429、命の水
おっ、バルダが戻ってきた。うまくいったんだろうか? ちなみにじいちゃんはもう立たせた。じいちゃんが頭を下げてるってのにドワーフどもはずっとうるさかったんだもん。
「長老が会いたいそうだ。お前ら文句ないな?」
「チッ、どうなっても知らねぇぞ?」
「耄碌してんだろ? ったくよお……」
「仕方ないな」
「よし。じゃあカース、付いてきてくれるか」
「ああ。」
「バルダ殿、もちろんわしも行って構わんの?」
「構わない。長老からは人間に会ってみたいとしか聞いてないからな」
「ならば私はここで一曲弾くとしましょう。古来より、天地を動かすのは力でなく歌。目には見えぬ神の心を動かすだけでなく男女の仲をも和らげ、頑固職人の心すらも慰めるは歌なりと言いますからな」
マックレスったら張り切ってるな。吟遊詩人モード全開かよ。でもグッドアイデアな気がする。
「だったら私も弾くわ。ここは音が響いて気持ちよさそうだもの。」
そう言ってアレクはウインクしてきた。なるほど、分かったよ。私のため、いや今後のために場を温めてドワーフを懐柔しておこうってわけだね。マックレスは単純に腕試しって気もするけど。人間以外にも自分の音は通用するのかってさ。
「分かった。じゃ、後でね。」
カムイ、頼むぞ?
「ガウガウ」
これで安心。
「バルダ、待たせたな。案内してくれよ。」
「おお、こっちだ」
案内と言っても同じ洞窟の中であることに変わりはなかった。少し奥に行き、窪んで部屋みたいになっている岩陰に、そのドワーフはいた。
「ごほ、よく来たな。おお、本当に人間ではないか。いったいどうやってこんな地の底まで来たのやら……」
「こんばんは。俺はカース・マーティン。カースって呼んでよ。ところでさ、俺達は助けにきたつもりなんだけど、助けって要る?」
「ごほほ、助けに、か。えらく豪胆なことを言うではないか。おっと、申し遅れたな。我はチョルビトラウスティ、まあ長老とでも呼んでくれたらいい」
「そんでこちらがドワーフ救出を俺に依頼した張本人。助けて欲しいなら彼にお願いしてね。」
「ひょっ!? ち、ちがうでの!? そ、そんな大それたことでは……ん、んん、わしはカーサ、カーサ・セティアンという。ドワーフの皆を地下に縛りつけた一族の末裔にあたる……すまぬ。いくら謝罪しても足りぬことぐらい分かっている……だがわしには何の力もない。だからカース殿を頼ったわけだが……まさかここまでしてくれるとは思いもよらなんだ……本当に素晴らしい若者なのだ!」
照れるな、おっと、危ない。
「おいバルダ。この人に危害を加えたらこの話が終わるぞ? この人がどんな人かは後でじっくりと聞かせてやるからさ。少し待ってろ。」
私が腕を掴まなかったらじいちゃんがぶっ飛ばされてたね。バルダはまともな奴だと思ったのに。
「……いいだろう……聞かせてもらうぞ……じっくりとな……」
うわぁ、怒り心頭って顔してやがる。血管切れるぞ?
「落ち着けバルダや。わざわざ足を運んでくれた客人に無礼であろう。すまなんだな。カースにカーサといったか。似たような響きだがお前たちは親族か?」
「いや、たまたま似てるだけ。家名は全然違うしね? まあいいや、それじゃあ腰を据えて話すとしようか。こっち来て。」
魔力庫から椅子とテーブルを出す。どこかの村でゲットしたそこそこいいやつを。地面がガタガタだから水平に置くのもひと苦労だよ。
「ついでにこれ、飲みながら話そうか。」
ベゼル男爵領はセーラム産ワイン。大樽で貰ったからな。まだまだあるぜ。やっぱドワーフを懐柔するなら酒だろ。コーちゃんにも飲ませてあげたいな……
「こ、これは……大地の息吹!? 吹き抜ける風!? 心まで照らすような日差し!? こっ、これはいったい!?」
「まあまあ落ち着いて。乾杯が先だよ。ほら、注ぐからグラスを持ってよ。」
「おお……これは……腕のいい職人がいるようだな……」
王都で買ったワイングラスだよ。こっちの大陸もガラス製品は多かったけどローランドも腕では負けてないだろ。
「さあ、乾杯。」
「いただくでの。乾杯」
「ごほ、か、乾杯」
「か、乾杯だ……」
はやる気持ちを抑えようとして我慢しきれない飲みっぷり。やっぱドワーフって酒好きなのね。一瞬飲むのを躊躇ったかと思えば次の瞬間にはもうなくなってたし。
「おかわりいる? ただしもう一杯だけね。続きは話の後ってことで。」
「ごほ、の、飲ませてくれい! あれは命の水ではないか! 飲むごとに寿命が延びるぞ!」
そんなわけないだろ。
「カース、我にも頼む……確かに命の水だ……うますぎて沁みる……心の奥底にまで……」
大袈裟すぎる。でも懐柔大成功だろ。まさかここまで効くとは。長年禁酒してるとこにいきなり銘酒を飲んだからか?
一瞬で二杯目も飲み干した二人。じゃあお喋りしようか。まずは状況確認からかな。




