181、飛んだ親指
血が吹き出てる。左手の親指がない。
痛くはない、でもやけに熱い……火傷なんかしてないはずなのに……
「カース! それ、血を止め、水の魔法で!」
「んあっ!? おいそれどうしたぁ!? 指かぁ! どこ行ったぁ!?」
アレクもクライフトさんも取り乱してる。珍しい。
『水壁』
高圧の水魔法で傷口を包み、血を止めた。
くっそ、まさかこんなことで指が飛ぶって……上から落ちてきた肉が肩の近くに当たり、よろけたところに自分の水鋸があるとは……
「ごめんアレク。指を探してくれる? みんなも悪いけど。」
「もちろんよ! 私は地面を探すわ! ダークエルフの皆さんはこの周辺をお願いしますわ!」
地面に落ちててくれるとありがたいんだが……くっ、傷口が熱さから痛さへと変わってきた。
『麻痺』
ふぅ。とりあえずこれで凌ごう。
考えようによってはこれでラッキーだったのかも。首や胴じゃなくてさ。恐るべし私の水鋸……
ダークエルフ達が探してくれてる方が厄介だ。アースドラゴンの首、その解体現場……下手すりゃ食道を逆流して口の中にまで入り込んでないか?
くっそぉ……体表密着型の自動防御を張ってたってのに。私の水鋸の斬れ味が良すぎたのか……
私はその間を探してみよう。地面と喉元の間、アースドラゴンの頭部の外側を。ここら辺も引っかかる所はいくらでもあるからなぁ……
「カース君、どうし、ええっ!? ご、ごめん! もしかして肉で指が切れたの!? ご、ごめん……僕なんてことを……カース君の指にとんでもないことを……」
スティード君……わざわざ見に来てくれたのか。みんなで慌てちゃってるもんなぁ。
「いや、さすがに違うよ。これは僕の水鋸で切っただけ。さすがに肉で指は切れないって。」
「で、でも僕が落としたせいなのは間違いないんじゃ……」
「んー、スティード君のせいとは言いにくいね。せいぜい二割ってとこかな。だから今度王都でお酒奢ってね。」
上にある物は落ちる。だから上下に分かれて同時に作業を進めようとした私が悪いんだよね。反省。
普段なら物が落ちてきても魔法で浮かせたりできるけど、今はアースドラゴンの胴体があるから見えないもんなぁ……そりゃ当たる瞬間まで気付かんわな。むしろ声かけがあったんだからもっと注意するべきだったな。まあ聞こえたのは直前だから無理と言えば無理だが……
「わ、分かったよ! 本当にごめんね! じゃあ僕も探すから!」
「あーあ、スティード君やっちゃったねー。これはアレックスちゃん激おこプンプン卿だねー。」
セルジュ君がまた変なこと言ってる。大昔やたら怒りっぽい貴族がいたんだっけ? さすがに名前までは覚えてないが……そいつが元ネタだっけ? プンプン卿……
「セルジュ君大丈夫だよ。アレクと一緒にお酒を奢ってもらうから。高いやつを。」
「そう? 指が飛んでるのにカース君は寛大だなぁ。」
「そんなこといいから二人とも早く探しなさい! 虫や魔物に食われたら終わりなんだから!」
おっと、サンドラちゃんも来た。そしてすっごく正論。経験上、私みたいに魔力の高い人間は手足が千切れても丸一日ぐらいまでなら繋がることは分かってる。でもそれは千切れた手足が無事であることが条件なんだよなぁ。
その昔オディ兄の腕がぶち切れた時も半日ぐらい野晒しになってたけど、今思えばよく虫なんかに食われなかったよなぁ。あの草原はゴブリンやコボルトだって多いのに。
「悪いねサンドラちゃん。頼むね。」
「当たり前じゃない! カース君はあっちで横になってなさいよ! 動いちゃだめ!」
それもそうか。最初こそ出血が激しかったけど、すぐ止めたもんなぁ。おまけに『麻痺』も使ってるから痛くも何ともないし。
でもサンドラちゃんの言うことだし、大人しく従おうではないか。地面まで降りておこう。
三十分ぐらい経ったかな。みんな一生懸命探してくれてる。ダークエルフなんかアースドラゴンの食道や器官に潜ったりしてくれてるし。サンドラちゃん達三人は外側、皮膚の周りを何度も上から下までチェックしながらグルグルしてる。
アレクとコーちゃんとカムイは地面だ。コーちゃんの第六感やカムイの鼻でも見つからないってことは地面には落ちてないってことだろうなぁ。よっぽど遠くまで飛んだってことも考えられるけど……
なんせ水鋸はかなり高回転だったからなぁ。つくづく首じゃなくてよかったわぁ……
しかし困ったなぁ……魔力探査か何かで見つからないものか……
『魔力探査』




