98、アッシリの朝食
ん……ふぅ。なんて素晴らしい目覚めだ。むふっ。昨夜の余韻を感じる心地良い疲労感。無邪気な顔で寝息を立てるアレク。しっとりと艶やか肌を存分に堪能させてもらった。天使もジェラシーするほどの肌触りだった。最高すぎるだろ。
あいつらのマッサージも捨てたもんじゃないな。むしろアレクの判断を、人遣いを褒めるべきかな。さて、そんなあいつらは無事かな? 昨夜は浄化もかけてやったし虫除けに風壁も張ってやった。快適な夜を過ごせただろう?
「ん? お前ら朝から何やってんだ?」
「お、おはようございます魔王様。よ、よいお日和です、ね……」
え……アッシリが壊れた? 昨日はタメ口だったよな?
「お、おい、お前大丈夫か? 頭を打ったりしてないか?」
「だ、大丈夫です……ま、魔王様の威光に、今更ながら気づいて、態度を改めただけです……」
「で、本音は?」
「何でもするから家族を助けてください……」
シュガーバも言うように、こいつらが家族を大事に思うのは本気なんだろうね。
「家族を助けるって言ってもな。シュガーバの報告書でもうしばらくは安全だろ? 何か心配事でもあるのか?」
「このままおれだけ村に帰ったら、家族もろとも叩き殺されるから……あいつら四人は死んだのに……おれだけおめおめと……」
何それ? 意味分かんないんだけど……
「意味は分からんが他の四人の生死に触れなければいいんじゃないか? そうだろシュガーバ。」
「ああ。その通りだ。幸いこいつらの村にはオレの顔が利く。魔王は適当に話を合わせてくれりゃあいい。そんでコーヒー豆を手に入れたら家族ごと村を抜け出せばいい。簡単だろ?」
全く意味が分からんがこいつらが村を出たいなら好きにすればいいさ。
「別にいいんじゃない? コーヒー豆が手に入ればそれでいいさ。で、それは何の真似だ?」
石を組んで小さな釜戸が作ってある。その上には何やら鍋がコトコト言ってるじゃないか。
「アッシリが魔王に食べて欲しいんだとよ。自分の命を助けてもらった上に家族まで救ってもらうわけだからな。こいつなりに精一杯媚びを売ってんだよ」
ふーん……がんばるねぇ。
「せっかく作ったから食うけどさ。まずかったら次からは作らなくていいからな。」
「わ、分かりました……」
何かのスープとおにぎりっぽいやつを……蒸したのかこれは? まずはスープから、どれどれ……
「苦い……なんだこれ?」
「さっき、山を歩いて見つけた薬草のスープ……体にいいから……」
マジかよ……毒を盛るのは不可能だから心配はしてないが、味ではなく健康志向の媚び売りとはね……変な奴だなぁ。
「ピュイピュイ」
コーちゃんも飲んでる。あらま、本当に体にいいのね。コーちゃんって時々ヘルシーなことするよね? 確かヒイズルでも熊胆を時々食べたいって言ってたような……
じゃ、今度はおにぎりっぽいやつを……
「おっ、これは悪くないぞ。ほんのり甘くていい香りじゃん。」
ほのかにコーヒーの風味が漂う蒸した餅米おにぎりって感じ? もちもちしてて美味しいじゃん。甘さも控えめで朝から食べるのにちょうどいいかも。
「同じく山で見つけた木の実をコーヒー豆と一緒に水から蒸して粗く潰して……その後握ってからまた蒸した、です……」
へー。すごいな。こんな餅米みたいな木の実があるんだね。アッシリの奴よく見つけてきたなぁ。さすが密偵。料理の腕も悪くない。普段からよく野営してるからかな。
「これ、名前は? 明日も作れるか?」
「ハンヌワ、と言います。たぶん、作れます……」
「じゃあ頼む。めちゃくちゃ美味いわけじゃないけどかすかな甘さと食感が気に入ったわ。」
「わ、分かりました……」
アレクには少し悪い気もするけど、昼と夜はアレクの料理を食べるからいいよね。
「このスープは明日はいらないぞ。二日おきぐらいでいい。」
いくら健康によくても毎日飲みたい味じゃないもんなぁ……いくら不味さにはポーションで慣れてるとは言ってもねぇ……
「分かりました……」
ちなみにアレクにおにぎりは不評だった。おにぎりの方はアッシリの手で握ったことと食感がぬちゃぬちゃしてるところが好きじゃないそうだ。その手でマッサージさせたくせに。まあ、それならそれで私が食べればいいしね。
さて、今日も歩こうか。まだ見ぬ山頂目指して。
ふー……そろそろ昼かな。参ったな……途中から道がなくなったもんだからまっすぐ山頂目指して進んでるわけだが……結構疲れた……
傾斜はきついし落ち葉が多くて滑るし。それでも楽しいからいいんだけど、これいつになったら山頂に着くのやら。遠くから見た感じだと標高二千メイルもなさそうだったんだけどなぁ。まいっか。とりあえず日が暮れるまではこのまま高い方へ高い方へ進むとしよう。
おお、これはラッキー。昼食を終えて進んでいたら、一時間もしないうちに森を抜けた。だんだん足元に落ち葉が少なくなり、岩場が目立ってきたと思えば。目の前に聳えるのは岩壁。つまり、ここを登り切ったら山頂ってことだよな。岩登りなら任せておくれよ。イグドラシル登りでみっちり鍛えたからさ。
「アレク、ここを登ろうと思うんだけどいいかな?」
「ええ、問題ないわ。少しイグドラシルを思い出すわね。楽しそうだわ。」
ふふふ、アレクならこう言うよね。最上級貴族令嬢なのに。
「お前らは登れそうか?」
「わ、分からない、です……こんなの普通登らないから……」
「オレもだ。まっ、オレにはこいつがあるからな。何とでもなるさ」
おお、シュガーバは伸縮する弦を持ってるもんな。岩登りにどう応用するのかは知らないが、問題ないならいいや。
「もし落ちたら声を出しな。間に合ったら助けてやるよ。」
「は、はい……」
「というか魔王が一番最後に登ればいいだろ?」
それもそうか。でもなぁ……
「お前ら登り方とか分かるのか? まあ適当に登っても何とかなるとは思うけどさ。」
下から見た感じだと岩壁とは言っても垂直に切り立ってるわけでもないし、オーバーハングもない。こいつらの身体能力なら余裕で登れるだろ。落石や掴む箇所の選択に注意するぐらいだろうな。
じゃ、行こうか。




