365、羊乳騒動
どちらにしてもアレクに対して下卑た口を利いた時点でアウトなんだけどさ。そっちの事情なんか知らん。
『水壁』
首から下を閉じ込めた。
「んだテメェ!? やるってのかオラぁ!」
「この程度で魔法が使える気になってんじゃねぇぞ?」
「知らねぇぞ? 俺らに手ぇ出して後悔すんなよ?」
調子に乗ってんなぁ。まだ常温だし水圧も普通だもんな。で、この程度だと? 破れないくせに大きな口叩いてんなぁ。
「お前らの事情なんか知らねーよ。お前らごときがうちの大事なお嬢様に舐めた口利いてんのが許せんだけだ。じゃ、右のお前から行こうか。お前らどこの者だ?」
「んだオラぁ? テメェこそ何モンだぁおお?」
はいアウトー。『水壁』
頭まで覆う。
「次、真ん中のお前。どこの者だ? どこかの商会か?」
「ざけんな! この程度の水壁なんぞ……なんぞ……ぐっ……」
こいつもアウトー。『水壁』
しばらく頭を冷やしてな。
「最後はお前だ。喋らないってんならこいつらが死ぬだけだな。お前はその後で殺してやるよ。よかったな。溺死と違って苦しまなくて済むぜ?」
「な、何が聞きたいってんだ……」
おっ、素直になってじゃん。最初からそうしてればいいのにさ。
「じゃ、約束だぜ? 質問に正直に答えろよ? そしたらあいつらの頭を出してやる。」
「わ、分かったっぎぉゅおっごっぼぼほぉぉ……おおぉ……」
少しばかり魔力を多めに込めてやったからな。
「それが契約魔法だ。お前はもう逃げられない。」
『水壁一部解除』
もちろん約束は守るぞ。正直そこまで聞きたいってわけじゃないけどね。適当にぶん殴って終わりでもいいのだが、ここのおじさんに後々迷惑がかかってもまずいもんな。こいつら系って無関係のおじさんに復讐とかしそうだし。
そもそもどこの者かなんて後でおじさんに聞いてもいいしね。
「お前でいいや。代表して謝れ。美しいお嬢様のお耳を汚してすいませんでしたってな。」
「う、美しいお嬢様に、な、生意気な口きいて、お耳汚して、すす、すいませんでした!」
あれ? めちゃくちゃ素直になってない? 正直になる契約魔法をかけただけだぞ? あ、もしかして……
「お前、もしかして俺のこと知ってるのか?」
「ひいっ! ご、ごめんなさい! ち、ちち、違うんです! あ、いや、違いませ、し、知ってます!」
だからか。契約魔法でぴんと来たのかな? 服装で気づけって言いたいところだが、まだまだ似たような奴って多いもんなぁ。白い蛇と白い狼を連れてる奴はそうそういないと思うがね。
「俺の名を言ってみろ。」
「ひっ、ま、魔王、様です、よね!?」
だから名前を言えって言っただろうが……まぁいいけどさぁ。
「謝ったことだし許してやろう。ついでだからお前らが持って帰るはずだったミルクは俺が貰っておいてやる。でも金はきっちり払えよ?」
「は、はい……」
よし。どさくさでミルクゲット。
「……おいケスゥ、お前マジかよ……」
「魔王ってマジでか……?」
「知らねぇよ……万が一モノホンだったらマジで俺ら終わりだぞ……」
何やらボソボソ言ってやがるな。よく聴こえないが。
「用が済んだらさっさと消えろ。ちなみにここの主と俺は今日が初対面だからな。文句があったらタンドリアの大公家に来い。ドナハマナ伯爵家でもいいぞ? ついでに言うと今日のことも伝えておくから復讐したらどうなっても知らんぞ?」
「ちっ……大公に伯爵だとよ……大物風吹かせやがって……」
「こいつ本当に魔王なんかぁ……?」
「俺は帰るぞ……」
今のは聴こえたぜ?
『水壁』
「お前ら懲りねーな。文句は聞こえないように言えよ?」
「あじっいいいいいぁぁぁ!」
「いぎぃあぁじじじじぃぃ!」
「ば、ばか! 早く謝れ!」
二人だけ水壁に閉じ込めた。ただし高温だ。かなりあっついぜぇ? 先ほど謝った奴は勘弁してやってる。
「あじゃぁあああじいぃぃ!」
「やめっでえぇがぁあぁあ!」
「お、お願いだ魔王様! い、命だけは!」
ほぅ? 地べたに膝を突いて頭を下げるか。ならまぁいいか。
『水壁解除』
冷やしてはやらんけどな。
「さて、お前ら二人には約束してもらおうか。何があってもこの牧場に味方するとな。そしたらこのまま見逃してやるよ。」
「おら! お前ら返事しろ! 早く! やべぇんだって!」
二人は地べたに倒れ込んで唸ってる。熱すぎたかな? 沸騰するほどの温度じゃなかったはずだが。
「ずるっっっがあっあっあっあぁぁ……」
「くっうぐぁいいぐっあうぅぅおぉ……」
よしオッケー。これで後のことは大丈夫だろ。
「じゃあさっさと消えな。俺は本当にこことは無関係だしさ。さっさとミルク持って消えてればいつも通りだったのによ。余計なことしやがって。」
「は、はい、すんませんでした……」
倒れた二人を引きずりながら消えていった。ふふ、これ百点だろ。この牧場に復讐する可能性を限りなく低く抑えつつ私の手は取られない。その上でミルクをゲット。おまけに代金はあいつら持ち。間違いなく百点の対応だったな。
「えっと……そんなら今日の分はお前さんが持っていくってことでな?」
「ああ。貰っていくよ。もし今日のことであいつらが何か言ってきたらこれを持ってタンドリーの大公家かラフォートのドナハマナ伯爵を頼るといい。おそらくは何もないとは思うけど、万が一ってこともあるしね。」
『このおじさんを助けてやって。カース・マーティン』と一言書いた手紙とコーちゃんカムイを刻んだ鉄製コイン。いきなり殺しに来られたら役に立たないけど、助けを呼ぶ時間があればそれなりの切り札になるだろう。
「たいこう? ドナハマナの……伯爵様!?」
大公と言っても伝わらなかったか。まいっか。さすがにフランツの所は遠いからね。伯爵のいるラフォートなら半日もあれば着くかな?
「もしくはそこら辺を警備してる騎士に助けを求めてもいいかもね。じゃ、貰っていくよ。」
「あ、ああ、また来ておくれでね」
そんな話をしつつミルク樽まで案内された。ほほう。百リットルはありそうだな。これだけのものを今朝搾ったってことかな? 手作業で? 大仕事じゃん……頑張ってるなぁ。ありがたくいただこう。コーちゃんもカムイも喜んでいる。アレクが淹れる紅茶に混ぜても美味しそうだよな。楽しみだぜ。
あ、樽って返しに来ないといけないかな……?




