311、ムキムキ村長と海のお茶
到着したのは海からさほど離れてないエリア。つーかこれ村長んちじゃなくて何かの工場か? どーんとデカい建物と、その周囲にもいくつかの箱っぽい建物。そこにちょこちょこ人の出入りがあるな。荷物を持ってたり荷車を引いてたり。景気がいいってことだね。
「たぶん村長はこっちだ」
デカい建物の端にある小さな扉から中に入る。
「おぅい! 村長ぁいるかーぁ!」
「おーう! なんじゃあー!」
うお。これまたザ・海の男って感じ? なんで室内なのに上半身裸なんだよ。ムキムキだし。つーか、この中暑っつ。やけに蒸すじゃん。
「客だぁ。ブータルグが欲しいってよ。んじゃ後は任せたぜー」
「あぁん? わざわざ来たんかぁ! 行商人にぁ見えねーなぁ。まぁええわぁ。んでぇ、どんぐれーいるんだぁ?」
おっ、すんなり買えそうじゃん。
「王家に献上するほどの逸品があると聞いてな。可能ならそれが欲しい。ないならそれに次ぐ品でもいい。これだとどのぐらい買える?」
大金貨を一枚。
「ふん、ちったぁ金持ってんみてぁだなぁ。そうだな……」
「おっと悪い悪い。名乗ってなかったな。俺はこういう者だ。」
国王直属の身分証。こういう時こそ使わないとね。
「あん? カース・マー……はあぁぁぁぁあ!? こ、こくお、へ、へいかの直属ぅ、で、ですかぁああぁぁぁぁ!?」
おや、効果覿面じゃん。それがどうしたぁ! ぐらい言うタイプだと思ったのに。意外に常識人なんだね。
「あなたまさかこの服装を見ても彼が誰か分からないんじゃないでしょうね?」
おやアレクったら追撃かい。
「ひいっ! ま、マーティン様ですよね!? 国王陛下直属の!」
残念。アレクの欲しい答えはそれじゃないよ。
「誰が身分証の名を言えと言ったかしら? この服装を見ても分からないなんて、それでよく献上品なんて扱ってるわね?」
アレクったら痛いところ突くねぇ。ここって王都からもクタナツからも遠いんだから分からなくても仕方ないのに。でもバンダルゴウからはそこそこ近いな。直線距離なら二百キロルちょいってとこか?
「も、申し訳ないです! さ、さぞかし名のあるお方なので!?」
「まさか、ローランド王国に生きていながら魔王カースを知らないとでも言うつもりかしら?」
うーん、アレクの上級貴族オーラが迸ってる。素敵だねぇ。
「ま、まお……魔王!? あの、魔王なんですかぁぁぁぁあああ!?」
「魔王様、よ? ローランド王国に魔王はカース一人しかいないわ。さすがに知ってたようね。よかったわ。この建物が更地にならなくて。で、ブータルグだけどあるんでしょうね?」
「はっ! はいぃぃぃいいいいい! こちらへどうぞぉぉぉおおお!」
それにしても、ムキムキの大男が体を小さくしてぺこぺこする姿は面白いなぁ。
どうみても強面屈強漁師って感じなのに。
「どうぞ! こちらでお待ちくださいぃぃいい!」
おお。暑苦しい工場だけかと思ったら応接室もちゃんとあるのね。
高そうなソファーもあるし。うん、リラックス。
そして村長はそそくさと部屋を出ていった。外に出た瞬間何やら叫んでいる。
……を持ってこい。……の用意はどうだ。……を運んどけ。はっきりとは聞こえないなぁ。いやぁ、いきなり来てそこまでやってくれるなんて嬉しいなぁ。もちろんお代は色を付けて払うからね。
「くくく、嬢ちゃんは口が上手いのぉ。」
「あら? 本当のことしか言ってませんわよ?」
「くくく、それもそうか。いやぁ愉快愉快。やはり連れてきてもろうて正解だったのぉ。その上美食に美酒か。たまらぬではないか。」
村長もアレクも上機嫌だね。私もだよ。こうやって真っ当に対応してもらえるっていいよねぇ。
「失礼します」
おっ、誰か入ってきた。若い女の子だ。あぁ、お茶を持ってきてくれたのね。
「昆布茶です。よろしければどうぞ」
「ありがと。いただくよ。」
バレーチ? 聞いたことないなぁ。でもいい香りがしてるじゃないの。
あれ? これ昆布茶じゃない? この風味ってそうだよな? 梅が欲しくなるけど、これはこれで美味いなぁ。
「これって海藻? もしかして潜って採ってるの?」
「ご存知でしたか。その通りです。といっても水深が二メイルも三メイルもあるような所にまでは行きません。浅い所で採れるものを採っているだけなのです」
「あぁ、そうなんだね。驚いたよ。あいつらめちゃくちゃ巻きついてくるからね。危ないよね。」
私は勝手に魔昆布と呼んでいるがバレィチと呼ぶのが正しいみたいだな。でもこの技術があれば梅昆布茶も作れそうじゃん?
あ、梅はどこにあるんだ……ヒイズルか?
「それもご存知なのですね。海は恐ろしい場所です……」
「ほう、これが海の味というものか。良いのぉ。娘よ、儂はこれも買いたいが売り物かの?」
おっ、村長気に入った? ならまとめてたくさん買ってしまおう。そしたらアレクがいつでも淹れてくれるからさ。
「はっ、はい! ございます! たくさんございますので!」
ぶはっ。この女の子ったら一気に態度が変わるんだから。そりゃあ超絶イケメンに話しかけられたらそうなるわなぁ。見たところ十五、六歳か? 色を知る年頃だもんね。
「あぁフェリクス。支払いはこっちでまとめてやるからいいよ。それで要る分だけ持っていってよ。」
「おお、そうか。それはすまぬな。ありがたくいただくとしよう。」
「すっ! すぐに持ってきますっ!」
行動が早いなぁ。村長からはここで接待してろって言われたんじゃないのか? 面白い村だなぁ。村長も、村人も。
「お待たせしましたぁぁああ!」
おっ、いいタイミングで村長が戻ってきた。さあ、見せてもらおうか。




