111、密約
しばらくしてからシュガーバ達は戻ってきた。特に何事もなかったらしい。ジジイに拷問をした跡も見えない。意外だな。もしかして……
「悪巧みはできたか?」
「ばっ、そんなのするわけねえだろ! 普通にヤシの情報を聞き出しただけだっての!」
ジジイを味方に引き込んで私に対抗するとか、ジジイを逃す代わりに手紙を託すとかするかと思ったが、意外だな。
「小僧、お主の危険さはシュガーバから聞いた。こやつとてワシらヤシの者から見れば危険な使い手なのだがな……それをこうまで手なづけるとは恐れ入ったぞ……」
「分かればいいさ。いずれお前の所にも宝石を貰いに行くからな。用意して待っとくといい。その時に宝貨は返してやるよ。」
「くっ……宝石といえど職人の手を経てないものに輝きなどない。それでもいいと言うのか……」
つまりカット前の原石ってことだよな? 全然オッケー。ダークエルフのクライフトさんに頼むからさ。
「構わんぞ。それならお前だって手に入れやすいだろ? 大きいのを二種類ずつ集めておきな。」
「くっ、いいだろう……」
よし。これで宝石ゲットだな。
「ところでジジイ、お前そんなに金貯めてどうするつもりだったんだ?」
部下を殺されるより金を奪われた方が悔しそうだしさ。
「知れたことよ。金のない者は何もできんからの。ただ奪われて踏み躙られるだけ……持たざる者は這いつくばることしかできんのだ……」
「でもお前の実力ならそうとも限らんだろ? あれだけの腕があって強力な武器もある。それでも宝貨を持ち歩くほど周囲が信用できないってのか?」
「何を当たり前のことを。自宅に高価な物を置くなどと危ない真似ができるものか」
ふーん。大変なのね。だからってジャラジャラと大金を持ち歩くわけにはいかないから一枚で済む大金を懐に入れてるってわけね。
「ところで、お前の部族にお前より強い奴っているのか?」
「さてな、族長様をはじめ戦士連中などにはワシのストリングエッジは通用せんだろうな。だが、負ける気もせんがな……」
「族長ってのは戦えるのか? 例えばシュガーバとどっちが強い?」
強い弱いも状況によるとは思うけどさ。
「ふむ……これぐらいの距離で一対一なら族長様の勝ちかの。離れたならシュガーバの勝ちだろうの」
シュガーバの情報もちゃんとゲットしてんのね。
「よく分かった。じゃあジジイ、もう行っていいぞ。しっかり宝石を集めておけよ?」
「よ、よいのか? 逃げても……」
「いいぞ。しっかり集めてくれたら宝貨だけでなくローランドの希少な物までくれてやるよ。こっちだとかなり高く売れるだろうぜ。期待してな。おっと、何とかエッジもその時返してやるよ。」
「わ、分かった……では、さらばだ……」
背後を気にしながらも闇に消えたジジイ。むしろ今夜はここに泊まらせてやった方が親切ってもんだけどさ。絶対服従の契約魔法をかけてない以上シュガーバやアッシリを殺されたりすると困るからな。刃鋼線は没収したから大丈夫とは思うけど、方法なんていくらでもあるしね。
「いいのかよ? あのジジイはマジで厄介なんだぞ? さっきなんかよっぽど殺しちまおうかと思ったぐらいだしな」
「いいんだよ。俺はこう見えて誰でも彼でも殺すタイプじゃないんだよ。役に立つならちゃんと助けてやるさ。」
用無しになった時点で殺すような人間だと思われたら今後に響くからな。シュガーバとアッシリにはまだまだ働いてもらうつもりだからね。
「あのジジイが約束通り宝石を用意するなんて思ってんのか?」
「さあな。だが用意しないことには宝貨は帰ってこないぜ? 俺を襲って取り返すのとどっちが簡単かはジジイが判断するだろうぜ?」
「それもそうか……」
諦めるって可能性もあるよね。あのジジイどのツラ下げて帰るつもりなんだろうね。コナクライに行くどころじゃないじゃん。
「ところでヤシの奴らがコナクライを狙ってるってことは、ジジイが失敗したとなると他の部隊が出動したりするのか?」
「たぶんな。問題はツオファーイ、あのジジイが報告するかどうかによるだろうな。さっきの話だとどっかに逃げるって言ってたが宝貨って餌をぶら下げられたんじゃ気も変わるってもんだろ」
確かに。嘘はつけない状態で分かったと言ったことだしね。後で気が変わるかも知れないけどさ。その時はその時だろうな。
他にはきっちりと準備を整えてヤシ領で私達を迎え撃つ可能性もあるが、その場合ジジイは失脚、もしくは処刑された後だろうな。
部族全体のことを考えて自分の失敗を正直に報告して対応策を打つ。そして自分は責任を問われて処罰を受ける……無理だな。あのジジイはそんな殊勝なタイプじゃない。自分のミスはとことん隠すだろ。そっちの心配はいらないな。
よし、風呂入って寝よっと。今日もいい一日だったなぁ。




