412、王宮貴族あるある
取り囲んだくせに挨拶なしか? じろじろにやにや見てないで何とか言えよ。
一応アレクを後ろに庇うふりだけしておこう。本来アレクはこの程度の男から庇わなければならないほどか弱くないからな。
「お嬢様に何か用か?」
「キサマなどに用はない。姫君よ、あちらにいい酒が揃っておりますぞ。ぜひとも一献傾けようではないですか」
「そうだとも。我らのような王宮貴族と懇意にしておいて損はないぞ?」
「さあ、こちらに。ああ護衛は後で呼ぶからそこらで好きなものでも食べておくがいい。キサマごときではめったに味わえない美食だからな」
なんとまあ……商王主催の晩餐会じゃないのかよ? その主賓に対してなんと無礼な。だいたいローランドって国を知らないんだろ? 知らないんなら素直に警戒しろよ……自分が知らない=大した国じゃない、とか思ってんだろ? たくさんの部族を征服してきた歴史があるって言うし。自分らが最強国家とか思ってんだろうなぁ……
「せっかくお誘いいただきましたけど、私はこちらの護衛頭のカースから離れる気はありませんの。ところでもう聞かれました? うちのカースが親衛騎士を打ち倒した件を。」
おっ、アレクったらここでその話を持ち出すのか。
「はっはっは。ふざけてはいけませんぞ? その小さく細い体で親衛騎士を打ち倒したですと? 口では何とでも言えますからな」
「そもそもどなた様の親衛騎士なのかにもよるからな。まかり間違って本当だとしてもどうせ新人とか退役直近の老いぼれだろうさ」
「その話が嘘でないなら誰の何という親衛騎士が教えて欲しいものだな」
意外とまともなこと言ってるじゃん。もっと頭から全否定するかと思ったら。
それはそうと私は小さくも細くもないぞ。親衛騎士がでかすぎるだけだし、お前らよりは背も高いんだからな? 太さではお前らの勝ちだけどね。ぷぷっ。
「さあ? 名前なんて知らないわ。ただキーロは親衛騎士団四傑の中でも最弱とか言ってたそうね。四傑というぐらいならそこそこ強いのかしら?」
「はっはっ……は、キーロ様が? 親衛騎士団四傑と? あの中で最弱といえば……誰ですかな?」
「大嘘だな。キーロ様が親衛騎士に向かって最弱などと言われるはずがない。しかもキーロ様の親衛騎士団の中で四傑に入っている者は硬壁グリーマだぞ? このような華奢な者では勝負にもなるまい」
「然り然り。姫君よ、キーロ様や親衛騎士団四傑の名をどこで知ったか知らぬがいい加減なことを言うとお国の威信に傷が付く。いくら嘘は女の特権とはいえだ。慎むがよかろう」
あぁ、グリーマか。そんな名前だった気がする。そして分かったことがある。おそらく王族って一人ずつに親衛騎士団があるんだな。で、全王族の親衛騎士団を合わせた中から四傑とやらは選出されるってことか。じいちゃんとこにはいなかったのに。
「ああグリーマと言ったかしら。じゃあこの場に呼んでみればはっきりするわね。キーロはどこかしら?」
「きっ、キーロ様!? そういえばご出席されておらぬのでは!?」
「グリーマを呼べとは大言壮語を吐くものだ。護衛だか奴隷だか知らないが死んでからでは遅いのだぞ?」
「あまり追い詰めてやるな。そんなことより姫君よ。先ほどの話だが良い酒がある。ぜひご一緒したいのだが?」
あーあ、アウトな発言があったな。私は気にもしないがアレクとしては看過できないだろうなぁ……
「ふぅん? セティアニアの男は随分と勇敢なのね。女一人を口説くのに三人がかり、それも豪腕ではなく弁論を以てするなんて。男なら私一人ぐらい軽く組み敷いてみせて欲しいものだわ?」
アレクも無茶言うよなぁ。いくらこいつらが馬鹿そうでも、こんなパーティーの最中にそんな暴挙に出るとは思えないなぁ。
「ほう? 威勢のいい姫君ですな。呼んでいいですな? 砂に撒いた水は戻せませんよ?」
「こいつは面白くなってきたな。親衛騎士団四傑の一人と吹けば飛ぶような護衛もどきの対戦とはな。グリーマが勝ったら御身を我らに預けるということだな。やめると言ってももう遅いぞ!」
「グリーマの強さも知らないで……あの男はまさに壁。硬壁の名前の通り防御の硬さは並ではないぞ?」
こいつら面白いわぁ。アレクを口説きたくて仕方ないんだな。他国の貴族に向かって何考えてんだか……
「いいから呼んできなさい。四傑の一人ウヤバンゴのグリーマと言ったわね。で、私の身を賭けるということは其方たちは何を賭ける気なのかしら? つまらないものだと帰るわよ?」
アレクに吊り合う賭け金なんかないんだけどなぁ……王宮丸ごと差し出されても嫌だぞ?
「では、この満礬柘榴石ではどうですかな?」
「宝貨一枚でいいだろう?」
「おいおい、せめて二枚だろう? くくっ」
「いいわよ? 十五分だけ待ってあげる。それを過ぎたら不戦勝とさせてもらうけどいいわね?」
おっ、アレクったらやるねぇ。あいつは死んでるんだから何時間待っても来ないしね。
「決まりましたな! おい! 誰か親衛騎士団のグリーマを呼んでこい! キーロ様にはこちらで話を通しておく!」
「よい選択をしたな。実は口実が欲しかっただけなのだろう? 我らに近寄るためのな」
「然り然り。女には女の言い訳が必要だからな。それを察してやるのも男の甲斐性というものだな」
それにしてもこいつらの脳内はどうなってんだか……都合良すぎだろ。ボンクラ貴族あるあるだな。
さあ、グリーマは来るのか? 来たら笑うけど。




