295、パンタローネ商会のシューセッツ
そもそもこいつら服を拾うのが先だろ。御者に文句なんか言ってないでさ。馬車が数台ほど止まって待っててくれてたんだぞ? 散乱した服を踏んだら悪いってさ。それってかなり幸運だからな? 普通なら気にもせずに踏みつけて通るだろうに。たまたまお人好しな通行人が多いらしいな。私も含めて。
何人かの御者が私に軽く頭を下げて通り過ぎていった。やっぱ見てる者は見てるよね。
「その足どけろ。そしてさっさと消えろ。荷造りする間ぐらい待ってやる。」
「先ほどから無礼な口ばかりききおって……わしの名を聞いても偉そうな態度をとれるか?」
「あと三十秒。」
服しかないんだからさ。荷造りなんて一分あればできるだろ。
「この若造っ! 私達は王都でもその名が知れてるパンタローネ商会の者よ! こちらは番頭のシューセッツさんなのよ! あんまりガタガタ言ってると王都に出入りできなくしてやるわよ!」
知らねーよ……
「アレク、知ってる?」
あと二十秒。
「確か……カースが私に紫の服を買ってくれた店じゃないかしら? 趣味の悪いギラギラが印象的だったわ。」
思い出した。そういや行ったな。確かミニスカートと紫ラメのキャミソール、それから薄い革ジャンを買った気がする。アーニャに貸してたんだよな……今となってはアーニャもろとも……
「思い出したよ。そんな店もあったね。」
アレクに敢えて下品で趣味の悪い服を着てもらったんだよな。そんな店が白いドレスを大量に仕入れるのはどうしたことか。どうでもいいね。
「あと十秒。その足をどけて去らないってんなら、片耳をもらう。人の話が聞けない耳なんてなくても同じだからな。」
「ふん、所詮は世間知らずの若造か。流行遅れの服装、どうせどこぞの魔王とやらを気取っておるのだろう? 貴様のような若造を何人見てきたことか。くくく……」
気取ってるんじゃなくて本人なんだけどね。分からないもんかなぁ……
私に気づかないのは仕方ないとしても、アレクの上級貴族オーラを感じ取れないのは王都の商人失格だな。では時間だ。
『風斬』
「危ない!」
おおー。やるじゃん。後ろにいた護衛がとっさに盾で防いだ。さっきまで手ぶらだったくせに、いい反応するじゃん。
「お前らも大変だな。話の通じない雇い主でさ。お抱えじゃないんだろ? だったら命まで懸けることはないと思うぞ。五秒待つからやるか退くか決めろ。」
商会の者が二人に護衛が二人。どちらもそれなりに腕が立ちそうだ。王都の六等星かな?
こいつらまで殺す気はない。そもそも商会のデブ番頭だって殺す気はないんだよ。いくら何でも気に入らないって理由だけで見ず知らずの人間を殺したりはしないさ。街道だし、結構見られてるし。
「ぐっ……」
「くぅ……」
へぇ。さすがに冒険者は違うね。格の違いが分かるのかな。単にアレクの身分に気づいただけって線もあるけど。
それでも逃げないってのは偉いね。いや、逃げられないだけかな? 辛いね。
『風連弾』
毎秒五十発。一発一発は一流アスリートの本気デコピン程度の威力でしかない。だからきっちり防御できれば無傷で終わるだろう。
できるなら……な?
「があああああぁぃああ!」
「ぃぎいいいあぁあぁあ!」
全身くまなく防御なんてできるわけないよな。首の後ろや耳の裏、脇の下や爪先まで。ダメージは少ないだろうが痛いものは痛いよなぁ。
『浮身』
倒れた冒険者は道の端に寄せておく。
「まだやるか? あいつらは剣を抜いてなかったからな。殺す気はない。だが立ち上がるならもう一度同じことをするだけだ。」
「くっ……何という役立たずどもよ……おい若造! いくら欲しい! 言え!」
「パンタローネ商会番頭のシューセッツさんがお前をお認めになったんだよ! そんな役立たずどもなんかよりアンタを護衛にしてくれるってさ!」
バカかこいつら……
『風斬』
予定変更。二人の両耳を斬り落とした。いいポーションか普通の治癒魔法使いなら簡単に繋げるけどな。
「ごごっああぃいいいいいいひぃぃーー!」
「いきゃあぁぁあーー!」
やれやれ。やっと足を下ろしやがったか。
「おい御者さん。起きていいぞ。」
「へ……へぇ……こ、これは!?」
『浄化』
『浮身』
御者をきれいにして馬車を起こした。
「こいつらから運賃は貰ってるかい?」
「い、いえ……着いてからの約束で……」
あらー、だからここまで身を低くしてたのかねぇ。嫌なら降りろ! が言えなかったわけね。あーやだやだ。モンスター客ってやだねぇ。
『金操』
懐にある金目のもの……これか。財布ゲット。へー、生意気に魔力庫タイプの財布じゃん。構造は昭和日本のガマ口に近い。でもデザインは赤黒のチェック柄、プリンセス・オブ・ローランドチェックかよ。いい歳こいたおっさんのくせに。
どれどれ中身は……ちっ、だめか。本人以外取り出せないタイプね。
「御者さん、約束の運賃はいくらだった?」
「へ、へえ……金貨二枚と銀貨四枚で……」
高か……あ、チャーター便だからか? なのに運賃後払いって……下手な商売してるなぁ。善良すぎるぜ……
「ほれ。これやるからもう行っていいよ。あ、でも手持ちにあるなら燻製肉が欲しい。」
金貨を三枚プレゼント。
「あ、ありがとうごぜえます……しかし魔王の旦那様……あっしらの商売は信用が全てなんで……それに途中で客を捨てて帰るざなんざあっしの誇りが許さねえんで……」
あらま……




