507、宝玉の効用
そして長老は地面に倒れた。私の右手を握ったまま。
「バルダ……俺はどうしたらいい……」
「もう少しだ。もう少し待ってくれ」
「分かった。じゃあその間に説明してくれ。これどうなってんだよ……」
左手が宝玉から離れないし。長老の手を振り解く気もない。
「まずこの宝玉の説明からするわ。この血醸之星なんだけどな、我らにとっては魔の供給源なんだ。もちろん無限じゃないけどな」
魔力の供給源? 元ニコニコ商会のシンバリーが使ってた魔道具みたいなもんか? 王都ぐらいの範囲なら魔力を送ってくれる感じのやつ。
「魔力を回復してくれるってこと?」
「そんな感じだ。体感でだいたい半分ほど補充してくれるんだ。この厳誡山内で鍛治などをする場合だけだがな」
ふーん。便利は便利そうだが……
「長老の血は何の意味があるんだ?」
「ああ……定期的に族長クラスの血を捧げる必要があるんだ。もちろん少しでいいんだけどな……だが今回は……二百年以上も放置してたんだからな。ちょっとやそっとの血では動いてくれないと、長老は考えたんだろうぜ……結果は、今に分かる」
ふぅむ……むしろ血をたっぷりかけただけで二百年間動いてなかったものが動くとは思え「ミーミー」
おっ? どうしたノミーデス。
ふよふよと浮かんで宝玉の上に腰かけた。
「いける。いけるぜカース。ノミーデス様が祝福を注ぎ込もうとしておられるぞ!」
へぇ、こいつが動くためには精霊の祝福まで必要なのか。あっ、分かった。だからセティアニアの奴らに奪われてないのか? ノミーデスを真っ先に閉じ込めたもんだからこいつが動かなくなったとか? そうだとしても宝石としての価値はかなりありそうなもんだけど。
「ミーミー」
こいつ大丈夫か? 私から何度か血を吸いはしたけど、まだまだ回復してないだろうに。
あ、いつの間にか宝玉が赤く光ってる。さっきまでの渋いワイン色ではなく、鮮やかな赤色に。
「よし! これで大丈夫だ! 我もこの状態を見たことがあるわけじゃないんだけどな。長老から聞いてた通りだ。もう手を離していいぞ」
「おお。」
宝玉から左手が離れる。長老は浮かせて私が抱きかかえておく。なんだよこれ……もう冷たく、軽くなってやがる……長老、そこまでして……
「これでもう血醸之星は名実ともにお前のものだ。今後はどこか拠点に置いておくといい」
「ありがたく借りとくよ。どの程度魔力が回復するかは今後の楽しみかな。ちなみに俺の血を定期的に注ぐ必要があるんだろ?」
「ああ。輝きが鈍くなったらお前の血を数滴吸わせればいい。他の者の血でも悪くはないが効率が桁違いだとよ」
なるほど。分かりやすいな。では収納してみよう。できるか……できた。たぶんまだ魔力が充満してないからだろうな。なんせ二百年ぶりに復活したわけだし。楽園に置くか領都の屋敷に置くか、帰ってから考えよう。
後はこいつがどんだけ離れても回復してくれるのかってことだが……これも帰ってからのお楽しみかな。魔力庫の中に入れっぱなしだと回復してくれないだろうな。
「長老……」
「我らのために……」
「うおおおお長老ぉ……」
「……ドワーフの、葬儀は……どうやるんだ……」
涙が出るほど悲しいわけではない。でも何だろう……ちょっと心に隙間ができたような気がするな……
「ここから南にしばらく行ったところに岩に囲まれた場所があるらしい。そこに安置する。砂漠葬だ」
「分かった。行こうか……」
「ミー」
ノミーデスがふわりと長老の胸に降り立った。




