358、酒池粉林
フランツはそれなりにランディと話が弾んでいるようだ。ランディの方としては戦々恐々のようだが。
「エルネスト君、いい感じに貴族らしくなってるね。以前会った時とは別人みたいだよ。何かあったの?」
「いえ、何かあったというほどのことは……ただ、魔王様が見本を示してくださった時のようにやる時は徹底的にやるようになりました。先ほどは殿下のお飲み物に血が入ってはいけないと思ったため蹴るだけにとどめておきました」
「おおーやるね。じゃあエルネスト君も飲もうか。殿下と杯を交わすのもいいもんだと思うよ。」
知らんけど。ほれほれ、注いでやるよ。私の酒が飲めんのか? んんー?
「で、では一杯だけ……」
これはパワハラになるんだろうか? 私の方が身分はかなり下なのだが。
「イボンヌちゃんはどう?」
「いえ、結構です」
だろうね。一応聞いただけだよ。
「おっとエルネスト君、乾杯。」
「か、乾杯」
木製のタンブラーが鈍い音を立てる。王都で買ったばかりのガラスのタンブラーで飲みたいところではあるが、さすがに嫌味だからな。
うん。旨い。樽によるのかな? 味にバラつきはあるみたいだが、まあいいや。まずくなければ合格だよな。
「ピュイピュイ」
スペチアーレ男爵の酒が飲みたいって? ごめんよコーちゃん、それはないんだよ……代わりに……
「おーいランディの兄貴。ここで一番いい酒を出してくんない? うちのコーちゃんが飲みたいんだってさ。」
それで勘弁しておくれコーちゃん。
「ランディって呼んでくれよ……それがアムレティアだよ……大公殿下にお出ししてるんだからさ……」
「そりゃそうか。なら仕方ないな。飲んでるかーフランツ?」
「うむ。悪くない味だ。カースこそ飲んでいるのか?」
「おう。ようやくエルネスト君にも飲ませたところだ。ほれ、乾杯!」
「うむ。バンダルゴウに乾杯だ。」
「で、殿下の治世に乾杯」
「魔王さんにも乾杯……」
「ピュンピュイ」
こんな状況でもイボンヌちゃんはエルネスト君の隣でマイペースに何やら飲んでいる。
三十分ぐらい経っただろうか。奇妙な状況になってしまった。
「だからぁ……カース君はどうしてそんなにすごいんだよぉ……ちくしょお……どうせどうせ僕なんかぁ……」
エルネスト君がめちゃくちゃ酔ってるんだよなぁ……酔い始めはたしなめようとしたイボンヌちゃんだったが、途中で諦めたらしく黙り込んでしまった。
仕方ないなぁ。こんな時は……
「さあエルネスト君、もっと飲んで。たっぷり飲んで思いの丈を全部吐き出してしまおうよ。鬱憤がたくさん溜まってそうに見えるしね。」
「飲むともぉ……げっふぅ……僕は代官の器なんかじゃないのに……でも僕がやるしかなくて……そりゃあ僕はデュボア家を継げない身だったからさ……デルヌモンテの義両親に可愛がってもらえたのは幸運だったし……ぐびっ……」
「うんうん。はい次いこう。」
どんどん飲ませてやる。だって面白いから。エルネスト君ほど魔力があれば急アルなんかで死ぬことなどないしね。思い出すねぇ。あれは初等学校三年の秋だったか。秋の大会の学校代表を決める時、我らが三年生の魔法部門からはエルネスト君が出場したんだよな。アレクに勝ってさ。剣術部門はもちろんスティード君だったけどさ。今のエルネスト君の魔力はアレクの半分ぐらいしかないけど、それって世間的にはかなり多い方だしね。上級貴族の面目躍如ってとこかな?
