161、唐突な大仕事
サンドラちゃんはやけに気になるようだな。
「ということは……魔王サタナリアスは人間を滅ぼす気はなかったのでしょうか。あくまで胎身籠が目的なのであれば……」
「今となっては分からぬがな。エーデルトラウトヤンフェリックス様が言われる通り遊び半分だったのやも知れぬし。」
そもそもばあちゃんが知ってるとも限らないしね。ダークエルフ村長以外で可能性があるならばあちゃんしかいないってだけの話だし。
「そうですね……分かりました。逆にダークエルフの皆様は人間に対して憎いという気持ちはないのでしょうか? かの魔王は勇者ムラサキによって討たれたわけですし……」
「うむ。悲しいことだが、ないな。あれは明らかにソンブレア村の恥晒しであり全エルフ族を裏切る行為だからな。六分の一といえど我らは世界を支えていたのだ。そこを揺るがし、父祖の労苦を無にしかねない軽率さは許せぬよ。」
おぉ、まともだ。それでも人間許さんって短絡的な奴だっていそうな気もするけどさ、村長がこれならまぁ安心できるよね。
「安心しました。私達の間には魔王サタナリアスがダークエルフだなんて広まってませんし、そもそも人間にとってはエルフの存在さえ半ば伝説です。だからこの先もしも両者の道が交わることがあるのなら、喧嘩別れになるのは悲しいと思ったものですから。」
おおー、サンドラちゃんたらえらく先のことを考えてるねぇ。それも王太子妃付き女官の嗜みなのか?
「そうだな。我らとて人間と交流を持つなど考えたこともなかったからな。今思えばサタナリアスを討った勇者とやらにも会えたらよかったのだが」
「ところで村長様。実は今フェアウェル村や人間の国にはドワーフと呼ばれる種族が来ております。皆カース君に惹かれて集まった方々です。ダークエルフの皆様も同じことができないでしょうか?」
うおっ、サンドラちゃんたらいきなりぶっこむなぁ。交換留学のノリだろうか。
「ほう、ドワーフか。噂には聞いたことがあるが、実在したのだな。しかもカース殿を慕って集まったのか? さすがはカース殿だ。で、何をしたのか詳しく聞いてもよいか?」
「間違いないと思いますわ。ねっ、カース君?」
説明は私に丸投げなのね。そりゃあ詳しくは私かアレクしか知らないからなぁ。
「あー、えーっとね。人間の国から海を隔てた南に大陸があってさ。えーっと、そこでね…………」
セティアニアでの出来事について大雑把に説明。
「ほう。やはりカース殿だな。種族は違えど罪なき者には手を差し伸べずにはおれぬと。逆に同族といえど無法は許せぬわけだな。うむうむ。それこそ勇者の所業ではないか。人間はカース殿を勇者と呼ぶべきではないか?」
いやぁ照れるなぁ。でもそれはアウトかな。魔王に『王」の字が付いてるのだって運良く黙認的にぎりぎり公認してもらってるわけだしね。勇者なんて言われるようになったらさすがに王家が黙ってないだろうなぁ。
一応その辺の事情も少しだけ、ふんわりと説明しておこう。
「なるほど。そういえば人間の王は勇者ムラサキの末裔だったか。しがらみ、いや体面と言うやつか。だが確かに魔王と勇者では大違いか。カース殿の『魔王』は最早一つの独立した敬称でありサタナリアスとは無関係だしな。」
そうそう。王家のプロモーション活動を邪魔してはいけないのさ。
「だよね。いつからそう呼ばれるようになったか分からないけど今じゃあ意外と気に入ってるしね。今さら勇者なんて呼ばれたくないって。」
どーも魔王です。って自己紹介するのも実は気に入ってるしね。
「そうね。カースはやっぱり魔王が似合うわ。むしろカースのおかげで魔王の印象がだいぶ良くなってる気もするわね。」
それは良し悪しじゃない? ローランドじゃあ魔王サタナリアスのイメージはとっくに薄れてるしね。良くなってるってより私のイメージが強くなってるだけな気もするが。まったくアレクったら私が大好きなんだから。
「はっはっは。そうか。魔王といえばカース殿だな。我らですら魔王さんと呼ぶ者がほとんどだからな。ニンちゃんと呼んでた日々が懐かしくすらある。」
だよなぁ。不思議だわぁ。
「お待たせしました魔王さん。お茶をどうぞ!」
おっ、見知らぬダークエルフちゃんが飲み物を運んできてくれたぞ。見た感じは高校生ぐらいの金髪ガングロだがギャルギャルしくはないね。
「おっ、ありがとう。いただくね。」
暖かそうなお茶だ。はたして何茶なのかな? あっ、美味しい。ちょっとクセがあるけど苦いってわけではない。強いて言うなら烏龍茶に近いのかな?
「ラスティレッドトレントの葉から作った茶でな。体が温まるし魔力の流れもよくなる。この地においては欠かせぬ嗜好品だとも。」
「へー、初耳だよ。そんなトレントがいるんだね。美味しいよ。」
「真っ赤な実がなるのだが、それも絶品だな。秋にまた来て欲しいものだ。」
へー、気になるな。やっぱ実がなるのは秋なのね。一年中いつ行ってもなってる蟠桃はどうしたことなんだろうなぁ。
ふぅ。お茶が美味いね。たくさん喋ったからなぁ。どうもエルフやダークエルフの歴史って掘れば掘るほど出てきそうだよな。人間と違って途中で断絶してなさそうだもんなぁ。
「おおそうだ。せっかくカース殿が来てくれたのだ。ここは一つ大仕事に協力してしてはもらえぬか?」
「大仕事? もちろんいいよ。どんなの?」
「イグドラシルを移動させるのだ。元の場所へとな。」
え、マジで!?




