361、夜駆け
それから、泥まみれの全員に浄化をかけて夕食タイム。風呂に入りたくはあるが腹もへったしね。あらら、キアラのやつ食べながら寝ちゃったよ。
「カースと過ごせたのがよほど楽しかったと見える。キアラのここまではしゃいだ姿は久しぶりに見た気がするぞ。今回はありがとう。」
「なあに、俺らも楽しかったしな。さてと、しばらく会えなくなることだしキアラを部屋に運ぶとするよ。どこだい?」
「大事なキアラは誰にも任せられん、と言いたいところだがカースが相手ではそうもいかんな。メルロー、部屋まで案内してやってくれ。」
「かしこまりました」
さてキアラをお姫様だっこして……おおー……いつかの記憶よりちゃんと重くなっている。昨日も同じことを思ったけどさ。こんなの何度感じてもいいことだよな。妹の成長がこんなにも嬉しいものだとは……
キアラの重みを感じながらメイドさんの後ろを歩く。すやすやと寝息をたてており、目を覚ます気配は微塵もない。よっぽど疲れたんだろうな。全員を跳ね飛ばすほど動き回ったあげく、縮地を何回連発したことか。こんな小さな体でさ。
「こちらでございます」
「ありがとう。」
ほほう、これがキアラの部屋か。当たり前だが昔の実家よりかなり広い。十二畳、いや十五畳はあるかな? クタナツの旧実家では私もキアラもそれぞれ自室はあったがだいたい三畳ぐらいの広さだったもんな。下級貴族の割に子供にまで個室があるってのは贅沢な話ではあるけどさ。
ふふ、やはりキアラのベッドは天蓋付きか。フランツにどれだけ大事にされてるのか見えるね。ゆっくりとキアラを下ろして、肩まで布団をかける。服を脱がせてやった方がいい気もするが、まあこのままでもいいだろう。
『快眠』
必要があるとは思えないがほんの気持ちってことで軽くかけておいた。これで朝までぐっすり間違いなしだろう。
ん? よく見たらベッドの頭側、ヘッドボードの上は縫いぐるみだらけじゃないか。しかもこれ……うちの家族か。
左から父上、母上、ウリエン兄上にエリザベス姉上。オディ兄に私、そしてキアラ。その隣にはフランツがいてコーちゃんやカムイもいる。アレクもいるしシビルちゃんもいる。あぁ、マリーやベレンガリアさんもいるなぁ。
「キアラ様の手作りです。僭越ながら私も多少お教えしましたが」
「どうりでそっくりなわけだ。すごいねこれ。かなり上手だと思うよ。メイドさんの教え方がよかったのかな。」
確かメルローって呼ばれてたか?
「いえ、キアラ様の覚えがよかったのです。指を何度針で刺そうとも決して諦めずに作り続けておられましたし」
泣かせるじゃないか……きっと魔法なしの手作業で地道に一つ一つ作ったんだろうなぁ……
しかしさすがキアラだ。縫いぐるみに血の汚れは一片たりとも付いてないし、指だって傷ひとつなかった。
「次はおばあちゃんを作るとおっしゃってました。かのゼマティス家のお方だそうで。私も完成を楽しみにしております」
「それはいいね。次にここに来た時にどれだけ増えてるか楽しみにしておく。キアラを頼んだよ。」
「かしこまりましてございます。殿下もキアラ様も、仕えがいのあるお方ですので」
「うん、ありがとう。これはほんの気持ち。みんなで何か食べてよ。」
金貨を一枚。このメイドさんが独り占めしようがみんなで分けようが私は関知しない。キアラの面倒をきっちり見てくれたらそれでいいのだ。
「ありがたく頂戴いたします」
おっと、部屋を出る前に……
『鉄塊』
『点火』
『金操』
高さ十センチに満たない小さな鉄像を二つ。我が家の馬車を引いていた馬のシルビィとペガサスのマルカだ。二匹ともいつの間にかいなくなってたんだよな。たぶん両親がイグドラシルに登るにあたってどこかに預けるか売るかしたんだろうな。
こいつを縫いぐるみの隣に置いておこう。キアラはシルビィのことはあまり覚えてないだろうけど、マルカとは仲良かったもんな。
「お待たせ。寝かせてきたよ。じゃあフランツ、改めてキアラをよろしく頼むな。」
「うむ。任された。魔王と交わした約束だ。決して違えたりはしないさ。それより今そんなことを言うということは、もしや泊まっていかないつもりか? もう外は真っ暗なんだぞ?」
「ああ。悪いな。朝になってまたキアラに泣かれたら困るからさ。出られるうちに出ておくさ。キアラには土産を置いてきたしな。」
その場合私だって決意が鈍るんだもん。いつまでもだらだらと滞在してしまったらどうするんだよ。
「そうか。お前がそう決めたのなら仕方あるまい。南の大陸に行くと言っていたな。あっちでバンダルゴウからの船や人間に会ったらよくしてやってくれ。」
「ああ。会ったらな。」
バンダルゴウから行く場合と王都から行く場合、到着する港は同じなんだったっけな?
「この度は大変お世話になりました。大公殿下がいつまでもご壮健であられますよう。」
「うむ。アレックスも元気でな。カースと一緒にいると気が休まるのか休まらんのか分からんな。」
「いつも心穏やかに過ごさせていただいております。キアラちゃんと一緒におられる時の殿下のように。」
「ははは! ならば間違いないな。うむ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「うむうむ。お前達も元気でな。それにしてもお前達四人だけでも近衞騎士団より精強なのではないか? 頼もしい限りよの。」
戦いようによっては勝てるだろうけどね。真っ向勝負じゃ無理だろ。
「どうだろうな。それじゃあ悪いけどキアラによろしく言っといてくれよ。」
「うむ。帰ってきたらまた顔を出してくれ。必ずだぞ?」
話しながらも中庭に到着。荒れ果てたままだが明日にでもキアラが直すだろう。
ミスリルボードを取り出して、方位の確認。
「おう、たぶんね。じゃ、またな。」
「失礼いたします。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
『浮身』
『風操』
夜空に溶けるように上昇、そして飛行。どこに着陸しようかな。予定よりさほど遅れたわけでもないし、どこに泊まってもいいのだが……




