475、怪しい男
カムイ、頼む。それっぽい奴が逃げた方へ行ってくれるか?
「ガウガウ」
匂いが多くてよく分からないって? まあ、そりゃそうだよな。カムイが暴れる前にはもう逃げてたんだろうし。
「いよっ、マオウの旦那。さっきはどーも」
「ん? まだいたのか。何やってんだ?」
さっき逃してやった奴だ。
「オレにゃあお見通しだぜ? 誰か探してんだろっ? そしてそいつはこの牢獄にはいなかった。だろ?」
「お、驚いた……よく分かったな。お前すごいな!」
意味があるかどうか分からないけど演技してみた。こんなカスでも煽てりゃ木に登るかも知れないしね。
「へへっ、オレにかかりゃあこのぐらい楽勝さぁ! で、誰を探してんだい? 牢獄にまで来てるぐらいだからどうせ悪党なんだろ?」
「商王なんだけど。居場所知ってるか?」
「ふーん、ショーオーねえ。聞いたことないなあ。そいつ何をやらかしたんだい?」
これたぶん通じてないな……
「知らないならいいや。ここのボスの行き先にも心当たりないか?」
「ここのボスってーと……憲兵隊の隊長ヤンジャかい?」
「たぶんそいつ。そうだよな?」
「そ、そうだ……」
せっかく生かして連れてきた騎士だからな。この程度の役には立ってもらわないとね。
「ふぇー旦那ったら駱駝騎士まで配下にしてるとはね。やっぱオレの目に狂いはないな」
「そんなことはいいんだよ。心当たりはあんのか? ん? てことは、もしかして……さっきのショーオーって……」
「この国の王、商王だぞ。こいつも知らないって言うしさぁ。お前がもし知ってればこいつをくれてやってもいいんだけどなぁ?」
宝貨をじゃらじゃら。魔力庫から物品を出し入れする程度のわずかな魔力。こんな誤差でしかない魔力でも節約するつもりではあったけど、使う時は使うぜ。
「え、そ、それ……」
「まあ知るわけないよな? 騎士のこいつでさえ知らないんだからさ。あ、お前らのどっちかが知ってたらこれやるぞ?」
「し、知ってる知ってる! 案内するよ旦那あ!」
「し、知らない……」
ふーん、分かれたねぇ。カスの方が知ってるとか抜かしやがったけど。
「じゃあ約束な。お前が案内して商王の居場所に辿り着けたらこれやるよ。ただし一時間経っても見つからなかったら無効な。」
適当に歩かされたら堪らんからね。
「もちろん案内するとっもごおっごぼっおおおっ……い、今のは……?」
「何でもないさ。ほれ、さっさと案内しな。」
目先の金に目が眩んだだけだろうけど、何かのとっかかりにはなると思うんだよね。なんせ手がかりがないからさ。
「え、と、こっちだぜ!」
おーおー、肩で風切って歩き出しちゃったよ。他の騎士に出会したらどうすんだろうね?
「この先に何か重要な施設でもあるのか?」
騎士に質問してみた。
「いや……この先は確か厨房しかないと思うが……」
「んー? 商王ともあろう者が厨房にいるのか? 本当に?」
「ほ、本当だって! あそこを通り過ぎた先に……」
厨房しかないんだろ? 通り過ぎたその先に何があるんだろうねぇ。
あ、せっかく厨房を通るんなら香辛料をゲットしていきたいな。何てったってここは王城なんだから食材も香辛料も極上品が揃ってるに違いない。少し寄り道するぐらい大丈夫だよね。
ゲット。料理人や下働き連中が忙しなく動き回ってたから堂々と棚を漁らせた。騎士とカスに。品質チェックは後回し。さっさと商王の居場所を見つけないとね。
さて、ここでアレクに耳打ち。ちょっと別行動してもらおう。いい加減だるくなってきたからね。約束は一時間で区切ったことだし、ドラスティックに動こうではないか。
「で、ここからどこに向かうんだ?」
「こ、こっちだよ……」
厨房エリアを通り抜けたら……
「ここは?」
「備品室だぜえ! この中に秘密の部屋があるのさ。さあ旦那あ! こっちだ!」
備品室ねぇ……見慣れない品々が多いな。皿は分かる。カトラリーもまあ分かる。それ以外はよく分からないな。でもまあ関係ないね。狙いは商王ただ一人だからね。
さあて、期待してないけど秘密の部屋とやらはどこだ?




