100、岩飛翼竜
「どうしたお前ら。何を焦ってんだ?」
「しっ、静かにしろ魔王! やべえぞ! 頂上で何かでけえ魔物が寝てやがる! 音を立てるとやべえって!」
シュガーバったら口調は強いがひそひそボイスで喋ってやがる。そもそも魔物の種類とか確認してないのかよ。どんだけびびってんだ?
「分かった。ちょっと見てくるから待ってな。」
こんな時はカムイの出番なんだけど、あいつどこに行ってんだよ……とりあえず登ってみよう。
あ、そうだ。ついでだから聞いておこう。ただの確認だけど。
「シュガーバ、今の気持ちは?」
「魔物に喰われて欲しい。でも魔王が死んだらオレらも無事では済まないから困る。だから成り行きに任せるしかない……」
うんうん。ちゃんと状況把握できてるのね。では行こう。
よーし、頂上かな? うん、間違いなく頂上だな。意外とフラットになってんじゃん。そして魔物以外何もない。こいつの巣ってわけだな。寝心地は良くなさそうだけど。
さて、どうしよっかなぁ。見た感じこいつってワイバーンだよな? ワイバーンにしてはまあまあ珍しい、黒に近い鼠色。遠くからだと岩と区別がつかないんじゃない? 気持ち良さそうに眠ってやがる。こんな時ってあまり狩りたくないんだよなぁ……なんせこいつの巣に勝手にお邪魔しちゃってるわけだしさ。
とりあえず、鼻先に海の幸を置いておこうか。起きたら食うだろ。シーオークとオルーカを一匹ずつ。幸い頂上は広いのでそこそこの大物を出してもスペースに余裕はある。
「アレクー、いいよ。上がっておいでー。」
「はーい、分かったわー。」
三分と待たずに全員上がってきた。カムイ以外の。
「ばっ! お、おい魔王どうすんだよこれ! やべぇって! まさかびびったわけじゃないだろうな! どうすんだってマジでこれよく見りゃ岩飛翼竜だろマジでどうすんだやべえって!」
シュガーバが小声でめちゃくちゃ早口。ドラゴンとか言わなかった? ワイバーンだろ。
「まあ落ち着け。勝手に入ったのは俺らの方だ。ここで夜営したいところだが、こいつが起きてから判断するから少し待ってな。アレク、冷たいお茶を頼めるかな?」
「ええ、いいわよ。」
岩山を登るといいことがある。
それは、景色が素晴らしいということだ。視界を遮る木が一本も生えてないから全方位が見渡せる絶景。パノラマ天国だ。やっぱ山ってのは登ってみないと分からないよなぁ。
西の方には海が見える。たぶんアレクと一緒に遊んだビーチもあの辺なんだろうなぁ。ああ、もうすぐ日が暮れる。これはいい。最高の特等席でアレクと二人、のんびりと沈む夕日を眺めようではないか。南側にも海が見えるけど、そっちは後でいいや。今はリアルタイムでこの日没を堪能しようじゃないか。
「いい眺めだね。やっぱり登ってよかったよ。」
「本当ね。飛んで登っていたらこの達成感はなかった気がするわ。それに、上空から見る景色も素敵だけど、こうしてカースの隣で座って見る風景って格別だと思うの。いつもありがとう。」
ふふふー。だよね。私もそう思う。こうやって崖から足を投げ出して見る景色のきれいなこと。
途中で少しだけ浮身を使ってしまったけどさ。それはそれだし。
「どういたしまして。あ、ほら。だんだん空の色が変わっていくよ。あっちはあんなに爽やかな青なのに夕日の近くは鮮やかなオランゲ色だね。」
オレンジ、ではなくオランゲの実のような色だもんな。それとも山吹色と言うべきだったか?
「いい色してるわね。毎日見ても飽きないと思うわ。素敵……」
そう言って私の肩に頭を預けるアレク。もう言葉はいらないな。しばし日の入りを堪能させてもらおう。
「ブオオオオオオオオオオオォォォォ!」
うるさっ! ワイバーンが目覚めたのかよ。魔声ではなくただの大声か。夕日が水平線に沈んだ後だからまだよかったけどさ。もしかして空気の読めるワイバーンなのか? たまたま目が覚めただけとは思うが……
「ま、魔王! ど、どうすんだよ! 大丈夫なのかよ!」
シュガーバがえらく慌ててるんだよな。あいつらしくもない。何とかドラゴンって言ってたけど、こいつドラゴンじゃなくてワイバーンだよな? ドラゴンだったらもっと顔がしゅっと鋭く伸びてるもんな。こいつってやたらでかくて重そうな顔してんだもん。
ドラゴンの顔がトカゲっぽいとするなら、ワイバーンの顔って大抵横に長いんだよな。恐竜っぽいって言うかさ。その分噛み付きやすいのかねぇ。
でもこいつ、大声を出した割には襲ってこないな。目の前の餌にも食いつこうとしないし。毒じゃないよ?
「ようワイバーン。悪いがここの一角を貸してくれないか? 一泊したいもんでな。」
「ブオオ!」
「それお土産。食べてくれよ。」
「ブオオ!」
あ、食いついた。言葉が通じたのか、それとも気持ちが通じたのか。
「ひいいいいい! 一噛みであんなに!? やべえよやべえよ! どうすんだよ魔王!?」
シュガーバならその気になればワイバーンぐらい勝てるんじゃないの? あー、でもここら辺は木なんてないから得意の精密射撃は無理か? だからこんなにビビってんのかな?
「どうもしないって。襲ってこないんだから放っておけばいいだろ。それより俺らも夕食にするぞ。」
こんな時はバーベキューかな。山頂からの絶景を眺めながら肉を食うのさ。きっと酒も美味いに違いない。




