85、聞きたがりシュガーバ
シュガーバの奴は何が気になるんだろうね。
「何が聞きたい?」
「あの時、オレは確かにお前の心臓を寸分違わず撃ち抜いたはずだ。だがなぜ転ぶ程度で済んだんだ? 魔法か?」
あー、あれね。転ぶってか木に頭をぶつけてしまったよね。後ろからくらってさ。
「魔法は使ってなかったぞ。単にこの服がすごいだけだな。ドラゴンって分かるか?」
この大陸にもいるのかな?
「噂に聞いたことぐらいしかない。海の大型魔物すら食い荒らし誰にも手が出せない恐るべき存在だと……」
「まあ正解。この服はそんなドラゴンの革で出来てんのよ。つまり最強ってわけだな。それよりお前こそ、その弦どうなってんだ? 枝に張っただけにしては威力がすごすぎるだろ。」
私も気になってたんだよね。
「ふっ、これは伸縮するからな。引く力が強ければ強いほど矢の威力も増す。しかも木から落ちたオレを支えるほどの丈夫さもある。最高の弦だ」
急によく喋りだした。それより弦なのに伸縮するのか。すごいな……どれどれ。
『金操』
おっ、するする動くじゃん。伸縮するくせに金属の性質もあるってこと? マジで?
「なっ!? そ、それは魔法か……オレの弦が……」
金操って先々代毒針も使ってた刃鋼線なんかとも相性がいいんだよな。素手で触るとすぐ切れる刃鋼線でも魔法で操る分には無傷だもんな。でもこの弦は切れ味はなさそうだな。絞殺はできても首の切断とかは無理か。
「ほれ、返す。これ何でできてるんだ?」
「あ、ああ……砂漠でごくたまに目撃されるメタリックサンドスライムからだ。正確にはメタリックサンドスライムが特定の砂を食べた後の現場に落ちている鉱物から作るらしい」
なんだそりゃ……メタリックスライムは覚えがある。ヒイズルの迷宮にいたもんな。船乗り達は魔粘泥とか呼んでたけど。湿原によくいるって聞いてた割にヒイズルでは湿原なんか立ち寄ってないよなぁ。
サンドスライムも分かる。ヘルデザ砂漠で時々目撃されるみたいだし。でもメタリックサンドスライムは初耳だ。
「砂漠ってどこら辺にあるんだ?」
「どこら辺って……ここから南に一ヶ月も下ればあたり一面砂漠だが……というかセティアニア商国の八割以上が砂漠だぞ?」
あらま。そうなの?
あ、砂漠で思い出した。
「紅蓮獅子っているよな? あれはどこの砂漠なんだ?」
またまたヒイズルのことを思い出したじゃないか。豊穣祭の決勝でカムイと戦ったのが紅蓮獅子のライオネル君だったよな。
「ガウガウ」
さすがにカムイは覚えてるんだな。
「ぐ、紅蓮獅子、だと……その名をどこで知った……」
「そんなことはどうでもいいだろ。で、知らないのか?」
「い、いや、もちろん知っている……というか商国の者なら誰でも知ってると思う……」
ふむふむ。セティアン砂漠って言うのか。何となく聞き覚えがあるような……それが商国の中心にあるわけね。というか商国の七割ぐらいはセティアン砂漠なのね。残る一割の砂漠はあちこちにばらけてるわけね。だからセティアニア商国っていうわけか。
で、そんな広大なセティアン砂漠の中心部に君臨するのが紅蓮獅子ってわけだ。頭数は不明、一番の大物は身の丈十メイルとも二十メイルとも言われてるけど謎。目撃されたら必ず襲ってくるから、とにかく中心部どころか中心から二百キロル圏内は誰も近寄らないと。
たまにそれでも襲われる者もいるし、ごくたまに紅蓮獅子が獲物を変更して助かった者もいるとか。数少ない生存者によると、ドラゴンと思しき個体を紅蓮獅子が狩ったケースもあるらしいが……これは半信半疑だな。誰にも手が出せないって話はどこに行った? 本当にドラゴンなのか、それともワイバーンなのか分かったもんじゃないからな。下手すりゃコカトリスって場合もあるし。
「……というぐらい危険なんだ。行きたいなら構わないが、その前にオレを殺してからにしてくれ。あんな恐ろしい場所に近寄るなんて冗談じゃない……」
ふーん。これは面白い。いいこと聞いちゃったよ。こいつらを脅すにはそんな手もあるんだね。ふふふ。
「心配しなくても用が済んだら解放してやるよ。別に殺す気もないしな。うすうす気づいてると思うが俺は約束を守るタイプだからな。」
これっぽっちも信じてないようだが知ったことではない。
「それより聞かせてくれ。お前のその服だ。ドラゴンと言ったな? どうすれば手に入るんだ?」
話を蒸し返してきやがった。そんなにも興味があるってのか? それとも単なる装備バカ、もしくは素材バカ?
「まずはドラゴンを見つけること。これはローランド王国ならムリーマ山脈かノワールフォレストの森。次にあまり傷つけないように倒す。首を刎ねるのがおすすめだな。あとは持って帰って凄腕の仕立て屋に頼めば終わりって感じだな。」
「あ、ああ……よく、分かった……ならば最後だ。あの時オレが首や頭を狙っていたらお前は死んでいたのか?」
聞きたがりだなぁ。負けず嫌いか?
「狙って、なおかつ当たればな? でも首も頭も狙えないから心臓を狙ったんだろ? 背を向けた瞬間にな。」
「そうだ……」
そりゃそうだろ。狙えないように立ち回ってたんだから。キョロキョロしたり手を顔や首元に動かしたりしてさ。シャツの袖の下には無敵の籠手だって装備してあるんだぜ?
急に黙り込んだな。聞くことがないならここまでだ。では夕食の続きといこう。こいつらをどんどん私に逆らえなくしてやるよ。




