9、海の魔物と遠隔視
ふむふむ。だいぶ分かってきたぞ。
この魔道具は全体を見るだけでなく、ズーム機能まで付いているようだ。もっとも、その場合は魔力探査の範囲を狭めて伸ばす必要があるが。現在下に向けて半球状に展開している魔力探査を変形させるのはそれなりに難しい。慣れてない者にいきなりやれと言っても無理だろう。よく私に任せる気になったな……いくら魔力があっても精密制御なんかの魔法技術のない奴には無理だろこれ。
「これ面白いわね。これがあれば邸宅の夜間警備にも便利そうだわ。」
「それいい考えだね。王都に帰ったら聞いてみようか。ここに現物があるってことは作った魔道具職人がいるはずだもんね。」
問題は値段だよな。魔道具は基本ワンオフだからな。めちゃくちゃ高いのが定番だ。私やアレクでさえ今日まで知らなかったことからするとかなり高いって予想がつく。おまけに原料も希少だったりするんじゃないの? この球だって何で出来てるんだよ……
「そうね。これほど前代未聞な魔道具を作れる職人なんてきっと王家のお抱えかも知れないものね。」
「あり得るね。それにこれ、見てて飽きないのがいいよね。何日も続くと飽きそうだけど。」
「そうね。こうして海の中を眺めるなんて普通はできないものね。あっカース、今のは?」
「おっ、そこそこ大きな魔物かな。ちょっと待っててね。」
船内にも『魔力探査』
ここから一番近いのは……この人か。
『魔物を発見。進行方向に対して右前。船からの距離は不明。魔道具に見える大きさは十五センチ程度。魔力はそこそこ』
『了解。ならばその魔物に集中して魔力探査をしてみるといい』
『了解』
どれどれ……ズームっと。
おおー、これは便利。魔道具いっぱいに拡大されるわけね。姿も見えるし距離やサイズも表示されてるじゃん。これなら分かりやすい。
『魔物はギガントマンタの赤。距離は三百五十三メイル。体長は二十四メイル。このサイズでも報告は必要だろうか?』
『さすがは魔王殿……そのように遠くまで魔力探査が届いておるとは。魔物によって安全圏は異なるが魔王殿としては見つけるごとに報告してもらえるとありがたい』
『了解』
なるほどね。本来なら必要なさそうだけど私にその判断はできないからな。ギガントマンタは尾に凶悪な毒針があるらしいけど、この船の大きさや頑丈さからするとアリみたいなもんだよな。思うにこの遠隔視の魔道具に映るのには最低でも二十メイルは必要なんだろうな。小さい魔物まで全部見えてちゃ警備にならないし。で、小さくても厄介な魔物はもちろんいるが、そういう奴は魔力がそれなりにあるから魔力探査に引っかかるってわけか。
魔力も体も小さいのにこの船とって脅威となるほどの魔物がもしいたら……まいっか。その辺は建造時に何か対策してるだろ。私が考える程度のことを考えてないはずがないからな。たぶん防御をがちがちに固めるとかそんなことをやってるだろう。
ふぅ。疲れたってほどではないけど怠くなってきた。同じ画面をずっと見てるからな。アレクと交代してもいいけど万が一ってこともあるからな。迂闊に交代もできないよなぁ。
「やあカース君、調子はどうだい?」
「ああ兄さん。ちょっと怠いなーって思ってたとこだよ。ちょうどいいや、兄さんならどんな風にやるかちょっと見せてくんない?」
手に何やら菓子を持ったガスパール兄さんがやって来た。来たからには見本でも見せてもらおうじゃないか。
「んー、たぶんカース君と変わらないと思うよ? むしろカース君より範囲が狭い気がするね。ほら、こうやって範囲を前方からやや下あたりに集中しておくと楽かな。前に進んでるわけだから真下や後方はそこまで警戒しなくていいんだよね。完全に無視ってわけでもないけどさ。時々確認すれば充分かな。」
なるほどね。確かにその通りだ。仮に後ろから大物が追ってきたとしても即時に対応しなくたって充分間に合うわけだな。逆に前方にいた場合はすぐに対処しないと手遅れだもんな。
「あとさ、見えた魔物は全部報告してるんだけど、この船だったらクラーケンでも出ない限り敵じゃないよね?」
「ははは、おそらくね。幸い僕はまだクラーケンに遭遇したことはないけどさ。今のところ魔物の攻撃でこの船が傷ついたなんて聞いたことはないよ。宮廷魔導士が守ってるんだから当たり前と言えば当たり前だけど。」
そう言いながらも兄さんは魔力探査を続けている。特に目立ったところはないが、堅実な魔力運用だ。
「失礼するぞ魔王殿。そろそろ交代の時間だ。ん? ガスパールか。何をしておる?」
もうそんな時間か。
「ああ、ちょっと兄さんには見本を見せてもらってたんですよ。勉強になりました。では僕らはこれで。」
「お疲れ様ですドライオットさん。カース君に見本など必要ないんですけどね。今のところ安全です。じゃ、僕も持ち場に戻ります。」
「うむ。お務めご苦労」
ふー。たった四時間だけなのに、やけに疲れたな。やっぱ船の命運がかかってるとプレッシャーもひとしおだな。部屋に帰って風呂だな。それからアレクとイチャイチャしつつ寝るとしよう。
「む? これは……すまぬ魔王殿、しばし待っていただけぬか?」
「いいですよ。どうしました?」
よくはないけど船の危機なら協力するに決まってんだろ。運命共同体なんだからさ。




