10、デビルアークオクトパス
交代にやって来た宮廷魔導士が唸っている。
「どうしました?」
「これを見てもらえるかの?」
遠隔視の魔道具を覗き込む。特に何も見えないのだが……
「ここだ。ちと見えにくいがの」
「ちょっと失礼しますね。」
魔力探査を伸ばしてみる。
「デビルアークオクトパスですか?」
昔どこかで仕留めた覚えがあるな。あの時はマリーが下ごしらえと料理をしてくれたんだったか。
「おお……さすがは魔王殿。そこまで伸ばせるとは。うむ、よく見えるの。距離四百二十一メイル、体長九十四メイルか。あやつが船底に取り付いてしまうとな、船の速度が著しく落ちてしまうのよ。魔王殿ならどうする?」
知らねーよ、と言いたいところだが……
「このペースなら余裕で通過できそうじゃないですか? 無視でいいと思いますけど……」
実際はよく分からないんだよな。あくまでこの船との直線距離が四百いくらってだけなんだから。進行方向にいるのは分かるが海面から何メイルぐらい下なんだろう。俯角四十五度だとしたら……三百メイル弱か?
つまりこの船が三百メイル進むのと魔物が三百メイル浮上するのではどちらが速いかという話だよな。でもあいつってこの船に気付いてるのか?
「思いますけど、ちょっと待ってくださいね。少し確認してみます。」
『魔力探査』
今度は薄く展開してみた。デビルアークオクトパスに当たるように、中心角が直角のおうぎ形で。これなら……
だいたい俯角三十度か。で、今の間に直線距離で三百五十メイル切ってんじゃん……
でことは……奴が百七十メイル浮上する前にこの船が三百メイル進めばいいってことになる。奴の浮上速度なんか知らんぞ……
まあいいや。とりあえず手短に説明っと。
「……って感じです。後のご判断はお任せしますよ。」
私に判断できることじゃないしね。
「ふむ、今リキーム殿にも伝えたところだ。魔王殿、もしよかったら仕留めてみぬか?」
軽く言ってくれるぜ。新しくバッティングセンターができたから打ってみる? ってぐらいのトーンだな。
「デビルアークオクトパスは食べる前の下ごしらえが大変らしいですけど、皆さんならできますよね? それならやりますよ。」
「はははっ! そのようなことでよいのか!? なんたる剛気! なんたる胆力! ならばぜひお手並拝見させていただこう!」
「あくまでデビルアークオクトパスの浮上の方が早かった場合ですけどね。じゃ、船首に行っておきますよ。」
「うむ。リキーム殿にも伝えておいた。明朝の食事の話題は決まったの。楽しみにしておるでの」
宮廷魔導士を食材の加工に使っちゃ悪い気もするが私は巨大蛸の料理法なんて知らないからな。せいぜい傷が付かないように仕留めるとしよう。蛸は刺身でも干物でも旨いもんな。ヒイズルの酒によく合いそうだ。
アレクと連れ立って船首まで駆け足で移動。
『魔力探査』
いるな。意外に浮上スピードが速い。やっぱこっちに気付いてたのか。この感じだと船尾ら辺に取り付きそうかな……せっかく船首まで来たってのに。
「アレク、行ってくるね。」
「ええ、行ってらっしゃい。」
そう言って私の頬にキス。これ大好きなんだよなぁ。ふふふ。
『浮身』
『風操』
『暗視』
そして手近な宮廷魔導士に伝言で……
『進路を少し左右どちらかにずらせますか? そろそろデビルアークオクトパスが現れますので』
『うむ。ちょうどその準備に入っているところだ。魔王殿は気にせず腕を振るわれるがよい』
さすがに魔物の動きはチェック済みってわけね。ならば後は浮上を待ってから仕留めればいい。船に取り付く心配がないなら慌てることもないからな。
おっ、船の進路がわずかに左に向いた。てことは奴は右舷から浮上してくるか?
『魔力探査』
間違いない。もうすぐだ。
では軽く先制でも。
『氷塊弾』
『落雷』
真上から大型の氷を撃ち込みつつ、海に空いた穴に落雷を叩き込む。海の魔物って雷系が効きやすいんだよな。
その代わり大型の魔物にはほとんど効かないのも定番だよな。
おっと『風壁』
蛸の魔物らしく墨を吐いてきやがった。まだ水面にまで出てないってのに気の早いことで。狙いが正確なのは褒めてやろうか。
『風斬』
今度は足を伸ばしてきやがった。あれって足でいいんだよな? 何かで八本のうち二本は脚で六本は腕、なんて聞いた気もするが。でもこいつの場合八本どころじゃないしな。
『乾燥』
こいつの足って斬っても動くんだよなぁ。だから乾燥させてからでないと触りたくない。よし、収納っと。触らないと収納できないもんなぁ。
さあて、どうしてくれようか?




