299、川渡り
商人や旅人の話し合いをぼーっと眺めていたらコーちゃん達が帰ってきた。おや? 子連れ? 十歳ぐらいの兄と七歳ぐらいの妹か?
「ピュイピュイ」
あらま、そうなの? カムイぃーお前何やってんだよぉ……よその子を連れてきちゃだめだろ。まあ子供らがカムイの毛並みをなでなでして気に入って勝手に付いてきたって話だけど。それぐらい振り切れるくせに……
「こんな所まで来て大丈夫か? ちゃんと帰れる?」
「にいちゃんの犬?」
「犬じゃなくて狼だけどな。で、どうなんだ? 帰れないってんなら送ってくぞ。」
面倒だがこんな小さな二人を放置できんわな。子供にしては荷物が多いのが気になるが。
「いい、ここにいる」
って言われてもなぁ……
カムイの毛並みがいい感じだから手を離せないのは分からんでもないが。妹なんかさっきからなでなでしっぱなしじゃん。カムイも我慢強くなったもんだ。
「お父さんかお母さんは? 心配してると思うぞ。帰らなくていいのか?」
「……べつに……」
いらっ……私は大人気ないからな。いらついてまで子供の相手をしようなどと思わない。蔓喰のヨーコちゃんみたいに素直な子供ならいくらでも助けてあげるのだが、かわいくないガキを助ける気はゼロだ。カムイを撫でるのはまあ黙認してやるさ。カムイが拒絶してないからね。
さて、話し合いの結果はどうなったかな?
「決まったか?」
「本当にいいんだろうな? うちが相場の十倍で決まったんだが……」
「いいぞ。馬車何台だい?」
十倍も出すぐらいなら待ってた方がよさそうなのに。まあ急ぐ事情があるんだろうな。
「八台だ。今すぐ運んでもらえるんだな? そして払うのは対岸に着いてからだが、いいか?」
「いいぞ。じゃ、行こうか。」
「あ、ああ、こっちだ。」
馬車二台のやつが急いでるとか言ってたけど、急いでるのはみんな同じか。
私達が移動すると子供らも付いてくる。迷子になっても知らんぞ?
「この八台だ。人は二十人いる。どうするんだ?」
八人は乗れそうな大きめの馬車にそれぞれ馬が二頭ずつか。問題ないな。
『氷壁』
「これに乗せてくれ。移動時間は一分ぐらいだからその間だけ馬が暴れないようにしておいてくれ。」
さすがに全部眠らせるのは面倒だからな。
「まっ、待て! これを船代わりにするというのか!? 確かに氷は浮くと聞いたことがあるが! あまりにも無茶だろう! もし馬や馬車が流されでもしたらうちは破滅だ!」
「一分だと言っただろ。飛んで行くんだよ。それともやめとくか? いくら後払いでも全財産が流されたら終わりだもんな。」
気持ちは分からんでもない。初対面の私に全財産を預けるような真似はなかなかできるもんじゃないもんな。
「そ、それなら私らを頼む! なあ! いいだろう! 同額を払うから!」
おっと、さっきの馬車二台の兄さんか。私はどっちでもいい。それにしても馬車の数が違うのに同額とは……かなり高くつくね。
「あんたが決めていいぞ。乗らないならあっちを乗せる。」
さあ、どうする?
「くっ……あれを運んだ後にもう一度運んでもらうことは無理なのか!?」
「無理だな。そこまで魔力が持つと思うか?」
持つけどね。一度運んでしまったら次から次へと頼まれるのが目に見えてる。だから一度しかやらないし、こっちへ戻ってくる気もない。
だから他人を先に行かせて安全を確かめようなんて舐めた考えはやめるんだな。先駆者が利益を得るのは当然だろうさ。
「くっ……今回は諦めるが、見せてもらうぞ! どれほどのものかをな!」
「よし! じゃ、じゃあ私らを運んでくれるんだな! 馬車はこっちだ!」
「分かった。行こうか。」
子供らがまだ付いてくるんだけど……親は何してんだ? マジで迷子になっても知らんぞ? しかも川沿いの街って誘拐されやすいし。子供だけで歩かせるなよ……
「これだ! 大丈夫だよな!?」
「ああ、問題ない。では報酬を確認しておこう。馬車一台の相場は銀貨一枚だったか。そこに人間が……五人だとやはり銀貨一枚か。よって相場通りなら銀貨三枚だけど十倍だから金貨三枚。もちろん払えるよな?」
「え? いいのか!? 先ほどの商隊と同じ額を出す気だったんだが……」
「ああ。こちらは別にどうでもいいのさ。ただ向こう側へ渡るついでの小遣い稼ぎだからな。じゃ、これに馬車を乗せてくれ。」
こんな格安で請け負ったことが知れたらますます集まりそうな気がするな。十倍でも格安だよな?
『氷壁』
「こ、これに、だな……よし……」
おっさんは御者に指示を出す。馬車はゆっくりと氷壁へ乗る。ちなみに端っこはスロープにしてある親切設計だ。
よし。では行こう。子供らともここでお別れだ。カムイのつやつや毛並みも充分堪能しただろう?
「じゃあな。ちゃんと帰るんだぞ。」
「……やだ……」
は? 何言ってんだこのガキ?




