487、魔力押し
よく寝た……ってほどじゃないな。かなり眠い……
まだ日は高い。せっかく起きたことだし、この分なら夕方には商都に戻れるかな。
どれ、ちょっと領主邸内を散歩してみるか。誰か宮廷魔導士でもいたら領主に伝言を頼んでもいいし。
「あっ、魔王様! お目覚めでしたか!」
「ああ、おはよう。ちょうどいいや。領主様に伝言をお願いできるかな?」
部屋から出たらいきなり遭遇した。この子はメイドさんかな? 少し色黒で健康的だね。
「かしこまりました。何なりとお申し付けください」
「そろそろ出発したいけど宮廷魔導士で同行する方はいますか、と。」
「かしこまりました。魔王様は今からどちらに向かわれますか?」
「そこら辺をぶらぶら歩いてるよ。急いではないけど日没までにはあっちに到着したい、とも伝えてもらえるかな。それで伝わるから。」
「かしこまりました」
明るい時間帯だとストレスなく本気でぶっ飛ばせるからね。たぶん二、三時間で着くんじゃないかな。
さて、そこら辺とは言ったけど街中にまで出るとまずいだろうな。メイドさんに探す手間をかけてしまう。せいぜい中庭までにしておこう。えーっと、外に出るには、どっちだったか……窓から出よう……
おっ? あれは宮廷魔導士の方々ではないか。五人で何やってんだ?
「こんにちは。お久しぶりですね。何されてるんですか?」
船内で見た覚えのある面々だ。名前までは覚えてないけど。
「おお魔王殿か。なに『魔力押し』をな。ただの鍛錬よ」
おっ? 初耳だぞ。
「どんな鍛錬なんですか?」
「ならば見せて進ぜよう。次はスポイザークか」
「うむ。やろう」
向かい合わせに立ち、お互いに手の平を合わせる。手押し相撲的な?
「始め!」
「ほっ!」
「ふんっ!」
おお……なるほどね。魔力で押し合うのか。でもこれ……
「参った!」
最初の宮廷魔導士さんが弾けるように手を離した。さすがに判断早いな。
「くっ、スポイザークの勝ちか。どうだ魔王殿。理解できたかの?」
「理解できましたけど、危なすぎません?」
「ほう、やはり分かっておるな。一手どうだ? 魔王殿に勝てるとは思えんがの」
「やりましょう。」
手の平を合わせ、ゆっくりと錬魔循環をする。
「始め!」
合図と同時に手の平から魔力を、押し出す。それもただ押し出すだけでなく、相手の手の平の中、つまり魔力回路の中へと押し込むように。
「参った!」
あっさりと手を離した宮廷魔導士。判断が早いな。これ本当に鍛錬か? 実は遊びなんじゃないの? それも危険なさ。一歩間違えると魔力回路がズタズタになるぞ? それって魔法使いには致命的なのに。だから効率は悪くても『魔力譲渡』って魔法があるんだからさ。人間に直接魔力を注ぐのは危険だぜ?
「さすがは魔王殿よの。なんという濃密な魔力。いやいや感服仕った」
「こういうごり押しなのは得意なんです。」
力技で解決できるからね。魔力が残り少ないってのに……
「ふむ、ならば私ともう一手どうかな?」
「いいですよ。」
スポイザークさんと言ったか。手の平を合わせて……
「始め!」
おっ、これは……面白いことするなぁ。じゃあ私も……
「参った!」
ふふふ。どんなもんよ。
「さすがは魔王殿。一点に集中した魔力をいとも容易く押し戻すとは。しかも同じことを真似てのけるとは」
「一瞬冷やっとしましたけどね。」
手の平の中心あたりから鋭い魔力が流れてきたんだもん。驚いたよ。だから同じ場所に魔力を集中させて押し返した。おまけで指先からも魔力を流し込んでみたしね。
「ならばこれならどうだ?」
「いいですよ。」
向こうも本気になったみたいだな。手の平を合わせて……
「始め!」
おっ、動かない。この人やるなぁ。では少しずつ魔力を強くしようか。
「ふんっ、むむっ……」
おお、がんばるね。ではもう少し……
「ぐぬっ、ぐぐっ……」
おお、必死だ。やるじゃん。ん? この人の後ろに……
ならもう少し強くしてもいいよね。
「ぐはぁっ! 参ったぁ!」
「三人がかりはずるいですよ。」
「ははは、それでも涼しい顔して勝ちおったではないか。やはり魔王殿は別格だの」
宮廷魔導士が二人ほど対戦相手の背中に手を触れて魔力を補充してやがった。だからってその魔力をそのまま手の平からの放出に使えるのは魔法技術の高さを物語ってるよな。口から水を飲みながら鼻から出すようなもんだろ。さすが宮廷魔導士だよなぁ。芸達者だわ。
「魔王様、領主様がお呼びでございます」
おっ、さっきのメイドさんだ。いいタイミングで来てくれたね。
「分かった。行こう。じゃあ皆さん、お邪魔しました。」
「うむ、またの魔王殿」
「我らも修練を積んでおくでな」
「勉強させてもらったぞ」
勉強になったのは私の方だとも。これならカムイを相手にトレーニングをすることもできそうだからな。
さて、商都には誰が行くのかな。宮廷魔導士って誰でも頼りになるからなぁ。




