312、近衛学院生ミシェリシャール・ド・バルテレモン
外に出てみればカムイを取り囲む人々の群れ。そんなに珍しいか? 珍しいよなぁ。魔境ですら珍しい純白のフェンリル狼だもんなぁ。しかもこの美しい毛並みときたら。天女の羽衣どころじゃなくない?
「悪いな、どいてくれるか。」
「んあぁ? やめとけって。近寄るとえらく唸るんだよ」
「なぜか袖が切れるしさ」
「騎士団を呼んだ方がいいんじゃないか?」
「でも首輪してるし……」
それはお前らが無遠慮に近寄るからだろ。ちゃんと声をかけて食事を用意すればカムイは触ることぐらい許してくれるだろうに。
「ガウガウ」
遅いって? これでも早い方だと思うんだけどなぁ。ほれ、食え。味付けなしの厚めのレアステーキ。何の肉だろ?
「ガウガウ」
はは、そこそこ旨いのに味が薄い? おっと、悪い悪い。いつものあれを忘れてたな。
『魔力放出』
コーちゃんとカムイが食う飯には私かアレクが魔力を込めるのが習慣だもんな。
「ガウガウ」
まだ薄いって? このやろ。贅沢になりやがって。後でな。
「お、おお……あの獰猛な狼が喜んで食べてるじゃないか」
「もしかして飼い主?」
「だ、だが、あんなにも獰猛そうな狼を飼えるものなのか?」
飼ってるわけではないんだよな。カムイの中で私は友達みたいだし。
「この子はうちの子だよ。食べ物を渡すぶんには噛んだりはしないさ。見ての通り肉が好物だぜ?」
ご飯に味噌汁をかけたやつも好きだけどね。
「ガウガウ」
もうお代わりか。早ぇーよ。
「こ、これあげていいかな?」
「いいよ。食べるかどうかはこいつが判断するけどな。」
干し肉か。辛く味付けてあるやつだとカムイは食わないが……
「ガウガウ」
「食べるからそこに置いてくれ、だってさ。」
さすがはカムイの鼻。匂いでバッチリ判断できるわけね。空になった皿に干し肉がいくつか置かれる。
「ガウガウ」
「まずくはない、二回撫でていいってよ。」
「そ、そう? 二回?」
カムイにしては優しいのか? 子供相手には無制限に触らせていたようだが。
「お、うおお……なんて滑らかな毛並みなんだ……すげえよ……」
ふふふ、そうだろうそうだろう。カムイの毛並みはシルクどころじゃないからな。
「ガウガウ」
喉が渇いたって? 『水壁』『水滴』
水壁で器を作ってそこに水を注ぐ。これでいいだろ?
「これ、食べるかな?」
おっ腸詰め、ソーセージか。
「ガウガウ」
「そこに置いてくれってさ。」
意外とみんなカムイが食べやすいもんを持ってんだね。
「ガウガウ」
「少し辛い。でも一回だけ撫でていいってさ。」
そりゃあ味付けしてあるわな。
「ふおおぉぉ……なんだこの手触りは……」
さて、この感じなら私はいなくても大丈夫かな。
「普通に話しかけるといい。ちゃんと返事はするからさ。俺は店の中にいるからさ。」
「お、おお……」
この分ならお代わりもなくていいだろ。足りなかったら店に入ってこいよ、な?
「ガウガウ」
よし。店に戻ろう。私だって腹へってんだよ。カムイに限って誘拐なんかされないだろうし。
「よし! じゃあこれだ!」
「私だって! このパン固いけど美味しいんだから!」
「これ! これも食べてみてくれよ!」
おおー殺到してるね。カムイ大人気。
店のカウンターに戻ってみると、アレクがさっきの男と仲良さそうに飲み食いしてるじゃないか。シャルって言ったか。女慣れしてそうな雰囲気があったな。近衞学院生ってのはそんなもんなんだろうか?
「カースおかえり。カムイのご機嫌はどうだった?」
「お待たせ。カムイは人気者になってたよ。みんなが食べ物をくれてさ。」
「いやあ参ったよ魔王さん。アレクサンドリーネ様の隙のなさと言ったら近衞騎士の先輩達以上だよ。危うく手が氷漬けになるところだった」
ほぉー。こいつやるじゃん。無傷か。不用意にアレクに触れたために手を凍らされる男は多いってのに。
「さすがは近衞騎士の卵ね。魔法の起こりに敏感だったわ。」
「いやぁ、僕らの仮想敵は宮廷魔導士の方々だからね。魔法は撃たせないに越したことはないのさ。もっとも、それができれば苦労しないんだけどね」
「へー。やるもんだね。」
魔法の起こり……魔力を練り始める瞬間を見極めてるわけか。やっぱ近衞騎士の卵ってやるもんだなぁ……
それはそうと私も食べよう。おっ、うまい。具沢山のガーリックトーストって感じ? ただの摘みってだけじゃない。この手の店にしてはすごいんじゃない? そして酒も旨い。踊ってない時はやたらうるさく感じるのが問題だが……
ふぅ。うまかった。腹五分ってところかな。まだまだ踊りたいからね。今夜はフィーバーするぜ。
「さあ魔王さん、腹具合はいいよね? ひと勝負といこうじゃないか?」
んん? いきなりどうした?




