311、オーバータイム
激しく踊りながらもスティード君は話してくれた。
休日ごとに魔法をセルジュ君、座学をサンドラちゃんに教わっていることを。と言っても魔法ってよりは魔力を増やす特訓って感じらしい。そりゃあ近衞騎士なんだもんな。使える魔法の種類を増やすより魔力を高めて飛斬や身体強化をガンガン使えた方が強いよな。
学校では放課後などというものはなく、朝から日暮れまで授業がみっちり。
同級生達もあれこれと手助けしてはくれるが彼らも彼らで手いっぱい。だから週末の日曜、じゃなかったパイロの日はサンドラちゃんもセルジュ君も付き合ってくれると。
それなら私も何かできることがあるといいが……苦手なんだよなぁ、教えるのって。
「難しいこと考えるのはやめようよ。今日は楽しく飲んで踊ろうよ。せっかくテストが終わったんだしさ?」
楽しみに来てるんだから楽しもうぜ?
「そうだね! こうやって体を動かすのも剣術に通じるところがあって面白いもんね!」
ワルツ的なダンスと剣術……共通点は……分からん! 体幹を鍛えておけば重心がブレなくていい、とか? 私はツイストだけど。体幹が強くなるかな?
「カース! 私とも踊ってよ!」
アレクが抱きついてきた。よし、ここから私もワルツでいこう。
「もちろんだよ。」
「カース君とアレックスちゃんは相変わらず仲良しだね!」
「もちろんだよ。色んな所に行ったけど常に一緒だったしね。」
イグドラシルの頂上や迷宮の奥。色々行ったよなぁ。
「いいねえ! カース君達って明日は暇? よかったら今夜はうちに泊まらない?」
おっ、スティード君ちかぁ。風呂はあったっけ? 確か三人で住んでる借家だったよな。
「じゃあせっかくだからお邪魔しようかな。ねっ、アレク?」
「ええ。サンドラちゃんやセルジュ君にも会いたいものね。」
「よし決まり! うちはここから遠いけどまあ気にせず踊ろうよ!」
あれ? スティード君の手にいつの間にか酒が? どこから!? あっ、あれか。トレーに酒を乗せて歩き回ってる女の子がいるではないか。この店はいちいちカウンターに貰いにいかなくていいってことだな。よく見れば他の客達も手に酒をらしき杯を持っている。踊りにくそうだが……あぁ! 飲み終わったら適当に返せばいいのか。投げ捨ててる奴もいるけど……
どれどれ私も……「貰うよ。」「はいどーぞ」
杯が木製だから中身は見えないが……さて、これは……エールか。まっず……ぬるいし苦いし、酔うためオンリーって感じ? こんなのとてもアレクには飲ませられないぞ。
「スティード君、僕らちょっとあっちに行ってるね。」
「うん。早く戻ってきてね!」
それにしてもスティード君達って腹へってないのかな? 全員が全員とも私よりかなりいい体格してるし、さぞかし大食いな気がするんだけど。
「カース、どうしたの?」
「お腹すいちゃってさ。何か食べない? あと、あの酒まずかったし。」
「それがいいわね。私もお腹すいちゃった。」
それに私は昼寝したからいいけどアレクは起きてたはずだしね。私より疲れてると思うんだよな。さて、何を頼もうか……
「よう。料理を三人前頼むよ。それから酒だけど何かいいのはないのか? スペチアーレがあると嬉しいんだが。三杯な。」
「あいよ。お任せでいいのかい? さすがにスペチアーレはないけどセンクウ親方のならあるよ。一杯金貨一枚前払いだけどいいかい?」
そういやさっきの酒は金払ってないな。後払いなのかな?
「ああ。それでいい。それとは別に肉料理を大盛りで頼む。ここの外で腹を空かせた狼が待ってるもんでな。味付けなし、大きい肉を軽く焼いてくれたらいい。」
「ああー、あれはあんたの……毛皮があまりにもきれいだってんで噂になってるよ。もっとも誰も近寄れないみたいだけどね」
「無体な真似さえしなければ噛み殺されることもないさ。ああ見えて大人しくてかわいい狼ちゃんなんだぜ?」
「そうかい……ほい、先に酒ね。ラウート・フェスタイバルの新酒ね」
「おう。ありがとよ。じゃ、アレク。乾杯。」
「スティード君との再会に、乾杯。」
「ピュンピュイ」
うーん、やっぱ親方の酒は旨いな。洗練された上品さって言うのかな。これで新酒とはねぇ。やっぱスペチアーレ男爵の師匠だけあるわ。
そういや昼に新酒オルドビってのを飲んだな。さすがにまだ出回ってないよね。
「美味しいわね。こんなに美味しいと際限なく飲んでしまいそうだわ。」
ふふ、また酔ったアレクが見れるかな?
「ピュイピュイ」
コーちゃんもそうだと言っているが、そもそもコーちゃんって飲もうと思えばいくらでも飲むよね!?
「やあ魔王さん。もう踊るのはやめてしまったのかい?」
おや、スティード君の同級生の一人か。体はごっついけどイケメンだな。
「先に腹ごしらえだね。夜は長いしさ。君らは食べないの?」
さっきまでアレクを囲んで踊ってたようだが。
「あっはっは。アレクサンドリーネ様ほどの女性を目の当たりにしてしまったんだ。食欲なんか消し飛んでしまうに決まってるよ。なのに早々に引っ込んでしまうなんて罪なお方だね」
「悪いね。昼から色々あってアレクも疲れてるもんでさ。でも、食べたらまた踊るだろうよ。」
「あら、私は疲れてなんかいないわ。ただカースの隣にいたいだけよ?」
分かってるよ。彼に気を使ってあげただけだよ。でもアレクったらそんな私のことも分かった上でそう言ってるんだろうなぁ。悪い子だ。
「いやぁスティードから聞いた以上に仲睦まじい様子だね。いやいや、羨ましいよ」
「でも君らだって婚約者ぐらいいるんだよね?」
家柄は伯爵家以上だって聞いたぞ。
「ああ、そりゃあもちろんいるにはいるんだけど、ねえ? アレクサンドリーネ様を見てしまうとさ、ねえ?」
あー……そりゃそうか。同年代でアレクより美しい女の子なんているわけないもんな。うんうん仕方ないね。諦めてもらうしかないね。
「そいつは悪いことをしたね。ああそうだ。言い忘れたけど今夜は奢るよ。好きなだけ飲み食いしてよ。」
入場料はすでに払った後だからそれ以外をね。
「おや、気前がいいところもスティードから聞いている通りだね。ならば遠慮なくご馳走になるとするよ。おっと、申し遅れたね。僕はバルテレモン伯爵家のミシェリシャール。みんなからはシャルと呼ばれてる。よかったら魔王さんもそう呼んで欲しいな」
バルテレモン家だと!? 聖白絶神教団の偽聖女、フランソワーズ・ド・バルテレモンの親戚か?
「あ、ああ。ならシャル君と呼ばせてもらうよ。おっと、料理ができたみたいだ。ここを頼むよ。」
アレクをこんな所において行くのは本位ではないがコーちゃんがいるから大丈夫だろう。私は大皿の料理を持って外へ。カムイが待ってるからな。
「早く帰ってきてね?」
「うん。」
むっ? 今のアレクの妖艶な笑みは……
早く帰ってこないとそこらの男と踊ってしまうわよ? って感じ? アレクって時々悪女モードになるんだよなぁ……つくづく悪い子だぜ。




