91、カラバの酒場ギヤバー
体感で二時間ちょい。カラッと晴れたいい天気。ほほを撫でる乾いた風。
眼下には長大な城壁に囲まれた街が見える。広そうだな。たぶんここだろ。途中から速度を落としてちょこちょこ魔力探査しつつ方向を微調整したからな。おかげで無難に着くことができた。
上空から見ると、この街って南側と西側はほぼ砂漠じゃん。南には大きな湖があるらしいがここからは見えない。つーかなぜわざわざ湖から離れた場所に街を作ってんだ? 水はどうしてんだろ。地下水脈かな?
じゃ、降りようか。城門は北と南の二ヶ所、目的の酒場は城壁の南西部だったかな。隠形はすでにかけてあるから気にせずに、と。
『隠形解除』
ほおおー。上からでも見えてはいたが、城門付近は混雑してるねぇ。だが雑踏の会話からすると、どうやらここがカラバで間違いないようだ。
馬ではなくラクダか? コブが三つの奴や脚が六本の奴もいる。荷台を引いているのはえらく少ないな。ほとんどが背に乗せてる。道がよくないからか? 確かにコナクライに行くんなら馬でさえきつそうだし荷馬車だと絶対無理だよな。
城門を離れ、外周沿いに酒場を目指す。外側にも建物が多いなぁ。城壁に密着はしてないが、だいたい二十メイルほど離れた位置に連なっている。変なところに建物があるもんだな。外敵が攻めてきたら真っ先にやられるだろうに。
「よー兄ちゃーん! 飲んでいけーよ! 入ったばっかの駱駝乳酒だよー!」
「安いよ安いよー! 職人が一つ一つ仕上げた毛織絨毯だーよお! ここでしか買えない逸品だあ!」
「ほぉーら寄ってってくれよお兄ちゃん! うちの勾玉堅果はうっまいぜ!」
聞き慣れない言葉だらけで何を言ってんのかさっぱり分からん。せめて一人ずつ喋ればまだ分かりそうなもんなのに。コーちゃんは一瞬だけ興味深そうな気配を見せたけど、すぐに大人しくなっちゃった。
それにしても、ダークエルフほどではないが色黒の野郎ども……どいつもこいつも濃い顔つきしてやがんなぁ。クタナツの男達はたいがい凶悪な顔してるがそこまで黒くはないからなぁ……
おっと、甘いぜ? 私を狙っても無駄無駄無駄ぁ。スリだろ? 思いっきり走って突っ込んできやがった。いやそれもうスリじゃないじゃん。ノックアウト強盗じゃん。避けざまに足を引っかけてやったら派手に転びやがった。はは、笑われてやがる。ざまぁ。
黄土色系のガウンっぽい服装が多い中、私の黒いウエストコートは目立つもんなぁ。おまけに色白で上品な顔立ち。よそ者感丸出しだよ。そりゃあ狙われるか。
上から見た感じだと南西部はまだまだかな。最初からそっちに降りればよかったが、万が一を警戒して混雑してる城門付近に降りたんだよね。どこからともなく現れたと思われたら困るからな。城門の方から歩いてきましたよーってことで。
「こいつだ! 見つけたぞ!」
「止まれ! 怪しい奴め!」
「何者だ! 大人しくしろ」
衛兵か? 服のデザインは他の奴らとだいたい同じだが色が違う。藍色で統一されているし、胸部に少し装甲がある。おまけに腕には装飾された籠手まで装備してやがる。頭にはターバンか。で、武器は細剣ってわけね。もう抜いてやがるじゃん。
「何か?」
「貴様は何者だ! 先ほどこの者に暴力を振るったであろう!」
「身に覚えがないとは言わさぬぞ! 大勢が見ておったからな!」
「手を挙げろ! そして観念して付いてこい!」
何だそりゃ? あー、あいつか……勝手に転んでおいて衛兵を呼ぶって……死ぬほどダサい真似してやがる。おまけにあの勝ち誇ったツラ。うっわぁ……醜悪だわぁ……小学生のいじめっ子が反撃をくらって高校生の兄貴を連れてくるぐらいダサいわぁ……ニタニタ笑って優越感有頂天って感じ? うわぁ恥ずかし……
『麻痺』
衛兵だろうが騎士だろうが知ったことじゃない。そこでプルプル震えてやがれ。あのダサ男には『微毒』
お仕置きだ。せいぜい吐き続けてな。運が良ければ下からは漏らさないだろうさ。
やっぱ隠形を解かない方がよかったかなぁ。酒場の前で解いても全然構わなかったような。どこかから街に歩いてやってきたっていう理由を付けるために城門前で解いたわけなのだが。
まだかな。確か名前は『ギヤバー』って言ったか。看板出してるんだろうな? ここまで歩いてみたが看板出してる店って一割もなかったぞ?
ここか。結局あちこち聞いて回るはめになったじゃん。無駄な買い物しちゃったし。まあ金なんかないから麻零余子と物々交換したけどさ。半粒かじればみんなハッピーってなもんだよな。
酒場って割に建物があるわけじゃないのね。外にテーブルと椅子を置いてるだけ。いい席は天幕付きってか?
「何飲む?」
「一番いい酒くれ。それから店主はお前か?」
「ほらよ。駱駝乳酒のいいとこ取り。で? わえに何か用か?」
「お前が店主でいいんだな?」
「あー、わえだ」
お前かって聞いてんだからイエスかノーで答えやがれってんだ。
「これ、シュガーバからだ。店主に渡せば分かるんだとよ。」
「あ? シュガーバだと? てめぇ何もんだ?」
「知るかよ。シュガーバって野郎からギヤバーの店主に渡すよう頼まれただけだ。それ以上のことなんか分からんぞ?」
「そうかよ。まさかタダで引き受けたわけじゃあるまい? 何を貰ったかぐらい言えるだろ?」
ほう。やはり聞いてくるじゃん。
「白い薬だ。おまけに今後いい目見せてくれるんだとよ。おっと、心配しなくても誰にも言いやしねぇよ。おいしい話を他に漏らすほど間抜けじゃねえさ。どうせその手紙もそれ関係なんだろ? つまりここはそういう店ってことだ。また来るからよ。俺の顔ぉ覚えておいてくれよ?」
「ふっ、その通りだ。察しのいい野郎は使いものになる。シュガーバが見込んだだけあるな。また来いや」
ふふふ、私の演技は完璧だな。薬と儲け話に目が眩んでる使い捨てに便利な若造に見えただろ? これにてミッションコンプリート。やつらの家族を助けるという約束を果たした。コーヒー豆と白いお薬ゲットだぜ。




