416、顔の広い殺し屋トーア
うーむ、殺し屋に護衛を頼むだなんて我ながら妙なことを思いついてしまったものだ。だってこいつ金次第で堅実な仕事してくれそうなんだもん。
いくらならやってくれるんだ?
「……その条件なら……この宝貨でいい……飽きるか別の依頼が入るまでだ……」
あら意外。まあ、ひと握りの宝貨とはいえ軽く二十枚はあるもんな。
「いいだろう。そんじゃあ頼んだぜ? お前は今からしばらく王兄カーサを守護する近衞騎士だからな?」
「……くくっ、殺し屋のオレが近衞騎士だと? くくく……悪くないな……」
あら? えらく喜んでない? それならそれでいいんだけどね。契約魔法をかけてやろうかとも思ったけど飽きるまでって条件があるからあまり意味がないんだよな。
「いいよねおじさん。しばらくこいつを使ってやってよ。」
「ひょほぉ……目の前に現れたら死を覚悟する他ない死告人トーアをあっさり雇い入れるとは……カース殿も無茶をするの……しかもわしなんぞのために大金を使わせてしまって申し訳ないの……」
ギルビー? どういう意味なんだろ。まあいいや。期間限定とはいえ、それなりにやり手の殺し屋をボディーガードにできたことだし多少は安全だよな。
「いやいやいいんだよ。おじさんには長生きして欲しいからさ。さあ、飲みなおしだね。」
「ひょほほ、トーア殿に乾杯だの」
「……乾杯だ……」
いつの間にやら死体が片付けられると音楽が鳴りはじめた。楽団はいないようだが……どこから聞こえてきてるんだ?
「なあトーア、この音楽ってもしかして魔道具?」
「……そうらしい……詳しくは知らないが音を再現できると聞いたことがある……」
おおー、つまり録音した音楽を再生できるってこと? すごいじゃん。音楽に限らず声だけを伝令として届けることもできそうだな。この手の魔道具ってローランドだと特注になるから超高いんだっけ? 職人にワンオフ一点物で注文しないといけないからさ。
「こういった魔道具に音を吹き込むには超一流の吟遊詩人と認められる必要があるのです。私もまだまだです」
マックレスがまた吟遊詩人の仮面かぶっちゃったよ。
「……六等吟遊詩人マックレスか……最近売り出し中らしいな……」
「これはこれは。噂でしか聞いたことのない死告人トーア様にお見知りおきいただいているとは。光栄ではありますがそら恐ろしいものがありますな」
トーアって情報屋的な一面もあるのか?
「……お前のところのマガジーンとは知らない仲じゃないからな……」
吟遊詩人ギルド、商都吟遊詩人協謡組合の幹部だっけ? マックレスはマガジーンが大嫌いなんだよな。
「それはそれは。うちのマガジーンがご面倒をおかけしているようで。ああそうでした、近いうちにガリオウさんのところの若い者が新しい店を開きますのでぜひ顔を出してやってください」
露骨に話題を変えたね。しかし困ったねマックレスさ。商都から逃げるって話だけどシーナの店に協力できなくなるね。
「……裏街の王ガリオウか……世間は狭いな……」
むしろトーアの顔が広すぎるのでは? 殺し屋のくせに……
ん? また新たな来訪者か。
「ご歓談中失礼します。商王様が貴殿らをお召しにございます。どうぞこちらへ」
やっと来たか。少しはまともな話になるといいが。




