421、虚言
「待てえい!」
ん? じいちゃん? どうした。さっきまで静かにしてたのに。いきなり張りのある大声で……
「今さら命乞いなど無駄だ。呑気に釣りにでも興じておればいいものを。何を血迷ったかこんな所まで来おって」
「キース! 白蛇を、コーネリアス殿を返すのだ! むろんただでとは言わん! わしの命と引き換えだ! さもなくば大変なことになるぞ!」
おお、やっぱじいちゃんは分かってんだね。でもなぁ……
「自惚れるなよ? 今のキサマには餌の価値すらない。精霊どころかそこらの平民の命とすら吊り合わぬわ」
「キース……」
「そもそも誰の名を呼び捨てにしておるか! いつまでワタシの兄のつもりでいる! 王族の恥晒しが! この際こやつらと命運を共にするがよかろう! キサマが引き込んだのだしな!」
「キース……」
くっ、なんて悲しそうな顔してんだよじいちゃん……商王はじいちゃんのことを兄だなんてこれっぽっちも思ってないのに、じいちゃんは弟への情がまだ残ってるってのかよ……
「おじさん、話は後にしようか。とりあえずおじさんに免じて商王は殺さないことにするからさ。」
「カース殿……」
あいつにはまだまだ吐いてもらわないといけないことがあるからね。
「殺さないだと? 負け惜しみは見苦しいの。だが心配するな。こちらもお前達を誰一人として殺すつもりはない。今のところはな? だから拘束せよと命令したのだ。抵抗さえしなければ無傷で命拾いできるぞ?」
舐めてんな。アレクの美貌を見て欲が湧いたのは分かる。そりゃあ無傷で手に入れたいに決まってるよな。だが私やマックレスまで奴隷にしたいのか? 殺せる時に殺さないと後悔するぜ?
現に今も。
「ガウッ」
カムイが動いた。よく見えなかったけど。それだけで親衛騎士の三割が剣を斬られている。商王の左後方にいた奴らの剣がな。
「その剣メタリックサンドスライムメタル製じゃないのか? えらくひ弱だな?」
カムイの魔力刃が鋭すぎるって面はあるけどね。騎士どもの動揺が見てとれるね。
「うろたえるな。 あやつらを生け取りにするのに剣など必要なかろうが。各自の武器を使え」
「はっ!」
「はっ!」
「はっ!」
ほう? 素手の奴もいればロープを取り出した奴もいる。ナイフもいればトンファーっぽい奴もいるな。だが、同じだよ。やれカムイ。
「ガウッ」
カムイの姿がブレると奴らの武器が斬れる。素手の奴は籠手や脛部分が斬れている。しかも誰一人として血を流していない。優しすぎるだろ。
「見て分かったと思うが、この狼は強いぞ? その気になれば一瞬で全員惨殺できるだろうな。それでもよければかかってこい。」
「白蛇といい狼といい、キサマは一人では戦えないのか? 情けないことよの。 それでよく対等な口がきけるものよ」
どこかで聞いたようなセリフだな。あぁ、あの王子も似たようなことを言ってたもんな。こいつらって苦し紛れに挑発するクセでもあるのか?
「おっ? ということは商王様さぁ、俺とタイマンするってことだな。いいぜ? 一国の王がどれだけ強いか興味あるからさ。魔道具も好きに使っていいぞ?」
ちなみに王子は逃げたよな。さあ、アンタはどうする?
「くくく、戯言を。王たる者がそのような下らぬことをするはずがなかろう。やれいお前たち!」
うっ? 床下にソファーごと吸い込まれた!? 逃亡かよ。情けない奴め。無駄にスムーズだったせいか見逃してしまったじゃん。すごい仕掛けがあるもんだわ。
カムイ、頼む。
「ガウッ」
この部屋からは逃げられてもカムイからは逃げ切れまい。その間に私は部屋の片付けでもするかね。
『榴弾』
うん。血まみれになってしまったね。これは掃除が大変そうだ。
「じゃあアレク、商王を追いかけようか。たぶんすぐ追いつくと思うけどさ。」
「そうね。それにコーちゃんも探しにいかないとね。」
「すまぬ……カース殿……」
「いやいや、おじさんのせいじゃないじゃん。気にしないでよ。それに本当にコーちゃんが捕まったなんて思えないしね。きっとどこかで酒でも飲んでるんだよ。」
カムイに感知されないのが不思議ではあるけど……
「そ、それもそうだの……」
「じゃあ、ちょっと危ないけど全員で行くよ。付いてきてね?」
「わ、分かったの……」
「行くとしましょう……」
じいちゃんはともかくマックレスは巻き込まれ感がとんでもないよね。一緒に来ただけなのにどんだけ国家の闇に触れてしまうことやら。でも創作の糧になるよね? がーんば。
『徹甲弾』
床に穴を空けた。外から追跡するカムイに対して私達は直接追いかける。挟み討ちだ。待ってろよ商王様よぉ。




