106、ヤシ族のツオファーイ
『暗視』
ジジイは右手に革っぽい手袋をしている。何それ?
「伏せろアッシリ!」
「はっ!?」
シュガーバの声でとっさに伏せたアッシリ。へー、頭頂部が少し切れてるじゃん。カッパハゲはどうにか免れたようだ。十円ハゲぐらいで済むか?
「ほっほっほ。シュガーバとか言ったの。さてはカラバのボーイェ幹部か? ワシのストリングエッジを知っておるようだの」
なるほどね。見えないけど分かった。刃鋼線だな。闇ギルド連合の元会長クソ針も使ってたもんな。
「よおく分かったぜ。ジジイ……てめえヤシのツオファーイだな?」
お互い顔は知らなくても名前は知ってる間柄ってわけか。
「いかにも。ヤシ族ボーイェのツオファーイだとも。カラバ族ボーイェの部隊長シュガーバよ」
えーっと……ボーイェってシュガーバ達の組織名だったか。バルバロッサで言うところの草番衆みたいなさ。で、キャフィティンってのは隊長的な意味だっけ? 固有名詞で会話されるとさっぱり分からんぞ……
「けっ、こんな時間にぞろぞろ歩きやがって……ヤシ族のボーイェは大胆な真似するじゃねえか」
「大胆なのはお主らの方よ。このような目立つ場所で焚き火などと。見つけてくれと言っておるようなものよの」
「ちっ、おい魔王……どうすんだよ? このジジイはしぶてえぞ?」
ここで私に振るのかよ。いつの間にやらジジイの後ろには隠密っぽいのが二、三十人。これ明らかに私達を攻めるためじゃないだろ。コナクライあたりを目指して進んでたんじゃないの?
「ほっほっほ。マオウと言うのか、そちらの小僧は。なぁに、別にお主らの命が欲しいわけではない。話を聞かせて欲しいだけだとも。色々と、じっくりとのお?」
このジジイ魔王の意味分かってないだろ。
「その辺はお互い様だな。俺も別にお前らの命なんか要らないぞ? ただ正直に話して欲しいだけさ。さっきも言ったよな?」
「ほっほっほ。勘違いするなよ小僧? 質問するのはこちら。答えるのはお主らだ。今すぐ死にたくあるまい? 見ればおぼこい女子までおるではないか。我らの慰みものになってもよいと言うのかえ?」
『榴弾』
「がっ!?」
「げっ!?」
「ぎっ!?」
「ぐっ!?」
「ぼあぅ!?」
バカが。せっかく真摯に対話してやってたのに。その発言はアウトだぜ?
「なっ……何をした小僧……」
ジジイ以外はほぼ全滅。下半身を狙うなんて真似はしてない。ジジイとその後ろにいた奴ら以外は全身穴だらけになった。
「こいよジジイ。その何かとかエッジを使ってみろよ。」
「なめるな小僧ぉ!」
『金操』
「なっ!? そん……」
「なぜ……ツオファーイさま……」
「バカな! ケイサ! ラッカ! なぜだぁ!」
ジジイの武器で仲間の腕が飛ぶ。刃鋼線系の武器って私とめちゃくちゃ相性がいいんだよな。目に見えないぐらい細いから操る魔力は極小で済むし。当然ながら細いせいで制御はやや大変だけどさ。
「残りはお前だけだ。大人しく喋るなら命は助けてやるぞ? まだ生きてる奴らも見逃してやってもいい。」
『氷弾』
おっと、アレクの魔法だ。おおかた瀕死のくせにナイフでも投げようとしたんだろ。甘いな。私達が見逃すわけないだろ。
「一人死んだな。まだ生きてる奴はいるんじゃないか? 今なら助かるかも知れんなぁ?」
『金操』
「なっ!? こ、小僧……!」
「首に巻きつけた。自分の武器で首を飛ばして全員で死ぬか、素直に喋るか。好きな方を選びな。おっと、例外は……」
『氷弾』
「無駄な抵抗をする奴は先に死んでもらうだけだ。」
「ガウガウ」
ほぉう。さすがカムイ。よく分かってんじゃん。行け。後で手洗いとブラッシングしてやるから。
「ガウガウ」
「バウ」
「調教した動物だけでも逃がそうとしたみたいだが、残念だったな。あいつから逃げるのは無理だ。さて、では時間稼ぎに付き合うのもここまでだ。三つ数える間に返事しな。」
逃すってより助けを呼ぶためか?
「くっ……こ、小僧……」
「三……」
「二……」
「い「まっ、待て! はなっ『狙撃』すっ……」
「お前の返事が遅いから一人死んだぞ? で、話すのか?」
「は、話す……」
「だったら約束だ。お前と致命傷でない奴の命は助けてやる。だから俺に絶対服従しろ。」
「は、それは、約束が違う……」
へぇ。しぶといジジイだなぁ……そもそも契約魔法のことなんか知らないだろうに。それでも警戒してるんだろうなぁ。散々魔法を見せてしまったし。
「だから致命傷じゃない奴の命を助けてやるって言ってんだ。素直に喋るってだけなら助けてやるのはお前一人だぞ?」
「そん、な……」
当たり前だろ。他は見逃してやってもいいとしか言ってないんだから。
「選べ。お前一人か、致命傷でない全員か。」
ローランドの高級ポーションなら致命傷でも治せそうな気がするが、それは言わない。こいつらに使ってやる気がないからね。
「ワシを、助けてくれ……」
マジかこいつ……全員見捨てやがった……
まあいいや。
「では約束だ。俺の質問に正直に答えろ。そしたらお前の命は助けてやる。」
「分かっがぁあああああっああっ!」
よしかかった。絶対服従でない以上は警戒を解けないけどな。やれやれだ……




