97、二人の密談
そろそろ夕方になるが、まだ山頂には着かない。どうしよっかなー。まだ野営には早いよな。
「この山って夜になると魔物が出たりする?」
「いや……夜に通ったことはないから分からない……」
そりゃそうか。アッシリは夜目がきくだろうにな。普段は安全第一なのか。
「まあいっか。危ないのはお前らだしな。運が良ければカムイが撃退してくれるだろうさ。」
そもそもこいつらならそこらの魔物ぐらい楽勝とは思うけどね。
「ガウガウ」
旨そうな魔物なら? はは、そこら辺は任せるよ。
それより、どうしようかな。頂上まで行っても眺めがいいか分からないって話だったな。それでも頂上を目指してみるか……
よし、決めた。この山がどれだけ高いか分からないが登ってみよう。頂上の眺めが悪かったら木を切ってもいいしね。山頂より高い景色は知ってるけどさ、それでも山頂からの景色って格別だもんな。
そうなると、もう少し歩こうかな。野営の準備は太陽が完全に沈んでからでいい。山の日暮れって早いけどさ。
「ここら辺で野営しよっか。」
「ええ。いいわよ。」
もっとも、私達の野営なんて魔力庫からシェルターを出すだけなんだけどね。まあその前にシェルターを出せる場所を確保する必要があるんだけどさ。なんせ床面積が一辺十メイルの正方形だもんね。
ここみたいに道が細い山道にそんなスペースなどあるはずがない。だが、ここを野営地に選んだ理由がある。比較的フラットだからってだけだが……
と言っても私達はまだ山を登っている最中だもんね。だからそれなりの傾斜があるのだが、その中でも比較的フラットな場所を見つけたので野営地に決めたわけだ。後は少しだけ仕上げをしてっと。
『風斬』
一帯の草木を刈り取る。そこまで太い木はないし、簡単な作業だ。
『水鋸』
地面も切って、なるべく水平に……っと。
『重圧』
最後にしっかり押さえつけて……よし、こんなもんかな。
では、魔力庫からシェルターをどーん。あいつら用の寝具もついでに。
では全員で夕食。山の中で明るくすると虫がどんどん集まってしまうが、風壁で囲っているので問題ない。温度も低めにしてるしね。
食後、私もアレクも早々とシェルターに戻った。なんせアレクからのプレッシャーがすごかったんだよな。早く早くってさ。もちろん私も楽しみだったんだけどさ。何とかクリームのせいなのか、いつもすべすべのアレクの肌がさ、今日はしっとりと艶めいてるんだもん。夜はこれからだ……
「シュガーバ様……あいつを村に案内して大丈夫なんでしょうか……」
「さあな。どうにもならねえな。むしろ家族を連れてコナクライにでも逃げた方がいいんじゃねえか? お前以外の四人は死んじまったのにお前だけ無傷で帰っちまうわけだしな」
「はい……何とかならないものでしょうか……」
「まあいい。オレが適当に話してやるよ。要は魔王が滞在してる間にバレなきゃいいんだ。魔王にも口止めが必要だがな……」
「あいつ……あの四人を殺したことなんか何とも思ってないですよね……おれが生きてるのが不思議なぐらいです……」
お前ら下っ端の命なんぞオレから見ても虫けら同然だがな、と言いたそうな顔でシュガーバは話を続ける。
「あいつはオレの命だって何とも思っちゃいねえよ。だからコーヒー豆や卑薬ごときでも取引材料になるんだろうぜ……」
「どうにか家族だけは助けたいです……」
「オレもだ。それには魔王に期待するしかないようだな。逆らっても勝ち目が少しも見えねえからな。あんな報告書なんぞ時間稼ぎにしかならねえしな。それによ? さっきの会話覚えてるか? あの野郎、四千と聞いても顔色ひとつ変えやがらねえ。イカれてんだろ」
そんなシュガーバの表情は夜の闇で見えない。普段なら一対一で対話をすることなどあり得ないシュガーバを相手に、アッシリはどこか遠慮がちに話を続ける。
「あいつらの国にはそれほどの兵力があるんでしょうか……」
「さあな。何でも聞けばぺらぺら喋る野郎かと思えば肝心なことは黙ってやがる。魔王一人でもやべえってのに宮廷魔導士みてえな奴が何百人もいてみろ。どうにもならねえぞ? 一人でカラバを制圧だあ? 冗談で済めばいいんだがな……」
シュガーバも不安なのだろうか。いつになく口数が多いようだ。
「おれたちはどうしたら……」
「せいぜい魔王に媚び売って家族を助けてもらうしかねえだろ。売れるもんは何でも売ってな」
「そうですね……」
家族を助けるためなら味方でも同胞でも売り払え。シュガーバはそう言いたいようだ。もっとも、カースに求められたなら逆らう術などないのだが。




