366、スペチアーレ男爵の弟子
まあいいや。私の方にも手持ちの樽なんてないし、きっとこの樽には品質保持の魔法効果ぐらい付いてるんだろうしね。樽ごとゲット。
ほんの気持ちということで鹿系の魔物を一体プレゼント。牧舎の中ではなく裏に水場があったからそこに置いてやった。これで気持ちよく出発できるぜ。おじさんの感謝の声が耳に気持ちいいねぇ。肉だけじゃなく皮や角まで有効活用できそうだしね。
一応気になったからおじさんに『解呪』をかけてみたら、案の定だ。契約魔法がかかってた。もう少し話を聞いてみれば、とある商会にしかミルクを売れない上に、かなり買い叩かれていたらしい。おじさんの母親が病気になった時の借金が原因らしいが。あるあるだな。まあこれで万事解決かな? いやぁ人助けをした後は気持ちがいいね。では、行くぜスペチアーレ男爵の所へ!
到着。夏の空を飛ぶのも乙なもんだね。紫外線が気になるから上に闇雲を張っておいたけど。アレクの玉肌に日焼けなど必要ないのだ。さて、まだ昼前だし男爵は酒蔵で何かの作業中かな?
「ピュピューイ」
コーちゃんがいち早く突撃した。着地前に浄化はかけてあるが、コーちゃんは地面を這うんだよなぁ……カムイは日当たりのいい場所を見つけて寝転んだ。それって暑くないのか?
「僕らは屋敷の方に行ってみようか。」
「そうね。執事がいるかも知れないものね。」
それにしても、こんな山奥によくもまあこんな大きな家を建てたもんだよな。いくら平屋とはいえさ。酒蔵だってかなり広いし。
「お邪魔しまーす。スペチアーレ男爵ぅーいらっしゃいますかー?」
返事はない。執事もいないのか。男爵と一緒に作業中かな? では、勝手知ったる男爵の家。入らせてもらうよ。
「誰だあっ!?」
いきなり扉が開いたかと思えば大男が出てきた。髪も髭もボーボーって感じ。
「俺らは男爵の友人カースとアレクサンドリーネ。あんたは?」
「あぁ? 友人だぁ? 嘘くせぇなぁ? そんな若いくせに師匠と友人だとぉ?」
師匠? こいつ男爵の弟子か。男爵はがりがりに細いのにこいつは全然似てないなぁ。
「男爵は酒蔵か?」
「あぁ? 今日は朝から森行っとるわ! 樽が足りねぇんだとよ!」
「お前……弟子なのに同行しないのかよ……」
息どころか体中が酒臭いし……
「うるせぇんだよ! それよりてめぇだぁ! ここにぁ金目のもんなんかねぇからよぉ! さっさと帰れやぁ!」
「男爵が森に行ったってことは夕方には帰ってくるだろ。それまで待たせてもらうぜ? あぁ心配するな。庭で待ってるからよ。」
「けっ! 好きにしろや! 俺ぁ寝るからよ! 金目のもんはねぇからうろちょろすんじゃねぇぞ!」
こいつ二日酔いかよ。師匠は朝から仕事してんのにいい気なもんだ。しかもやたら金目のもんはねぇって……バカすぎる。あるって言ってるようなもんじゃん。そこで読めた。男爵がこいつを放置して出かけた理由、こんな奴でも番犬ぐらいの役には立つと判断したんだろう。実際私らの声や足音に反応して姿を現したわけだしね。しかも執事もいないってことは男爵に同行してるんだろう。なのになぜ玄関の鍵が開いてんだよ……ここだって魔力錠だろ? あ、分かった。こいつをまだ登録してないからか。優しすぎるぜ男爵……こいつが出入りできないぐらい全然問題じゃないだろうにさ。金目のものが本当にあるのか怪しくなってきたけど。
ならば私はどうするべきか……夕方どころか昼までまだ時間はあるし……これはさっそくチャンス到来じゃないの?
「アレク、お風呂でゆっくりしない?」
「ええ、いいと思うわ。お昼前からお湯につかるなんて贅沢ね。」
ふふふ、ただの湯じゃないぜ?
魔力庫からシェルターを出して……
「ちょっと待ってね。」
「ええ。」
中に入って、湯船を収納して……
「お待たせ。じゃあ、行くよ。アレク脱いで。」
「わ、分かったわ!」
おうっふ……やはり刺激が強いぜ……この青空の下、躊躇いもなく一枚ずつ服を脱いでいくアレク。 私に見せつけるかのようにゆっくりと……換装だって使えるくせに、悪い子だぜ。大丈夫だよな? 誰も見てないよな?
「じゃあ空中露天風呂といこうか。」
カムイ、お前も来るか?
「ガウガウ」
当たり前だって? この甘えん坊め。もう日向ぼっこに飽きたのか? じゃあ行くぜ。
『換装』
『浮身』
私も裸になって湯船に浸かり、空へと浮かせる。広大なムリーマ山脈を上から見下ろすのもいいもんだろう。男爵が気付いてくれるかも知れないしね。コーちゃんは何してるんだろ。酒蔵を荒らしてなければいいが……さすがにそんなことするわけないか。
うーん、だんだん景色がよくなってきた。遠くまで見えるぜ。さすがに直射日光がきついな。『闇雲』
ふぅ、いい湯だぜ。あははん。




