363、ドナハマナ騎士団の紫電騎士
まさかドナハマナの騎士が現れるとはね。朝から仕事熱心じゃないの。
「貴様ら神妙にしろ! 規定の場所以外での商取引は禁止されていることを知らんのか!」
こいつら行商人が知らないはずないよなぁ。そりゃあ個人個人がちょこちょこ売り買いするのは摘発不可能だし黙認されてるだろうけどさ。
「よもやこのような場所で茣蓙など広げおって! 首謀者は誰だ!」
茣蓙を広げる……商品を陳列するって意味もあるんだっけな。
「首謀者ってのはいないけど、実際に商品を広げてるのはこいつとそいつ、それからあいつの三名だな。まあ客は俺一人だし、規定通りの税を取って勘弁してやったらどうだい? まだ何も買ってないしね。」
「貴様は? これだけの品物を一人で買おうと言うのか?」
「俺はカース・マーティン。魔王と言えば分かるか? ドナハマナ伯爵とは友人のつもりだしな。全部を買うわけじゃないさ。気に入ったものがあれば、ってとこだな。」
「ま、魔王、殿!? い、言われてみれば確かに……し、しかしいくら魔王殿といえど天下の御定法破りを許すわけには……」
おっ、通じた。しかもこいつ真面目な騎士だ。真面目な人間ならこちらも真っ当に対応せねばなるまい。と言っても私は何も悪くないから関係ないんだけどさ。
「そこは法の通りに対処してくれて構わんよ。売ろうとしたのはこいつらだしね。」
私から買い取りしようとした奴もいるが、そっちはまだ何もしてないしね。
「で、では、実際に何を買われたので?」
「いや、まだ何も買ってない。選び終わってすらないな。」
もう十五分も遅ければ何か買ってたかもね。
「なるほど……承知いたした。ならばそこの三人、売買に関する税は必要ないが、無許可で茣蓙を広げた罰金だけ払ってもらうぞ? 魔王殿に免じて罰金だけで勘弁しておくが、今後ドナハマナ領内で似たようなことをした場合は容赦せんぞ。では一人ずつこちらの馬車に入ってもらおうか」
「そ、そんな……」
「な、なんで……」
「くっ、かしこまりました……」
ついてなかったね。普段から気にせずやってたんだろうなぁ。バレなきゃいいことではあるけど、バレたらそりゃあこうなるわな。でも罰金だけで済んでラッキーだよな。奴隷落ちとかじゃなくてさ。こんな時もし悪徳騎士が相手だったら全財産剥ぎ取られてもおかしくないぜ?
「さて魔王殿、お手間をとらせてしまいましたな。私はドナハマナ騎士団のハンブルグと申す者。魔王殿のことはかつて城門でお見送りしたことがございます。その節はラフォートに巣食う下劣な者どもを改心させてくださり誠に感謝しておりまする」
あー、覚えてる。何年前だっけ? 初めてスペチアーレ男爵のところに行く前に立ち寄ったんだよな。バンダルゴウでエルネスト君の依頼があったついでにさ。
「覚えてるよ。ヤコビニの子供達に契約魔法をかけたんだったかな。少しはましになった?」
「はっ! 魔王殿のおかげをもちまして! グランメル副長も感謝を忘れておりません!」
ん?
「すまん。グランメル副長? どんな男だっけ?」
さすがに個人名を出されても覚えてないぞ……
「ドナハマナ騎士団伯爵親衛隊副長フォーク・ド・グランメルであります! 魔王殿には部下の命を助けてもらったばかりか紫の籠手を下賜されたと聞いております!」
思い出した!
「副長ね。思い出したよ。元気にしてる?」
ドナハマナ伯爵を訪ねた後に宿まで案内してくれた騎士だ。チップに金貨を渡そうとしたら断られたので代わりにムラサキメタリックの籠手を渡したんだよな。かつての父上と同じく副長ってことでも覚えてた気がする。
「ええ。いつも誇らしげに紫の籠手を装備しておられます。剣を振るう際に紫が流れて見えることから紫電騎士などと呼ばれております」
「おー、かっこいいじゃん。やるね。」
あの籠手はそこそこ重いのにさ。それを装備した上でか……やるなぁ。
「タンドリアも大公領となり我らドナハマナ領からもヤコビニめの影響が消え去りつつあります。これも魔王殿のご威光だと我らなどは話しております」
「さすがに言い過ぎだな。じゃあ手間をかけたな。俺らはこのまま北に向かうから。伯爵と副長によろしくな。」
本当に消え去ったかも分からないしね。
「はっ! 旅のご安全をお祈りしております!」
それよりも、早くここを離れないと……尿意が……
くっそぉ……




