506、血醸之星
長老に続いて私達も中に入る。奥は当然ながら真っ暗……
「ごほ、いかんいかん。忘れておったわ。誰か『雷灯』を持ってくるのだ。確か荷物の中に入っておるだろう」
「心得た」
ライトウ? 気になるな。懐中電灯的な魔道具かな?
「長老、持ってきたぞ」
「うむ、すまぬな。さて……」
おっ、光った。見た目は懐中電灯と同じだけど範囲が広いな。前方全てが明るくなってる。いいもの持ってんじゃないの。
「ごほ、待たせたのカース殿。こちらじゃ」
長老の後に続く。内部は結構広いな。岩山の中を蟻の巣みたいに道が通ってるのかな。蟻の巣と違うのは水平や垂直がきっちりしてるとこだろうか。道もまっすぐだし。おっ、階段まである。降りるのか。
「ごほ、カース殿、覚えておられるか? 先ほどの話を」
「どれのこと?」
長老とは結構喋ってるからな。どれのことか分からんぞ。
「ごほ、あれを譲ると言ったではないか」
「あー、地上の星だっけ? でもドワーフの大事な宝なんだよね? 別にいらないよ?」
好意で言ってくれてるのをいらないと言うのは心苦しいが、そこまで欲しくないのも事実だしなぁ。赤い宝玉だって話だし、アレクに似合いそうなら検討の余地はあるんだよね。
「ごほ、カース殿のお気持ちは嬉しく思う、が……我らとてこれほどまでに助けてもらい、何の礼もせずではこの先生きていけぬではないか。ここは我らの顔を立てると思って受け取ってはいただけぬか? おそらくは、役に立つと思うしの」
そこまで言われちゃあね……役に立つかどうかはともかくさ。
「分かったよ。ありがたくいただくね。」
「ごほ、ありがとうなカース殿。皆の者もよいな? そしていつの日か、我らドワーフ族が完全復活できたなら……カース殿から血醸之星を買い戻すのだ!」
「おおーー!」
「我らの価値を示すのだ!」
「宝玉に勝るほどの魔道具を作ってみせるぞ!」
「ここから新しいドワーフ族の歴史を始めようぜ!」
もぉー。だったらくれなくていいのに。ドワーフは誇り高いのね。精霊のために文句も言わず二百年間働き続けるぐらいだし、一度決めたら突っ走る性質なんだろうか。すごいね。
階段を降りたら今度はまっすぐ。岩山の体積以上に広そうだな。地下だってどんだけ深いことか。そんな通路の壁を、長老が撫でながら歩いていく。愛おしそうに。
「ごほ、この先にある礼拝室はの、精霊や神々に祈りを捧げるための場所での。小さな頃は入るのが恐ろしかったものよ……」
礼拝室が? どんな雰囲気なんだろうね。まさか真っ暗だからってことはないだろう。
「ごほ、それがまさか、この歳になるまで足が遠のくとはの。我らの不義理にケルニャータ様がお怒りになられても不思議はないの……本日より再び祈りを捧げねばの……」
鍛治と武器の神ケルニャータか。ドワーフに落ち度はないよね。そもそもケルニャータは別に怒ってないだろうし。
「ごほ、さあ着いた。どうぞカース殿も入られてくだされ」
「うん。お邪魔するね。」
へぇ。室内はほんのり明るいじゃん。これどうなってんの? そしてこの雰囲気……確かに子供には怖いかもね。何と言っていいか分からないけど、魔力的な重圧を感じる。かといって魔力が濃密に充満しているわけでもない。これが神威ってやつなんだろうか? 私だって神とはそこそこ縁があるんだけど、よく分からないな。
「ごほ、カース殿。あれをご覧くだされ」
部屋の奥には祭壇がある。その中央に見えるのが……宝玉、血醸之星ってわけか。神代文字に似た字が記されている。
「あれが血醸之星だね。渋い、いい色合いしてるね。」
濃いワイン色? えんじ色? そんな感じの赤だ。それにしても大きいな……直径一メイルはあるんじゃない? 渋い色合いがアレクに似合いそうではあるけど、使い道がないぞ……楽園かどこかに飾っておくぐらいじゃない? 割ってアクセサリーにするにはもったいないし。
「ごほ、カース殿、しばしお待ちを。この宝玉の真の力をお見せした上でお渡しするでの」
「真の力?」
ただきれいなだけじゃないってことか。
「ごほ、皆の者。今日までよく苦役に耐えてくれた。カース殿が助けてくれなんだら今でも、この先もずっと解放されることはなかっただろう……一族がそんな目に遭ったのはひとえに、我の力不足だ。ふがいない長老ですまぬ。罪滅ぼしにはとても足りぬが……せめて最期は一族のために、次の族長はバルダーボールドビン、おぬしだ。ジャンビョルンゲイルと上手くやりながら一族を導いてくれ」
え、何これ……遺言!?
「長老……分かった。もう二度とあのような目に遭わぬよう……我ら全員……力をつける。必ずだ」
あ、よく見ればバルダじゃん。私が初めて出会ったドワーフの。私の服装に関心バリバリだったよね。
「ごほ、カース殿。カース殿がこの地に現れたことは神のお導きとしか思えぬ。そなたはまさしく神子なのだろうの。本当にありがとう。今後……何十年かに一度、再び訪れてくれるとありがたい……」
「いいよ。」
宝玉を買い戻すってんなら来てやらないとなぁ……
「ごっほ……ありがとうカース殿。もし、もしも、この礼拝室を埋め尽くすほどの魔道具や宝玉が用意できたなら……買い戻させてやってくだされ……」
「いいよ。」
「ごふっ、ありがとう……では、バルダ……カース殿への説明は任せたぞ……皆の者、天上宮で待っているぞ!」
長老は左手首を掻き切り……その血を血醸之星にかける。
「ごっほ、ごほ、か、カース殿、こちらへ……」
長老が呼んでいる。
「ここに触れてくだされ……ごっごほっ……」
宝玉のど真ん中を手の平で触れる。上から長老の血が、流れ落ちてくる。
「ごほ、その、まま……」
「長老!」
「うご、くでない……」
今ならポーション使えば……
しかし、長老はもう……覚悟を……




