406、顎のない余生
この野郎……目の前で配下が死んだくせに表情一つ変えやがらない。貴族以外を人間扱いしてない奴はよくいるが、こいつは王族以外は人間扱いしてないタイプか?
「次はお前だろ? ほれ、相手してやるからかかってこいよ。」
もう虎徹を持ってるだけでやっとなんだけどね。あいつは強かったなぁ。
「まぐれで生き残っただけでのぼせ上がるなよ? あのような戦士の風上にもおけぬような戦い方で勝ったとは言えぬからな!」
馬鹿かこいつ。
「ちょっと何言ってるか分からんが、やるんなら来い。やらないんなら部屋から出ていっていいぞ? 勘弁してやるさ。」
「グリーマごときに勝ったぐらいで調子に乗るなよ? 奴は親衛騎士団四傑の中でも最弱! 見知らぬガキごときにやられるなどと親衛騎士団の恥晒しよ! 次はグリーマより数段強いあい『無痛狂信』て……相手が……が、があぁぁぁぁぁあ!」
随一の使い手じゃないのかよ。それより……ちっ、失敗か。いい加減付き合いきれないし少しムカついたから上手いこと共食いさせてやろうと思ったのにさ。私に向かって来やがった。
「ぐべぇあぁあざぁがぁいいにぐぅぅうう!」
私を食おうとしてやがる……無痛狂信は本能をいじくる魔法だからな。食欲や性欲、そして睡眠欲のいずれかを過大にブーストできるわけだが……
食欲をブーストできたのはいいが、その相手が私なのは計算外だ。ここからもう数人ぐらい現れると思ったのに。少し早まったか!?
「おい! お前らの王子が狂ってんぞ! 止めなくていいのかよ!」
どこからも反応なし。こいつが連れてた護衛二人はどこ行ったんだよ。まああい、それなら仕方ないね。
おらぁ! みぞおちに前蹴り。倒れはしないが動きが遅くなった。
「にくぅ……はらぁくぅぅぅうがぁぁぁああぃぃ!」
下から顎を狙って蹴り上げ。
うわぁ……これは可哀想すぎる……いっそ死んでたらよかったのに……可哀想に……点滴はないけど魔道具はあることだし、どうにか生き延びれるんじゃないかな?
顎のない人生でもさ。
「ぼぼっじょぼぼっぼぼぉごほっごっごごっおおおお……」
うへぇ……濃いめだけど凛々しい顔したイケメン王子が……見るかげもないね。まさかあんなに上手く決まるとは思ってなかったもん。あそこまで見事に顎を砕くとは……ドラゴンブーツはすごいだろ? 顎だったものが口の下あたりにぶら下がってるじゃん……ぐろい。
とどめを刺してやってもいいのだが腐っても王族だしね。命だけは勘弁してやろう。今後の人生がどうなるかは知らないが……戻ろっと。
ん? 扉が開かない。まさか、つまらん嫌がらせ? 強めにノックしてみる。
「おーい開けてくれ! 王子が大変な目に遭ってるぞ! 助けてやれよ!」
やはり反応なしか。じゃあ仕方ないね。
『水鋸』
扉を×の字に斬る。ちょっとぐらい衝撃を与えてやろうと思ってさ。あいつのハルバードでは傷も付かない室内を私なら斬ることもできるんだぜ?
さて、外には……こっ、こいつ!?
「ほう。無事に出てきおったか。褒めてやるぞ。ついでに褒美もやろう。ありがたく受け取るがいい」
「中の奴は影武者ってわけか。王子様は用心深いことで。」
なんとまあ手の込んだことしやがる。つまりこいつは私にびびって逃げてたってことだろ。リスク管理も悪くはないが時には先頭に立たないと威厳がなくなるぜ? ローランドの王族を見習えよな。
「こうして直答を許しているだけで跪いて感謝すべきなのだがな? それより手を出せ。こいつをくれてやる」
宝貨か。
「そんな端金いらねぇよ。それよりあいつを倒したら次はお前が相手するって話はどうなった?」
「ふっ、知らんな。奴が何を言ったかなどオレの預かり知らぬことよ。どうしてもオレに稽古をつけて欲しくのならば正式な手続きを踏むことだな」
それ何年待ってもだめなやつだろ。
「そうかよ。それなら勘弁してやるよ。よかったな。命拾いしたぞ?」
「こっ、こやつ! 客人だからと見逃しておればつけ上がりおって!」
「キーロ様への暴言の数々! 万死に値する!」
「成敗してくれる! さあ剣を抜けえい!」
これもあるあるかな。本人より周囲が激昂するやつ。でも本人も止めないんだよな。いい気なもんだわ。
さて、どうしてくれようか? あー手首が痛い……




