306、悪あがき
思うにこの『判別』の魔法って法的な所有権がどうとかってのじゃなくて、直近まで持ってた奴を判別するって感じなんだろうね。魔力庫や懐に入れて染み付いた本人の魔力に反応する的なさ。
「この偽金貨、持ち主はあなたね。数える振りしてすり替えたのね。さて、この始末どう付ける気? さっさと騎士団を呼ぶべきかしら?」
すり替え? 魔力は感じなかったから換装や魔力庫を利用したわけではない。ならば手品的な手法か。私はともかくアレクやローレンの目の前でバレずにすり替えを成功させるとは、なかなかやるじゃん。
だが持ち主を見つけられる『判別』の魔法の使い手がいることまでは読めなかったようだな。あれはそれなりに難しい魔法だって母上も言ってたし。
「ふざけるな! 何を証拠にそのような世迷言を! わしがすり替えなどするはずがない! 初めから贋金だったに違いないんだ! 何が判別だ! そのような魔法など聞いたこともないわ!」
「聞いたことがないのはあなたが無知だからよ? まあ商人ごときじゃあ知らなくても仕方ないわね。宮廷魔導士でも呼んで教えてもらうといいわ。」
はは、無茶言うねぇ。いくら大店でも商人に呼びつけられて来るような宮廷魔導士なんていないよね。アレクったら分かってるくせに。
「お前、何者だ! ローレンの秘書にしては派手すぎるかと思えば……名を名乗れ!」
「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル。ただし分家の方よ。あなたがその偽金貨をどこから手に入れたか、すごく興味深いわ。面白いこともあるものね?」
言われてみればタイムリーだよな。ガストンの部下か仲間が王都でもばら撒いたっぽいもんな。だからこいつの手元にあっても不思議ではないんだけどさ。
「あ、アレクサンドル家……こ、これは大変失礼いたしました……で、ですがあなた様の魔法が正しいという保証は……」
「あら、そんなの簡単だわ。私とあなたの二人で魔法尋問を受ければいいのよ。どちらが嘘をついているか、簡単にはっきりするわね。じゃあ、早速行きましょうか? こんな時間だけど私が言えば宮廷魔導士長のマナドーラ様が直々に対応してくださるでしょうね。」
前の国王の代の重要ポストにいた者はほとんどが退役したのに、マナドーラだけは退役できなかったんだよな。めちゃくちゃ引き止められたらしくてさ。宰相すら辞めてしまうわけだから、せめて一人ぐらい重臣が残ってくれないとあれこれ不便なのが理由って聞いたぞ。ポストを空けることより業務のスムーズさを重視するとは王国の未来は明るいのかねぇ。
「なっ、き、宮廷魔導士長だと……」
これってアレクのはったりなんだけどね。さすがにこいつでは判別できまい。いくら豪商でも平民が宮廷魔導士と喋ることなんて普通ないからな。
「ええ。魔法尋問はそりゃあ苦しいそうだけど、案外マナドーラ様ならささっとやってくださるかも知れないわ。さあ、行くわよ。」
そう言ってソファーから立つアレク。しかし丸オーク野郎は立たない。いや立てないのか?
「えっ、え?」
ローレンは話に付いてこれてないのか? お前のためにアレクがはったりかましてくれてるんだぞ? 完全なる大嘘でもないけどさ。
「あら、どうしたの? 行かないのかしら? それとも、立てない? 目論見が外れて残念だったりするのかしら?」
アレクったら煽るねぇ。この手の野郎がやることってワンパターンだからさっさと次のことをさせようとしていると見た。あ、ほら。手をポケットに入れた。どうせ呼び鈴の魔道具だろ。その太い体だと座ったままポケットに手を入れるだけでもひと苦労なんじゃない?
「今夜はもう遅いことですし、込み入った話は明日にして夕食にしようではありませんか。幸い今夜は名店ハスコーリ・ダ・レイサから料理人を呼んでおります。どうぞ食べていかれてください」
思いっきり話を変えやがった。予想と違うな。だが、そんなのに乗るわけないだろ。
「判別が使えるのは手元を離れてから十分、長くても十五分。時間を稼いで証拠を消そうとしているのなら無駄なことだわ。私の口を塞がない限り意味がないわよ? 私は女、思ったことはすぐ口にするの。」
おお、よく分からないけどアレクがかっこいい。ん? 足音が……
「タイタス様! いかがなされました!」
「タイタス様!」
「タイタス様!」
おーおー。ぞろぞろとガラの悪い奴らが入ってきたじゃないの。一時はどうなることかと思ったが、やはりパターン通りでよかったよかった。
「さて、アレクサンドル家のお嬢様? もう一度言っていただけますかな? うちの楽しい夕食会に参加する、そういうお話だったかと思いますが。違いますかな?」
露骨に脅してきやがったなぁ。ローレンの肩が震えてるじゃないの。こいつ後ろに私がいることを忘れてんだろ。
「脅すのは自由だけど私に傷を付けるのはおすすめしないわよ? 数日前にアレクサンドリアで何があったか知らないようだし。試してみてもいいわよ?」
「一応言っておくが、アレクサンドリーネお嬢様に指一本でも触れたら殺す。わずかでも血が流れたらこの建物は更地にする。」
ここに来てから初めて喋った気がする。黙ったままこいつらの暴挙を誘発させてもよかったし、むしろアレクはそれが狙いみたいだけどさ。それは私が許せないからね。先にきちんと警告しておかないとね。
「ぐははははあ!」
「何か言ってんぞあいつ!」
「げはははっ!」
「ふふん、世間知らずの貴族令嬢に魔力も感じない小童護衛の分際で。まさかお前達ここから生きて出られるとでも思っているのか? 散々大きな口を叩いてくれたがここらで身の程を知った方がいい。ローレン、お前は違うよな? お前はわしが見込んだ有能な商人だ。このような者どもと命運をともにする必要はない。今後もわしとはいい関係でいたいだろう?」
はいアウトー。私だけでなくアレクまで殺すと宣言しちゃったね。せっかく警告したのに。




