306、メイザン工房のボワート親方
ベゼル男爵領からおよそ二時間、王都の第一城壁外側へと到着した。さすがのアレクも疲れきっているね。逆に私はずっと膝枕で寝てたもんだから元気いっぱいだわ。村長からもまた少し魔力を貰ったので、現在は一割ってとこだね。
ここからは歩いてボワート親方のいるメイザン工房まで行こうと思ったのだが、アレクがきつそうだったので辻馬車に変更。乗り心地はそこまで良くないけどちょっとだけリッチな気分にはなれるよね。
それにメイザン工房は第二城壁の内側だしね。ここからだと少しばかり遠いからなぁ。
「着きましたぜ。銀貨二枚でやす」
場所で一時間ちょいかかって銀貨二枚。王都にしては安いね。
「へい毎度。またご贔屓に」
ここって店舗側しか入ったことないけど中庭とかあってかなり広いらしいんだよね。まあ今回は聞き込みするだけだからどうでもいいんだけど。さあ、親方はいるかな? マルテアがいれば一番早いんだけどなぁ。
「いらっしゃいませ。魔王様にお嬢様、よくお越しくださいました」
すごいな。一回しか来てないのに。店番の店員からしてこのレベルとは。
「やあどうも。親方はいるかな? 実は買い物じゃなくて聞きたいことがあってね。あと装備の発注もするかも。」
「親方は多忙ですので本来ならばご予約をお取りいただき後日調整とさせていただくところですが、他ならぬ魔王様ですので……少々お待ちくださいませ」
「悪いね。ありがと。」
王都の商会で私を恩人だと思ってくれているところは多い。つくづく人助けってのはしておくもんだよね。それにゼマティス家の紹介でもあるし。魔道具工房とゼマティス家、お互い関わりが深そうだもんね。
「やあ魔王さんどうも。今日は何事で?」
「こんにちは親方。いきなり悪いね。まずは一つ、聞きたいことがあってさ。渡りの職人マルテアって知ってる?」
ここの親方って見た目はそんなにゴツくないんだよね。中肉中背って感じ? でも脱いだらすごかったりして。
「マルテア? もちろん知ってるよ。あいつがどうかしたのかい?」
「うん。探してるんだよね。最近見たりしてない?」
「ああ、それなら見たどころか今うちにいるよ。呼んでこようか?」
「おっマジで!? 助かるぅー! ぜひお願い!」
ちょっとテンション上がっちゃったよ。こんなに順調に見つかるって珍しくない?
あれ? でもマルテアって逃亡してここに来てんだよな? こんなにあっさり見つかるってことは……
「よかったわねカース。あとはマルテアが何か知ってれば言うことなしだけど……」
「だよねぇ。期待しておくとしようね。」
「すまないね魔王さん。入れ違いで昼メシに出たらしい。どうしよう? 後でゼマティス家にでも連れていこうか?」
うーん……嫌な予感がする。
「いや、それなら悪いけどその飯屋に連れてってもらえない? その代わり払いは持つからさ。」
「いいとも。じゃ昼メシがまだの奴に案内させるよ。あいつ昼はいつも清流亭だしね」
ほう。清々しい名前だね。王都の中でそこそこ川が流れてもんね。清流って言えるのかどうか疑問だけど。
到着。歩いて五分ってとこか。私達はもう昼飯済んだしなぁ。
「そんじゃちっと呼んできまさぁ」
「頼むね。」
カムイ……すまんが裏口に回ってくれるか?
「ガウガウ」
念のため念のため。
「すまねえ! なぜかあいつ逃げやがったあ!」
おっ、珍しく私の悪い予感が当たったか? でも残念だねぇ。そっちにはカムイがいるんだぜ?
『グオオオーーーン!』
はは、カムイの魔声だ。穏便に捕まえようとしてくれたわけか。では行こう。
うん。気絶してるね。金壺眼にまだらハゲ、こいつがマルテアで間違いないようだ。
「じゃあこれ、払いに使って。こいつは工房に運んでおくから心配はいらないよ。」
銀貨を二枚。昼飯二人分には余裕でお釣りが来るだろ。
「おお、こいつはかっちけねえ。で、こいつぁ何やらかしたんで?」
「いや、それが分からないんだよね。だから話を聞くだけのつもりだったんだけど。怪しくなってきたねぇ?」
「そ、そうでしたかい……そいじゃ、ごめんなすって」
それにしても面白い喋り方をする職人さんだったね。職人ってそんなもんだったっけ?
再びメイザン工房へ。今度は中庭をちょいと借りて……
「アレク、起こしてくれる?」
「ええ。」
『覚醒』
「……あ、ひいっ!?」
「ようマルテア。お前俺が呼んでるって聞いて逃げたんだよな? この魔王様からよぉ?」
自分で魔王様とか言うのはさすがに恥ずかしい……でも我慢我慢。
「魔王さん、あまり手荒な真似は……」
「もちろんだよ。話を聞きたいだけなんだからさ。」
親方も面倒見がいいねぇ。逃げてきたこいつを雇ってやるだけあるねぇ。
「あ、そうだ。先に親方に聞いていいかな? こいつ半年ぐらい前にアレクサンドリアのアルケミアル工房から逃げてきたんだよね? 理由は聞いた?」
「ん? いや、ここに来たのは一月ほど前だね。確かにアレクサンドリアから逃げ帰ったとは聞いているよ。理由もね。」
「一応その理由聞いてもいい?」
「ふむ。それこそ理由によるよ? こんな野郎でも弟弟子だからね。うちの門をくぐったからには守ってやるつもりだからね?」
あぁ、弟子じゃなくて弟弟子だったのね。年齢的にもそうなのか。親方の方が若く見えるが。
「じゃあ、ちょっと長くなるけど聞いてね。発端はフランティア領都での出来事なのよ。」
普通なら偽印を作られたなんて話を外でするのはまずいんだけど。他ならぬボワート親方だしね。王都一の魔力庫職人と呼ばれるほどの男がこれ系の話を漏らすとは思えないし。特にゼマティス家と関わってたら、ね。
しまったな。長話になるんだから場所を移してもよかったなぁ。まぁいいか……




