310、ペニンシュラ半島はタラバルドン伯爵領
ゼマティス家。なんだかもうここが実家みたいに感じちゃうよね。本当の実家はもうないもんなぁ。生まれ育ったあの家は現在クタナツ騎士の一家が住んでるみたいだし。
伯母さんが嬉しそうに歓迎してくれるってのも大きいよね。やっぱ家の中から子供がいなくなるってのは寂しいもんなんだろうなぁ。いずれ私も通る道なのか……さすがに気が早いな。
ところで、夕食の席にて伯母さんから面白い話を聞いた。
何でも、上級貴族なら自分とこの印影が本物かどうか見分ける仕掛けぐらいしてあるらしい。それは片眼鏡の魔道具だったり陰影の上に置くと反応する石の魔道具だったりと。
だから時々わざと偽印を使って契約書なんかを作り、お前この書類偽造しただろうどうしてくれるんだと難癖を付ける腐れ貴族もいるとか。
ゼマティス家は子爵だから世間的には下級貴族なんだけど、実際どう考えても上級貴族以上だよなぁ。これ系の対策は絶対やってるんだろうね。対策の対策とかまでやってそうな気もするし。さすがだねぇ。うちのマーティン家の場合だとそもそも印璽なんて見たこともないし。
一泊ほど厄介になり、朝食を済ませたらさあ行こうか。タンドリア地方へ。
さて、王都を出てからおよそ一時間半。眼下には木がもっさもさ生えてる半島が見える。ペニンシュラ半島か……ここ、かなり広いよな? たぶんバンダルゴウがあるタンドリア大公領より広いんじゃないの? まあ、いくら広くても人が住んでるのは沿岸の一部だと思うが……ちょっと南から海岸線沿いにぐるっと回ってみよう。そうすればそのうちセパルス村だって見つかるだろ。
半島が東に突き出た先、岬の周辺は比較的平坦なんだね。集落もあるにはあるようだ。ここらの領主タラバルドン伯爵ってのはどこに住んでるんだろうね?
もし、バンダルゴウから陸路でクタナツへ行こうとした場合、ルートは大きく分けて二つあるらしい。
ムリーマ山脈の東側を通るのは絶対だけど、そこに行くまでのルートが二通りあるってわけだ。
一つは北西。アブハイン川を遡上してノノヤフク湖を越える。そのまま遡上してドナハマナ伯爵領の北端あたりから陸へ。そこから街道を北東へと進むルート。
もう一つが北。このタラバルドン伯爵領を通過するルート。そこそこ険しい山が多いらしいが、どうにか馬車でも通れる街道があるらしい。街道? 山道じゃなくて?
距離的にはもちろんタラバルドン伯爵領を通過する北ルートの方が近いが、魔物や山賊も出るため大半が北西ルートを選ぶらしい。
ちなみに、上空からはその北ルートはよく見えなかった……本当に馬車でも通れるのか?
「あっ、見てカース。あれじゃないかしら。」
「おっ、それっぽいね。行ってみよう。」
ペニンシュラ半島の岬から海岸線沿いを西に飛ぶこと数十分。村と呼ぶには大きめの街が見えた。漁村ってより漁師街って感じ? さすがにバンダルゴウほどではないけど港も整備してあるようだし、船だって数隻は見える。同じ漁村でもタティーシャ村よりだいぶ規模が大きいようだね。
おっ、第一村人発見。まあ五、六人いるけど。岸壁に並んで釣竿を垂らしてるね。
「やあこんにちは。ここってセパルス村で合ってるかな?」
「うおっ! びっくりしたぁ! お前今上から来たの!? うげっ! めちゃくちゃきれーー!」
面白い村人だなぁ。三十前ってとこかな? ほどよく日焼けした屈強な漁師って感じ?
「きれいだよな。王国一の美女だからな。」
「ぬおっ!? そっちの、兄ちゃん? もきっれーな顔してんなぁ! 空から来るだけあんのかよ!?」
空から来たから飛びっきりってか? 上手いこと言いやがって。
「何だ何だー!?」
「男が二人? 女と狼と、蛇ぃ!?」
「いい服着てんじゃねー?」
「ここセパルス村だでー? 何か間違えてんじゃねー?」
ぞろぞろ集まってきた。よし、正解だったか。
「セパルス村でいいんだよ。ここに来たくてさ。実はブータルグを食べてみたくてさ。たっぷり買いたいんだけど村長んちを教えてくんない?」
「あぁん? ブータルグだぁ? 高ぇぞー?」
「んじゃ俺が連れてってやるよ。買えるかどうかは知らんがよー」
おっ、殿様商売でもしてんのか?
「やっぱ大人気なの?」
「おー。それもあるけどな。売れるやつと売れねーやつがあんだよ。まー詳しくは村長から聞きな」
ほう? 気になるねぇ。王家に献上するほどの品は数が少ないって感じなのかな?
スサイエを探す手がかりを求めて来たはずだけど誰もあいつのことなんか気にしてないんだよなぁ。私もだけど。
ブータルグが気になって仕方ないんだよね。どの酒と合わせるのがいいんだろ。スペチアーレ男爵の酒とも合いそうだよなぁ。あとヒイズルの酒ともさぁ。逆にセーラムのワインとはどうなんだろう?
これがカラスミだと辛口の日本酒と相性良さそうなんだよなぁ。いやーブータルグ気になるわー。




