8、初当直の夜
夕食が済んだら客室に戻ってティータイム。いやー優雅な時間だね。
それにしても宮廷魔導士たちがあんなにお喋りだとは思わなかったな。あのままトークが終わらないんじゃないかと思ったほどだ。循環阻害の首輪の思い出話からどんどん話が転がって王国一武闘会に戻ったかと思えば各々が出会った印象深い冒険者の話になり、そこから各地の旨い物へと転がっていった。やっぱ王都の人間からするとタンドリー領の香辛料が利いた味ってのは刺激が強いみたいだな。けっこう好き嫌いが分かれてた。
「たまにはあんなおじさん達とお喋りするのも面白いもんだね。」
「そうね。聞いてるだけで面白かったわ。でも王家が誇る宮廷魔導士をおじさんだなんて言うのはカースぐらいね。」
「はは、そうかな? そういや女性の宮廷魔導士っていないのかな? 魔力的に考えたらいそうなもんだけど。」
「確か一人か二人はいたと思うわ。宮廷魔導士の場合って男も女も大差ないから敢えて成りたがる者が少ないとか聞いた気がするわ。近衞騎士の場合だと女性しか活躍できない場合があるからそれを狙って入ってくる人もいるみたいだけど。」
男も女も大差ない? それは魔法の腕の話だな。むしろ魔力的には女性の方が上だしなぁ。それでもあまりなりたがる女性が少ないってことかな。選抜試験とかハードそうだし。任務はもっとハードそうだからか? 少しだけ納得。
近衞騎士は分かる。昔のティタニアーナみたいな女性王族を護衛するには女性の近衞騎士が必要だろうからな。そうやって必要とされるから成りたがる者も多いってことなのかな。王族ともお近付きになれるしね。それに女性枠とかあるのかも知れないし。
「そもそも女の子の場合は中等学校を卒業したぐらいの歳で結婚する場合が多いもんね。となると、そりゃあ近衛騎士にも宮廷魔導士にも少ないよね。」
その理論でいくとアレクが領都の魔法学校を卒業したタイミングで結婚してもおかしくなかったんだけどね。私のわがままのせいなんだよな。あちこち旅をした後で結婚したいっていうさ。でもアレクだって結婚はしたいけど旅が終わらなければいいのにって言ってたな。乙女心は複雑だぜ。
そういえば魔法学校に騎士学校、貴族学校や中等学校。こういった初等学校の後に行く学校をまとめて中等学校って言うけど、実際には誰も言わないんだよなぁ。みんな心の中では一緒にするなって思ってるからさ。同じようにサンドラちゃんが行ってる高等学院、スティード君が行ってる近衛学院、セルジュ君が行ってる貴族学院、シャルロットお姉ちゃんが行ってた魔法学院なんかはまとめると高等学校なんだよな。これまた誰も呼ばないけど。
「私も魔法学校にいた頃は何回か卒業後の進路に魔法学院を考えたこともあったわ。アンリエットお姉様やシャルロットお姉様の凄さを見てしまったから。でも、それよりもカースと一緒にいた方が強くなれるとも思ったの。第一その方が楽しいものね?」
「そうだったんだね。一緒に来てくれて嬉しいよ。どっちが強くなるかはともかくとして、アレクがいてくれた方が僕は強くなれる気がするよ。ありがとね。」
「そんなことないわよ。カースはいつだって強いわ。でも、嬉しいかな。」
あれ? 何だかいつものアレクと違うぞ?いつもの高貴さよりも、可愛さが前面に出てる気がする。
それから当直の時間までお喋りは続いた。他愛のない話だったりクタナツ時代の思い出話だったり。明らかに先程の宮廷魔導士トークに影響されちゃったな。
「失礼する。魔王殿、そろそろ時間だ」
「はい。行きます。」
時間になったら呼びに来てくれるって言うから部屋の鍵を開けておいて、入っていいと伝えておいたのだ。寝てるかも知れなかったもんでね。リキームさんから直に伝言でもいいだろうにね。
案内された場所は船内でも下層エリアだった。三畳程度の広さにテーブルとソファーが置かれている。テーブルの上には見慣れない玉。直径三十センチぐらいだろうか。それを一人の宮廷魔導士が見つめている。
「おっ、魔王殿か。交代だな」
「うむ、そなたはもう上がってよいぞ。ご苦労だった」
「はいよ。じゃあ魔王殿、後は頼むよ」
「ええ、お疲れ様でした。」
「では魔王殿、説明しよう。これは遠隔視の魔道具でな。手を当てて魔力探査をすれば魔力の及ぶ範囲を見ることができる。操作には少々慣れが必要だが魔王殿なればあれこれ教えるより実際にやってみた方が早かろう。海には魔力は小さくとも体は巨大な魔物がおる。そのため魔力探査のみでは心許ないゆえな。これを併用して警備にあたって欲しい」
「分かりました。難しい時は言いますね。」
「うむ。ではよろしく頼む。おっと、そうだ。それを使う時は部屋を真っ暗にしておくとよいぞ」
「あ、なるほど。分かりました。」
そう言って宮廷魔導士は出て行った。コーちゃんもカムイも来てないから、この狭い部屋にアレクと二人っきり。多少はいけないことをしたくもあるが……まずはこれに慣れるのが先だな。
「ちょっとやってみるね。」
「ええ、明かりを消すわね。」
照明の魔道具を止めると部屋は完全なる暗闇。では球に触れ、下方向に……『魔力探査』
基本的に魔力探査って水平方向の魔力をレーダーのように感知する魔法なんだよなぁ。それを下に向けて広げるのはそれなりに難しい。しかもあまり魔力を込めすぎると魔物が寄ってきてしまうからな。探査に使う魔力は少なければ少ないほどいい。
「うわぁ……海の中ってこんな感じなのね。バンダルゴウやヒイズルとはずいぶん感じが違うのね。底が見えなくて引きずり込まれそう。どれだけ深いのかしら……」
「意外ときれいに見えるもんだね。真夜中なのにさ。水がきれいなのも理由の一つかな。」
昼間みたいにってほどではないが大型の魔物がいれば見逃すことはないであろう程には見える。イメージは夕暮れ時に空から陸を眺めてる感じだろうか。たぶん魚なんかもたくさんいるんだろうが、それは全然見えない。ある程度の大きさか魔力がないと球に映らないとか? まあいいや。監視しやすいのは大歓迎だ。
この船の安全は私が守る!




