413、タイムリミット
馬鹿貴族三人組のうち一人は悠々と会場を出ていった。もう一人は会場をうろつき始めた。残る一人は……
「姫君よ、改めて名をお聞かせいただけるか? ちなみに我が名はギルマヌカだ」
人に名を聞くとかは自分からだ、って言おうとしたらちゃんと言いやがった。こいつら時々まともなんだよなぁ。時々……
「アレクサンドリーネ、アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルよ。ローランド王国三百五十年の歴史の中で建国以来の名門と称される四大貴族の一つね。」
アレクったらしれっと嘘を交ぜるんだからぁ。建国以来の名門なのは三大貴族なんだよね。悪いけどクタナツ代官や宰相んちのアジャーニ家は入ってない。確かに今の四大貴族という意味ではその通りだけど。
「さ、三百、五十年……? そ、それは本当の話で……!?」
「本当に決まってるじゃない。セティアニア商国の歴史はいかほどなのかしら?」
いかほどだい? うちの大陸だとダイヤモンドクリーク帝国ですら三百年ぐらいだからな。三百五十年は長いぜ?
「おっと、ダザーリが困っているようだ。少しばかり待たれよ」
あらら、どこかに行ってしまった。答えにくい質問ってことだな。大陸中の王達が自ら進んで勇者ムラサキのもとに集って生まれたローランド王国と違って他部族を征服しまくって作り上げたセティアニアでは事情が違うだろうしね。とても数百年も歴史があるとは思えないね。王城の建築レベルだけはローランドの二、三十年先を行ってる気はするが……
「アレクはどう思う? あいつらがどんな手でくるのかさ。」
「カースはグリーマの顔を見てないと言ったわね?」
ん?
「うん。頭まで覆うタイプのフルプレートの鎧だったからね。声だってくぐもってたしね。」
「だったら、偽者を用意されても分からないんじゃないかしら? そこらの親衛騎士をグリーマと言い張ればいいだけだわ。」
だよなぁ。それは私も思った。
「その時はどうしようもないね。だいたいキーロにしたって偽者を使ってたんだしさ。あいつらにとっては常套手段なのかもね。」
キーロに影武者がいるなら、親衛騎士にも影武者がいても……いい、のか? いやぁよくないだろ。いくら親衛騎士といったって王族に比べたら平民も同然だもんな。まぁ、影武者なんかいなくたって偽者を用意するのは難しくないだろうけどさ。問題は十五分で用意ができるかってことなんだけどね。
「そもそも姿形を似せた偽者どころか全くの別人をグリーマだと言い張れば済む話ではあるわよね。ただ、問題はグリーマのことを知ってる者がここにいるかどうかによるわね。フルプレートの鎧って完全にオーダーメイドじゃない? ならば知ってる者が数十人はいても不思議はないわ。」
「なるほど。それはそうだね。ちなみにグリーマの鎧はかなりぼっこぼこにしてやったからさ。あれからわずか数時間では直せないだろうね。」
「さすがはカースね。王族の命を担う親衛騎士をそこまで追い詰めた上でとどめを刺したわけね。そうなると別人をグリーマと言い張る線が濃いのかしらね。まっ、とりあえず飲みましょうよ。」
「そうだね。せっかくのパーティーだしね。飲んで歌って踊りたいところだね。」
「……お前ら余裕すぎんだろ……こんな王族の晩餐会に慣れてやがんのかよ……」
おっ、マックレスが素に戻った。じいちゃんに聞かれないようにか声のボリュームは落としてるけどさ。
「そこまで慣れてるわけじゃないけどな。数回ぐらいなら王宮のパーティーも出たことあるかな。」
「そもそも私もカースも御目見だもの。同年代の中では慣れてる方ではあるわね。カースなんか国王陛下直属の身分証をいただくほどの功績を立ててるんだから。」
あー、その話はマックレスやシュガーバにはしてなかったっけ? わざわざ話すほどのことでもないし。
「……意味わかんねぇよ……お嬢様の方が身分が高いんじゃなかったんかよ……」
「単純に身分だけの話をするならそれはそうね。私は下級貴族でカースは平民だもの。でも、カースの凄さや私達の仲には何の関係もないわね。カースは国王陛下ですら意のままにできない魔王だもの。」
「……だから意味分からねぇって……」
それはそう。建国以来の名門なのに下級貴族ってどういうことかと。まあ説明する気はないけど。そのうち酒の席で話すことぐらいはあるかもね。
「ひょっひょっひょ。彼らが戻ってきたでの。ひょほぉ、あれは親衛騎士ではないかの?」
そろそろタイムリミットだってのに。あーらら、来ちゃったか。磨き上げられた鎧に身を包んだ屈強そうな騎士が。




