇぇええ!?」
ん? 何て言った?
「待て待て。ちょっと落ち着けよ。もう一回、ゆっくり言ってくれよ。」
「は、はい! これは次回国王陛下に献上したいと思ってる物なんです! もしよろしければこれの感想を国王陛下にお伝えいただいて……だめですかぁぁああ!?」
あー、なるほどね。献上品と言ってもまだ献上してないやつか。つまりそのお茶は今回が初めて? どうやって選ばれるのかは知らないけど、国王にプッシュして欲しいって感じ?
「とりあえず飲んでから考えるさ。そもそも陛下にお目にかかれるかどうか分からないしな。」
でもたぶん会うよな? 四月に王太子の結婚式があるんだからさ。
「そ、そうですよねぇ! ど、どうぞ飲んでみてくださぁぁああい!」
どれどれ……最高級昆布茶か。
おー、確かに美味いな。何が違うのか分からないけど。でもめちゃくちゃ美味いってほどでもないかな? 欲しいことは欲しいレベルの品質だね。
「悪くないわね。一つ一つ丁寧に仕上げたのかしら。手間暇かけた様子が伝わってくるわね。それだけに……」
「旨い。だが先程飲んだ物より圧倒的に旨いかと言われたら分からぬのぉ。だが儂は嫌いではないぞえ? のぉカース殿?」
こっちの村長がこう言ってんだし私としても文句なしだよ。
「こいつが献上品に相応しいかは置いとくとして、貰おうか。魔力庫に入れるから売れるだけ全部持ってきてくれるかい?」
「はっ! はいいぃ! ありがとうございまぁぁぁす!」
この村長ったら私が国王直属だからって勘違いしてんな? 王家献上品がどうやって選ばれるのか知らないけど私の意見なんて反映されるわけないからな? 確かにここのお茶は美味しいしブータルグも絶品だよ。だからって私の感想が王家への献上に影響するわけないだろうに……
でもまあいい買い物できたことだし結果オーライだよな。
おお、そうだ。あれを聞いておかないとな。
「なあ村長さぁ、ちょっと聞きたいんだけど。スサイエって知ってる? こんな顔した奴なんだけど。」
モジャモジャ頭に細目の鼻デカ。
「スサイ……てめっ! 何であいつぉ知ってやが、あ……おられるので……?」
おっ? 一瞬だけど本性が見えたな。
「ちょっと事情があってな。聞きたいことがあるのさ。別に賞金がかかってたり手配されてるってわけじゃあない。あと喋り方はいつも通りでいいよ。俺は平民だからな。」
アレクは名門貴族だけどね?
「えっ、と、その……よろしい、ので?」
「話を早くするためにあの身分証を見せたけどさ。こっちは買い物に来たただの客なんだしね。いつも通りに喋ってくれよ。俺にはな?」
アレクにはだめだぞ?
「お、おお、それでいいんなら……で、スサイエだったな。確かに知ってらあ。もう十数年は顔見てねえけどよ。で、スサイエの野郎が何かやらかしたんか?」
「まあな。詳しくは言えない事情があるんだが別に殺したいとかじゃない。ちょっと話を聞きたいだけでな。何か手がかりでも見つからないかと思ってここに来てみたわけだ。まあ、ブータルグの方が大事なんだけどさ。」
でも十数年見てないってことは、寄り付きもしてないのか。
「へっ、嬉しいこと言ってくれんじゃねーか。おおそうだ。全部まとめて大金貨二枚でいいぜ。あの魔王様がせっかく来てくれたんだからよ」
「おお、そいつはありがとよ。で、スサイエだけどさ、どこか行きそうな所とか親元とか知らない?」
「親がいるかは知らねーが、あいつの故郷なら知ってるぜ」
マジか。聞いてみるもんだな。
「おお、ありがたい。で、どこ?」
「来てみな。こっちだ」
こっち? ああ、外に出るのか。まさかこの村出身なのか?
「ほれ。あそこだ。どうにか見えんだろぉ」
村長は海の先を指してるが……あー、ギリギリ見えるな。島か? いや、陸の切れ目なんてないか。いずれにしてもこの村にある船で行けるような距離じゃないな。いくら海が穏やかでもさ。
「あそこは何てとこだい?」
「ドマルサン伯爵領のウプーセ村だあ。生意気にあの村でもブータルグを作ってやがんのよ……ぜってぇ負けねえけどなあ!」
あー、なるほどね。目の前の海を挟むように村が二つあるもんだから似たような魚が獲れるわけか。だから似たような産業も興ってるわけね。
ということはマルテアが食べたのはウプーセ村の方のブータルグだったのかも知れないな。マルテアの感想としてはかなり美味いみたいだったが……
「分かった。情報ありがとよ。そこでついでに聞くんだけど、何か困ってることはないか? 解決できるかどうかは分からんが。」
「いっ、いいのか!? ある! あるんだよ! 俺らじゃどうにもできねえことがよ!」
あるんかい。この村とは末永く仲良くしたいから聞くだけ聞いてみただけなのに……