「うぷぅ……王都の動乱ではパスカルを救ってくれたし……ラフォートではヤコビニの子供達を駆除してくれたし……」
ひでぇぞエルネスト君。ヤコビニの子供達を人間扱いしてねぇ。確かにあいつらはクズだったけど。
「さあさあもっと飲んで。」
私ももう少し飲もう。めちゃくちゃ美味いわけじゃないからそこまで飲む気にはなれないけどさ。
「ヒイズルは征服してくるし最近だとアレクサンドル領で大暴れしたとも聞いたし……あそこって公爵領だよ!? 超名門貴族だよ!? なんでカース君まだ生きてられるの!? 意味分かんないよ! すごすぎるよ!」
「何でだろうねぇ? ほら、もっと飲んで。飲んでー飲んで飲んでー飲んで飲んでー飲んで、飲んで?」
コールで盛り上げてやるぜ。フランツも飲んでるし。
「ういっ、ぐふっ……先王様にも国王陛下にも可愛がられてるそうだしフランツウッド殿下とも対等な関係みたいだし……意味が分からないにも程があるよ! カース君は平民で僕は上級貴族なのに!? 爵位って何なの!? 身分って何なんだよぉーー!」
おもしろ……なんだか世の中の真理に到達しそうじゃない?
「爵位に身分か……カースを見ているとそんなものに頼る我らが虚しくなることもある。キアラに相応しい男になるべく大公という地位を欲し、そして手に入れたが……私のしたことは単に平地に乱を起こしただけなのではないかと思ったりもな……」
二人ともどうした……でも面白い。もっと飲ませよう。
「ちくしょお魔王さんよぉ! いっつもいっつもオレのことからかって兄貴兄貴ってよぉ! あんたほどの男に兄貴兄貴ぃ言われるオレの気持ちが分かるのかよぉ! しまいには大公殿下からも兄貴って言われたしよぉ! 座ってるだけなのに足の震えが止まらねぇよ! 足だけじゃねぇ! 手も肩も! 震えまくってんだよぉおおお!」
ランディまで壊れた。やっべ、超楽しい。もっと飲ませよう。あとコーちゃんの燻製芋虫も出しておこう。こいつをさらに『乾燥』させて粉々にして……酒に少量ずつ混ぜてっと……ふふっ、面白くなりそうだ。
「ほれ、護衛は大変だろ。だいたいフランツに護衛なんて意味ないのにな。これでも飲んで元気出しな。」
「ふえぇ?」
護衛は護衛でとっくに酔ってるみたいなんだよな。フランツに飲まされてたから。
「ぐいっといけぐいっと。」
「え、ええ……んぐっんぐっ……はふぅ……なんですかこれ……めちゃくちゃうまいんですけど……感覚が剥き出しになっちゃって……全身で酒を味わうみたぁい……いひひひひひひひひひひひひ!」
おおー。やっぱ効くんだな。この護衛もそこそこ魔力高いのにさ。どれ、私も飲もう。あ、これ美味い。これはヤバいね。みんなでナイストリップするかも。こんな様はキアラには見せられないよなぁ……キアラが帰ってくる前に解毒してやろう。楽しい時間が終わってしまうのは残念だが。
「だからぁーーカース君たらさぁーー聞いてるのぉーー!? 対岸のヴァルプラージュの領主になってくれてもよくなぁーい!?」
「キアラの笑顔は何ものにも代え難い輝きを放っていてな! 分かるだろうカース! あの無邪気な微笑みがな! なあカースそうだろう! 純真無垢という言葉はキアラのためにあるのではないか!? きっとそうに違いない! そうだなカース!」
「魔王さんさぁーいきなりこんな場所に大公殿下みてぇな天上人をお連れするんじゃねぇーよ! 分かってんのかぁーい!? オレらぁ平民も平民ド平民だぜぇー!? マジ目が潰れるかと思ったぞぉ!? 王族だぞ!? お貴族様の遥か上だぞぉ!? どうすりゃいいんだよぉ!」
「魔王様! あなた分かっておられるのですか!? 殿下は魔王様と一緒におられる時それはもう楽しそうにしておいでなのですよ!? 幼少期より王族として厳しく教育されてきた殿下だからこそ! 魔王様のように礼儀を気にせず付き合える相手は貴重なんだと思うのですよ! ありがとうございますありがとうございます!」
全員誰の話も聞いてない。各自が好き勝手に喋りまくってる。よって誰が何て言ってるのか全然分からん。どいつもこいつも楽しそうに喋ってんなぁ。私も楽しくなってきちゃったよ。ふふふ、飲もう飲もう。そして一人でツイスト踊ろっかなー。うーんハッピーだぜ。いくぜツイストナンバーワン!




