309、セパルス村のブータルグ
とりあえずもう少し話を聞くだけ聞いてみるか。何か糸口があるかも知れないし。
「スサイエについて知ってことを話してみな。」
「そりゃあいいけど、あんま知らねーぞ? 渡りの職人に詮索は禁物だからな」
冒険者だってそうだよ。つーかこいつさっきまでビビりまくってたくせにさぁ。やけに元気になっちゃってまぁ。
「いいから。分かる限りのことを話せ。」
ふむふむ。
アレクサンドリアを逃げる時、マルテアは王都を目指して西に向かったけどスサイエは東に向かったのね。どこを目指すかはもちろん聞いてない。
でも紹介状はバンダルゴウのオウティル工房のを持っていたと。もちろん私は初耳の名前だけど。港湾都市バンダルゴウか。エルネスト君なら知ってそうだな。
しかし東とはいえバンダルゴウに向かったとは限らないわな。アレクサンドリアとバンダルゴウの間って貴族領が五つか六つはあるだろ。
ほうほう。スサイエがはっきり言ったわけじゃないけど、どうもマルテアには奴が何かやらかしてバンダルゴウから逃げた風に見えてたらしい。話すうちに思うところがあったと。
それから酒は飲まない。仕事終わりに誘っても来たことがないと。どうも我慢してるんじゃないかって? それは今どうでもいい情報だな。
つーか、バンダルゴウの工房出身ってことしか分からなかったじゃん。普段からこうして自分の情報を語らなかったことが追手を遠ざけるコツなのかねぇ。月末までもう四、五日余裕はあるからバンダルゴウまで行ってもいいんだけどなぁ。
エルネスト君に言えば協力もしてくれるだろうけど……話が大事にならないかちょっと心配なんだよなぁ。あの辺一帯の大公であるフランツウッドのところまで話が行ったりしてさ。
「よーく思い出してみろよ? どこの生まれとかどこで育ったとか、何か痕跡やクセみたいなものとかなかったか?」
「あー……そういやあいつ辛い物が好きだったな……香辛料がよく利いたやつ。なのに酒飲まねぇって意味分からねぇよ」
「ふーむ……」
となると生まれもあの辺なんだろうか。バンダルゴウを含むあの辺一帯、タンドリア地方は味付けがやたら辛かった覚えがあるんだよな。あれはあれで悪くはないけどさ。
「あー、あと一度あいつに食わせてもらって美味かったモンがある。名前は何て言ったか……ブータとかブータラとか……俺にはちっと塩辛え気もしたけど、なんか濃厚でねっとりしててよ。やけにクセんなる味だったぜ」
「きっとブータルグね。渡りの職人が気安く口にできる物じゃないんだけど。物によっては王家に献上される程の逸品よ?」
さすがアレク。ブータルグか……名前だけは聞いたことがあるけど食べたことはないなぁ。何かの魚の卵巣の塩漬けだっけ? ん? それってカラスミとは違うのかな? ちょっと興味が湧いてきた。パスタに合いそうじゃん? バンダルゴウ行こっかなぁ。あ、いやいや、産地はどこなんだ? バンダルゴウの近くか?
「ちなみにアレク、その王家に献上するレベルのブータルグはどこで作られてるか分かる?」
「ええ。バンダルゴウの北東にあるペニンシュラ半島ね。あの半島は確か丸ごとタラバルドン伯爵領だったわ。ブータルグの産地は半島の北側、セパルス村だったかしら。」
あー、よく覚えてないけどその半島って東に突き出てる感じだっけ? その北側ね。
「さすがだね。じゃあ明日にでも行ってみよっか。ブータルグも食べてみたいしさ。」
「いいわね! 実は私もセパルス村のブータルグは食べたことがないの。楽しみね!」
「儂も気になるのぉ。話を聞くに海の物なのだろう? 儂らは海とは縁遠いからのぉ。」
おっ、アレクも村長も乗り気か。マイコレイジ商会の命運がかかってんだけどね……
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんはすっごく食べたいと言い、カムイはそんな塩辛そうなもの要らないと言っている。じゃあお前には焼き魚食べさせてやるよ。
なおコーちゃんの本音はブータルグを肴にしていいお酒が飲みたいんだよね?
「じゃあ親方、時間取らせて悪かったね。装備をお願いしたいと思ってたけど忙しそうだしまたにするよ。手袋とかベルトが欲しくてさ。帽子もね。」
「うーん、そうだね。ベルトぐらいなら何とかなるけど、来月でもいい?」
「おっ、いいの!? じゃあまた来月相談に来るね。それからマルテア、その時までにどうしたいか考えておけよ。片眼鏡の魔道具はその時に返すわ。」
「お、おお……」
「あ、そうだ親方。これ、みんなで食べてよ。南の大陸のやつだよ。」
特大の鮑。王都で買うと超高いだろうなぁ。
「おおっ、これはすごいね。ありがたくいただくとするよ。来月楽しみに待ってるからね。」
そう言ってもらえると嬉しいね。まあ、場合によっては数日後にマルテアを迎えに来るかも知れないがね。証人として。
さて、今日のところはここまでかな。ゼマティス家に泊めてもらうとしよう。




