359、パーティーの終わり
うーん楽しい。音楽がなくても楽しいぞぉ。あー世界が回る。最高だ。だが、楽しいからこそ区切りを付けなければ。こんな様をキアラに見せるわけにはいかないからな。教育に悪いにもほどがある。
『解毒』
まずは自分を……ふぅ。なーんかつまんない。さっきまであんなに楽しかった気分が一気に冷めてしまった感じ? 喉渇いたな。何か冷たいものでも……果実を絞ったやつとかないのかよ。ないのか……仕方ない。水でも飲んでよ。
こいつらを解毒するのかー。なんかだるくなってきたなぁ。でも好き勝手にぶつぶつ喋ってるこいつらを見物するのも飽きたし、仕方ないなぁもう。
『解毒』
「ふむ、佳きひと時であった。カース、粋なはからいを感謝するぞ。お前のダンスも素晴らしいものだったな。」
おお、さすがフランツ。あっさり正気に戻りやがった。むしろさっきまでも正気を失ってたってより流れに身を任せてたって感じ? やるなぁ。
「あぁ……なんてことを……」
エルネスト君は頭を抱えている。きっちり記憶はあるみたいだね。
「よお魔王さん……ありゃあ何だい? ご禁制の薬かい……? めちゃくちゃキマっちまったんだが……」
違うよ。山岳地帯で見つけたもんだからご禁制とか指定すらされてないよ。だいたい薬物は無許可で売買すると奴隷落ちだが個人で楽しむ分には問題ない。
「で、殿下! お加減はいかがですか!?」
護衛は狼狽えてる。
でも全員問題なく元通りになれてよかったね。いくら解毒でお薬成分がすっきりなくなったとしても効いてる間に精神に異常をきたしたら治らないもんね。フェアウェル村のエルフも言ってたよな。こんなの人間が吸ったら一発で廃人だってさ。壊れたはぐれエルフもいたしね。うん、いい教訓になったね。
「ところで殿下、今夜の宿はどうされるご予定でしょうか? もしお決まりでないのでしたらぜひデルヌモンテ家にご宿泊されてはいかがでしょう」
「ふむ、その気持ちはありがたいがすまぬな。今夜は帰らねばならんのだ。宿泊はまたの楽しみとさせてもらおう。」
「えっ、この時間に……あぁ魔王様がご一緒でいらっしゃいましたね。どこへ行き来しようと自由自在というわけで。」
「まあな。もっとも、カースがおらずともキアラがいれば似たようなものだがな。というわけでカース、お前達はどうするのだ? 無理に我らをタンドリーまで送ってくれずとも良いが?」
それなんだよね。実はついさっき思いついたことがあってさ。コーちゃんのせいだぜ? キアラと離れるのは悲しいが、どう見ても今のキアラは私が心配する必要なんかないんだもんなぁ。うちの両親も私に対して同じような気持ちを抱いていたのだろうか? クタナツ城門外に一人で出てもいいと言われたのはいつ頃だったっけ……
最初は家から出てはいけない。次は家の門外に出てはいけない、だったな。思い返してみれば両親から何かをしてはいけないって言われたのってそれぐらい? 勉強しろとも体を鍛えろとも言われたことないしな。あぁ、魔法を教えてもらう際に返事は『押忍』だとは教わったな。オースティン何とか卿に由来するとかさ。
「カース? どうするのだ?」
「お、おお悪い。じゃあここで解散にしようか。ちょっと上流の方に行ってみようと思ってさ。」
「ほう、面白そうだな。ラフォートか?」
城砦都市ラフォートではない。もっと上流だ。
「いや、スペチアーレ男爵のところ。コーちゃんが男爵の酒が飲みたいって言うもんだからさ。」
「おお、カースはかの酒狂貴族の住居を知っているのか。羨ましい話ではないか。」
「でも王家には毎年男爵から酒が届くだろ?」
「ああ、だがそれを口にできる機会はそう多くはない。無限にあるものではないからな。」
そりゃそうだ。特にうちの王家ってあんまり贅沢してるイメージがないんだよな。特に数年前からは金がないだろうし。大変だよなぁ。
一緒に来るか誘ってやりたいが、隠れ住む男爵のところに私達以外の人間を勝手に連れていくわけにもいかないし、フランツも用があるから帰るって言ってるんだろうしね。支配者って自由がないよねぇ。大変なんだろうねぇ。でもキアラがいるから大丈夫だよな。よくできた妹だぜ。
「男爵に余裕があったらタンドリア大公にも送るよう言っとくわ。」
「ありがたい。余裕があればで構わぬからな。」
フランツから多少のプレッシャーは感じるが、そんなの私の知ったことではない。私はただ伝えるだけだ。まあ男爵にしてみれば要衝の新たな支配者には挨拶しておきたいだろうしね。
「ただいまーー!」
「帰ったわ。」
「ガウガウ」
おっ、みんな帰ってきたね。うん、どう見ても無事だな。分かっていたとも。
そろそろ夕方か。腹はへってないし、このまま解散かな。次にキアラに会えるのはいつになるんだろうか……




