364、ミルクを求めて
ふぅ……結局我慢できなかったので広範囲を『闇雲』で覆った上で『隠形』と『消音』を使ってコトを済ませた。騎士達も何事か気になったようだが広範囲に渡って水を撒いてやった上に『乾燥』まで使ってやった。ふふふ、何の痕跡も残してない。
闇雲を解いたら全員釈然としない顔をしつつも去っていった。最初からさっさと去ってくれてたらこんな面倒なことしなくて済んだんだけどね。
後はアレクが起きるのを待つだけだ。シェルターに戻り、寝顔を見つめながら。
アレクが起きたので最寄りの街まで飛んでみた。三、四時間も歩く気分じゃないしね。朝だし腹もへってるからね。
『隠形』を使って街の中に着陸。ここはいわゆる宿場町ってやつかな。
「よし、何か食べようか。アレクは何か食べたいものはある?」
「食べたいってより紅茶が飲みたい気分だわ。カフェみたいなところがあるといいわね。なければもう出ましょ。私が淹れるから。」
宿場町にカフェ……あるのか? でも上から見た感じそこまで広い街じゃなかったし、少し歩いてみるかな。カフェ……あるかなぁ。
あった。カムイが吠えて教えてくれた。さすがにいい鼻してやがる。
カフェと言えるか怪しいが、軒先でリラックス。アレクは紅茶と炒り豆、私は冷たいミルクにパンを頼んだ。コーちゃんとカムイには仲良く同じ巨大パンを頼んでみた。飲み物は私と同じくミルク。何やらここのパンは通常の四倍もの大きさで根強いファンがいるらしい。見た目は固そうでさほど美味しそうにも見えないが……
「行きましょカース。もういいわ。」
「そうだね。お腹も膨れたしね。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんもカムイもパンが不味かったと言っている。二人とも贅沢なんだから……
しかしミルクは美味しかった。何の乳なのかは聞いてないがカムイの鼻が反応するだけあるのだろう。
出発前に街の中をぶらりと歩いてみようと思ったら……「ガウガウ」
ミルクをたっぷり買ってからにしろと言われてしまった。カムイも贅沢になったもんだなぁ。
というわけでカフェの主人に仕入れ先を聞いたところ、ここから東に二十キロルぐらいの場所に牧場があるらしい。一軒しかないから行けば分かるとのこと。銀貨一枚で快く教えてくれた。
「というわけで寄り道するね。」
「いいわよ。私も飲んでみたくなったもの。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
コーちゃんもカムイも喜んでいる。二十キロルぐらい大した距離じゃないしね。
到着。確かに牧場だ。一面に広がる草原の中に建物が一軒。牧舎と自宅がセットになってるのか。周辺には柵が見当たらないけど大丈夫なのか? おっ、ミルクの正体はあれか。黄色がかった白い毛で覆われた獣、羊か。魔物の昏睡羊とは違うようだな。普通の獣っぽい。さて、ここの主人はどこかな? とりあえず建物に行ってみよう。着陸。
おっ、いたいた。牧舎内の掃除してるのね。
「やあおはよう。朝から頑張ってるね。突然悪いね。俺はカース・マーティンって者だけどミルクを売って欲しくやって来た。売れる分だけでいいから売ってもらえないかな?」
「あんれま、ようこんな所まで来ちゃったね。ちょうど搾り終わったとこでね。でもほとんど売り先が決まってるもんでね。ワシらが飲む分ほどしかないけどええかの?」
「さすがに大人気なのね。美味しかったもんな。じゃあ悪いけどそれを頼めるかい? いくらかな。」
「いらんいらん。大した量じゃないでね。ちっと待っておくれでね」
あらま、それは悪いなぁ。ならば代わりに肉でも置いていくか。
「おうジジイ! 今日の分出せやぁ!」
何だぁ? いきなり入ってきて大声出しやがって。
「何だテメェ? 客か?」
「あれだろ! たまにいんぜ? ここのミルク買いに来るバカがよ?」
「はっはーん、そういうことな。帰った帰った。ここのは全部ウチが仕入れることになってんだよ」
こっちの話も聞かずに言いたいこと言ってくれるなぁ。正解だけど。売り先が決まってるってのはこいつらだったのね。
「お前らどこの者だ?」
「テメェにゃ関係ねえだろ? おっ、そっちのかわい子ちゃんとは関係してぇなぁ。ここのミルクうめぇだろ? 俺らと来たら好きなだけ飲めるぜ?」
「ぎゃははぁー! お前またそれかよ! そんなでホイホイ付いてくる女なんかいるかよ!」
「たまにいるじゃねぇか。だからこいつが調子に乗るんだよな。ちがうミルク飲ませるくせによ?」
「うるせーよ! 飲みてえって言うから飲ませてやってんだけだっつーの! で、どうよかわい子ちゃん? 色んなミルク飲ませてやるぜぇ?」
「ぎゃははー! お前さいってー!」
「それにしてもマジきれいだな。どこのお嬢さんだい? ここらじゃ見かけねぇな?」
こいつらよく喋るなぁ。しかも下品。アレクは私のミルクしか飲まないんだよ。大好物なんだぜ?
「待たせたでね。あぁお前らか、いつも通りあっちに用意してあるでね。早く持っていけ」
おっ、おじさんが戻ってきた。小さな樽を携えて。三、四リットルぐらいかな?
「んだジジイ? そいつぁ何よ?」
「まさか他のモンに売る気かぁ、おお?」
「そいつは見逃せねぇなぁ? ちいっと痛い目ぇ見てもらわねぇといけねぇぜ?」
「ちっ、ちが、これはワシらが飲む分を……」
ふーむ、何やら阿漕で不当、そして暴力の匂いがするなぁ。どうしてくれよう。




