104、岩から森、森から海へ
うん、森を抜けられないまま日が暮れた。やっぱ上から見るのと実際歩いてみるのでは全然違うね。分かっている。分かっているとも。道がないことぐらい想定内さ。まあ森の中でも夜営するのに不都合はないしね。
比較的フラットな場所の草木を斬って……均して……シェルターを置いて終わり。こうやって広げた場所って今後ここを通る者の休憩所や野営地にもなるよね。いいことしてるねぇ。誰も通らないだろうけどさ……
翌朝。目が覚めるとアレクの顔が目の前にあった。
「……おはよ……」
「おはよう。カースの寝顔を独り占めさせてもらったの。贅沢な時間だったわ。」
アレクったら。その気持ちは分からんでもないけどね。私だって同じことするし。アレクの寝顔を間近で見れるのは私だけの特権だからな。この上ない贅沢だ。
「照れるよ。アレクは今日もかわいいね。」
「うふっ、ありがとう。カースだって今日も素敵だわ。」
ふふ、素敵だって。アレク以外に言われた覚えはないなぁ。でも嬉しい。
「ありがとね。今日もいい一日になりそうだね。」
「本当ね。カースと一緒だと毎日があっという間に過ぎていくわ。去年の今頃は何をしてたかなんて全然思い出せないぐらいよ。」
去年の今頃……何してたっけ? 私も思い出せないじゃん。ヒイズルにいたよな? オワダに渡ったのが夏の初めの方だったから……オワダから南に向けて歩き始めたぐらいか? はは、歩いてばっかじゃん。
「僕もだよ。アレクと一緒だと歩いてるだけで毎日が楽しすぎてあまり思い出せないよ。」
「私達ってこんな遠い国まで来てるのに歩いてばっかり。うふふ、最高ね。」
そう言って抱きついてくるアレク。朝から嬉しいなぁ。
そうやってしばしイチャイチャを楽しんだら朝食だ。森にいることだしアッシリが作るって言ってたな。例のまずいスープも健康のためなら飲むのも悪くないだろう。毒も効かず寿命が倍に伸びた私だけどさ。
まずいスープと餅米風蒸しおにぎり。アレクはスープだけ飲んだので、アレクの分のおにぎりは私が食べた。悪いなアッシリ。アレクにだって好き嫌いはあるのさ。
さあ、今日も張り切って歩こう。問題があるとすれば、道がないからアレクと腕を組んで歩きにくいってことぐらいかな。
『風斬』
道を塞ぐ木の幹を斬ったりはしないが枝は刎ねる。蔦だらけで歩けない場合もあるしね。それに虫も多い。蚊より小さいのにやたらうるさい奴からカブトムシより大きいくせに上からぼとんと落ちてくる奴まで。
まあ風壁を張ってるから特に問題ないけどさ。
そして時刻は昼過ぎだろうか。太陽が真南からやや西に傾いている。そんなタイミングで、ようやく森を抜けた。
『風壁解除』
ふぅ。少しすっきり。風壁って張っていても特に圧迫感とかないけどさ。それでも長時間張ってると自然の風が恋しくなるんだよね。例えそれが夏の暑苦しい湿った風でもさ。
でも解除は数分だけ。だって暑いもん。風壁クーラーがないと顔周辺が辛いよねー。
「海が見えるね。今夜はあの辺で泊まろうか。」
「いいわね。じゃあもう少しね。」
海までの距離は見た感じ五、六キロルってとこだろうか。夕方までには間に合うだろうな。目の前にはやや丈の長い草むら……私の腰まであるじゃん。突っ切るか迂回するか……
「おーいシュガーバにアッシリ。この辺に見覚えはあるか? あの海辺まで行きたいんだけど、どこかに道とかあるか?」
「あると思うぞ。この辺りって確か海沿いの道があったはずだからな。アッシリ分かるか?」
「はい。ここからですと南にもう二キロルも下れば道に合流できるはずです」
国が違っても単位が同じなのはありがたいね。分かりやすい。
「ありがとよ。じゃ、草むらを突っ切るわ。」
『風斬』
さすがにこんな薮を素直に歩く気にはならない。容赦なく刈らせてもらうぜ。
途中、何匹か蛇がいたが風斬に巻き込まれて首が飛んでいた。蛇をいじめないでと言うコーちゃんには悪かったけど、見えないんだもん……
私もアレクもそこらの毒蛇に噛まれても問題ないけどさ。でも実際噛まれたら痛そうだし。痛いのは嫌だ。
よし。道に出た。出たけど……この道って確かに海沿いではある。それだけに海には向かってない。海を南に見たまま西から東へ伸びているだけだ。仕方ない。このまま南へ進もう。海辺まで。
「なあ魔王……そろそろ警戒しておいた方がいいぞ……」
「ん? 何を?」
「ここから八日も歩けば街がある。そこにはカラバの者や他の部族の者だって入り込んでる。そいつらに見られると面倒なことになるぜ。たぶんな」
ふーむ。
「俺らは構わないけどお前らが危ないってことだよな? 遊んでる様を見られたり他の部族の奴につけ入る隙を与えたりでさ。」
「その通りだ。でもお前らよそ者が怪しまれるのも本当だ。街の奴らにだって油断はできないんだからよ」
「分かってるさ。カラバに行ったんだからさ。街の衛兵だってクソみたいな奴らばっかりだったぞ? どうせそこの街でも似たようなもんなんだろ?」
まったく。どうなってんのかねえ。よそ者に優しくしておかないと二度と来てくれないぜ?
「それはある。どいつもこいつも目の前の金のことしか考えてやがらん。油断しない方がいいぞ」
私は油断なんかしてないさ。お前らが相手でもな。さて、そろそろ海辺だな。いやー今日も歩いた歩いた。まずはのんびりしよーっと。




