160、ダークエルフの見解
「それでは改めまして、私はカース君の友、サンドラ・ムリスと申します。ダークエルフ族の村長様にお会いできて光栄ですわ。」
「うむ。我らは人間の顔の区別はつかぬし名も覚えられぬが許されよ。もちろんカース殿は例外だが。」
まあそれは仕方ないよね。私だって蟻を一匹ずつ区別するなんて無理だし。悪気がないのも分かってるしね。
「それでですね、カース君に無理を行って連れてきてもらったのは『蠢く闇』についてお聞きしたかったからなんです。」
「むぅ……エーデルトラウトヤンフェリックス様から聞かれたか。我らダークエルフ族にとっては忌まわしき存在よな。」
実際は地上の全生物と天上の神々にとっても忌まわしい存在なんだろうけどさ。ダークエルフにとっては特にってことよね。
「ロードについて聞きたいのです。強大な闇の力を手に入れたと。それがなぜわざわざ人間の国を攻めてきたのですか?」
ハイエルフ村長から遊び半分ではないかと聞いてはいるが……村長も知らないって言ってたもんなぁ。本当だろうか?
「すまんな。私も知らぬのだ。あるいは姉なら知っていたかも知れぬが。エーデルトラウトヤンフェリックス様には聞かれてないのか?」
「ええ……知らないとおっしゃってました。あるいは遊び半分、戯れではないかと。」
「ふむ……そうなのか。やはり闇にその身を飲まれた者の思考などその程度なのやも知れんな。同胞を闇に堕としエルフ族の信頼を失い、我が叔父ながら吐き気がする……」
おっ、新情報。この村長ったら魔王サタナリアスの甥っ子かよ。
「ちなみにその理由を知っているかも知れないお姉様は今どちらに?」
「おらぬよ。数年前まではいたのだがな。カース殿に送っていただいたよ。天へと、安らかに……」
「えっ!? ちょ、それってまさかばあちゃんのこと!?」
何それ!? ばあちゃんって魔王の姪っ子だったの!? 初耳すぎるぞ……
「そうだとも。前の村長、インゲボルグナジャヨランダは私の姉だよ。そしてサタナリアスの弟の娘だな。だから私も姉も生涯独身を貫きこの血脈を終わらせることを選んだのさ。気休めにしかならんがね。」
「まさか、カース君が前言ってたあの方!?」
「そうだよ。まさか魔王の姪だなんてね……ばあちゃんの口からは子供がいないしか聞いてなかったけど、そんな理由だったんだね……」
ダークエルフは妊娠しにくいって言うから子供がいないのってその所為って思うじゃん? まさかそんな重い覚悟があったとは……
「他のエルフ族へかけた迷惑を思えばダークエルフ族は自ら滅びるべきか悩んだこともあった。だが、御神木イグドラシルを守り続けるという使命に比べれば我らの恥辱など何の意味もないと姉に言われてな。おめおめと生き恥を晒しているというわけだ……しかもだ。そのイグドラシルを枯れさせるという大失態。もはや顔向けできぬどころではないがな。」
「いや、でもばあちゃんが『毒沼』を使わなかったらもっと酷いことになってたよね? イグドラシルの魔力を全部吸収したマウントイーターなんて誰も勝てないんじゃない?」
それこそ世界が終わるだろ……いや、まあその時は始祖エルフが何とかしそうな気もするが。いや、ハイエルフ村長がやるかな?
「その通りでもある。そのような事情があるゆえな。何としてでも我らの手で奴を仕留める必要があったのだ。後先考えずにな……」
だからって毒沼なんてよっぽどの覚悟がないと使えないよな……死ぬより苦しいんだからさ……
「村長様……」
「だからこそ……姉を苦痛から解放し、魂を救ってくれたカース殿にはひとかたならぬ感謝をしている。姉が我が子のように可愛がったのも今思えば必然だったかのように思うよ。」
私としては孫のように可愛がられたイメージなんだけどね。まあ似たようなもんか。
「あの、村長様、サタナリアス本人に子供はいなかったのですか?」
そういえばそうだな。魔王サタナリアスと魔王妃リリズゼズルは夫婦で有名だけど子供がいたってのは聞いたことないな。
「いなかったよ。あぁ、だからこそ闇の力を求めたのかも知れんな。人間の国へと攻め入ったのも、あるいはそこに理由があった可能性もある。」
さっきから初耳だらけだよ。まあダークエルフ村長も今思い出して喋ってんだろうけどさ。
「え……でもいったい何が目的で……あぁ! も、もしかして……」
マジか。私も気づいちゃったよ。てことはやっぱ魔王って正気じゃなかったんだろうなぁ。
「分かるか? 胎身籠と言うそうだな。本当にそんなものがあるのか?」
あるわけないじゃん……
あれ戦乱の時代の話だぞ? でもエルフ的にはちょい昔って感じなんだろうか。
「噂に聞いたことしかありませんわ。何でも魔物の子を人間に産ませようとした外道の所業だとか。その国もとうの昔に滅んだそうで。私達の歴史で言いますと戦乱の時代ですので、今から四、五百年は前ですわ。まさかそんなお伽話がエルフの皆さんにまで届いているなんて……」
「なるほど……存在した可能性はあったのか。それがなぜサタナリアスの耳にまで届いたかは分からぬが……もしかしたら本当に、有りもせぬ秘薬を求めていたのかも知れんな……」
うーむ……遊び半分で人間の国を攻めるよりはよっぽどまともな理由に思えてしまうな。
でもエルフから見たら人間は虫だろ?
てことは小さい子が蟻を踏み潰すノリで攻めるってのも納得はできてしまうんだよなぁ……どちらにしても元祖魔王は頭がイカれてるってことは分かった。
魔王妃も止めろってんだよ……




