294、雨上がりの道中劇
翌朝。朝食が済んだので旅立とう。特に荷物もないし準備の必要もない。出ようと思えばすぐに出られる。私も、アレクも。
「じゃあねアレックス。ぜひまた来てちょうだいね!」
「ええ。お姉様もお元気で。」
メイド達が見てるからな。演技続行だ。
「ガストンさんもお元気で。」
「ああ。今回はよく来てくれた。また、いつか」
普通に考えれば魔王として名前が通ってる私が地方領主にすぎないガストンを訪れるのって不自然なんだよね。しかも宿泊までしてお見送り付き。まあガストンの交友関係なんてメイド達が知るはずもないから関係ないよね。
それにしても……いつぞやの真夜中に潜入した領主邸。やっぱ夜中と朝だと全然印象が違うもんだよな。さ、城門方面へ向かおう。ここから王都までも歩いていくからな。どのぐらいかかるんだろうな。
おっと、馬車だ。もう少し端に寄っておくか。
「旦那様、魔王の旦那様」
「ん?」
「あっしです。先日東の街道でお助けいただいたドムでございやす」
「おお、ボルドラに来てたのか。で、もう出発とは景気がいいじゃないの。よかったな。」
馬車もすっかり直ってるみたいだし。車軸の交換って時間かかりそうなイメージだけど、案外すぐ済むもんなのね。
「おい! 何を止めてる! さっさと行かぬか!」
「へ、へぇ! すぐ出しやす! そ、そんじゃ魔王の旦那様、本当にありがとうございやした。これはほんの気持ちで。失礼しやす!」
「ああ。元気でな。」
手渡されたこいつは……干し肉かな? クタナツギルドでよく買ってたが、これは違うな。クタナツの干し肉ってあんまり旨くないんだよなぁ。たぶん保存することを優先してるからさ。おまけにやたら固いし。
でも、こいつは……「うまい。」
何の干し肉だろう?
「アレクも食べてみる?」
「ええ、せっかくだからいただくわ。」
『風斬』
アレクは気にしないだろうけど、私が口を付けた側じゃない方を少し切り落とす。
「ありがとう。…………あっ、美味しいわね。」
だよね。干し肉ってしばらく噛んでないと味なんてしないってのに。この干し肉は三口も噛めば味がじんわりと湧き出てくる。朝からビールが飲みたくなってしまうじゃないか。朝食の時に一杯だけワイン飲んだけどさ。
「ガウガウ」
カムイも食べたいか。ほれ。一本丸ごとやるよ。そんなに大きくないけど。
「これ、バルバリー鴨の燻製ね。ただの干し肉じゃないわ。あの御者ったら味な真似してくれるじゃない。」
「へー。そうなんだ。そんなにたくさんはないけど、ワインの摘みによさそうだね。」
さっきの御者はこれを自分で作ったのか、それともどこかで買ってきたのか。アレクも唸るほどの味だし、たぶん買うと高そうなんだよな。クタナツの干し肉は安いけど。
ならば自分で作ったのだろうか? 燻製ってそんなに場所をとるもんじゃないから鴨さえ手に入れば何とでもなりそうだが。いい腕してるってことだな。ドムって言ったな。覚えておこう。ボルドラやベルグにまた来るかどうかは分からないけど。
「ピュイピュイ」
おっとごめんごめん。コーちゃんだって食べたいよね。じゃ、これをあげるよ。私とアレクが食べた残り。コーちゃんなら四口ってところかな。
ふふっ、美味しい?
来る時は馬車だったけど出る時は歩き。だけどやはり城門では待ち時間ほぼなし。アレク様様だね。
では街道を……どっちに行こう。東西南北どこでもいいが、目標は王都だからな。素直に西にしておくか。現代日本でもそうだけど、近道しようと直進してもそれが最短とは限らない場合があるからな。でも私は気にしない。行き止まりなんかにぶち当たったら飛べばいいしね。
いい天気……なんだけど昨夜まで雨だったからなぁ。足元はぬかるんでるし湿気もすごい。蒸すなぁ。少しだけ息苦しいや。
梅雨、って言葉はローランドにはないけど夏前になると雨が多くなるのは日本と同じかな。国土や周囲の海は全然似てないってのに。
「このド下手くそが! どうしてくれるんだ!」
「こんなに汚して! 何とかお言い!」
なんだ? どこかで聴いたような声だな。あらら、馬車が倒れてるじゃん。あれ? 客らしき奴らの前で地べたに額を付けてるのは……さっきの御者か?
「で、ですが旦那! こんなに荷物を乗せたら危険だと何度も……その上あのように急かされましては……」
「えーい! 言い訳など聞きとうない! この責任をどうとるのか聞いておる!」
「そうよそうよ! こんなに汚して! 台無しじゃないの!」
街道に散乱してるのは……服か? それもそこそこ高そうなドレスだ。たぶん中古かな。しかしまあ、どんだけ積んでんだよ……大した重さには見えないけど、大量に積み過ぎてバランスを崩しやすくなってたってことか?
それにしても、流行遅れのドレスなんて集めてどうするんだろ。売れるのか?
『浮身』
『浄化』
「おら、全部きれいになっただろ。さっさとどけ。目障りだ。」
こいつら気に入らないんだよな。偉そうに御者の頭を踏みつけてやがる。御者には旨い燻製肉を貰っちゃったし。
「何だ貴様? 関係ない者が口を挟むな!」
「へぇ? そこそこまともな服装してるのねえ? でも流行には鈍感そうね?」
さて……どうしてくれよう?




